第十三話 綿密な陳容
「少なくとも今は、私を殺すつもりはないでしょう?」
ディエラの言葉を聞き、男の視線が食い入るようにディエラの瞳を見つめた。
含みを持たせた確信めいた言葉が、男の求知心を擽ったのは言うまでもない。
少し機嫌が戻った故の失言だったとディエラは即座に理解する。
男は、ディエラの無言の忠告を忠実に守っていた。
質問ばかりしないで自分の頭で考えろ。それを、男は今後の質問は許さないという意味で捉えたのだろう。
先程の疑問もあくまで答え合わせ。ディエラと同様に、男の中でも質問の域には含まれないと判断した。
だから、質問はしない。
ただ、じっとディエラの言葉を待っていた。
ディエラは眉を顰める。ローズピンクの瞳が微かに後悔の念を滲ませるように揺らいだ。
男はディエラが話すまでいつまででも待つつもりだろう。それに律義に応える道理はないが、元を辿れば原因はディエラの失言にある。
「…貴方、最初に言ったわよね。気に入ってくれたか、と」
ディエラは仕方ないと言わんばかりに一度目を閉じてから、口を開いた。
『どう?気に入ってくれた?』
大広間へ入ったディエラを迎えた男の最初の質問だった。
ディエラは目覚めたときのことを思い返した。
屋敷の中で、これほどの惨劇が起きていたというのに、ディエラはその間目を覚ますことが無かった。
眠らされていたのだと、気が付くのにそう時間はかからなかった。
だが、目覚めた身体に目立った外傷はなく、拘束も無ければ、扉の施錠もされていない。
殺すつもりなら、眠っている間に既に済ませているはず。
殺すことが目的でないのなら、私に何かをさせたいのだと理解した。
廊下に出ると、その行動が正解であることを物語るように、綺麗に整備されていた。
血と死体は広がっているのに、赤いカーペットの上だけは不自然に空いている。邪魔なものを脇へ寄せたような跡は、大広間まで続いていた。
導かれるままに進んだ先にいたのは、丁寧に並べられた三人の姿だった。
「贈り物を並べて、扉を閉める。仕上げに道の整備までするなんて、相当手の込んだ仕掛けだわ」
男の質問が湧かないよう、丁寧に順序立てて説明しつつ、あくまでも簡潔に言葉をつなぐ。
男は何も言わず、短剣を握ったまま、じっと続きを待っている。
「貴方はあの時、私がこれを見たときの反応が欲しかったんでしょう?」
間近にある金の瞳が、僅かに揺らいだ。否定も肯定もしない。
その瞳の奥には、隠しきれない求知心が今もなおその炎を絶やさず燃やしている。
ならば、まだ終わっていない。この男が見せたいものも、確かめたいことも。
「なら────」
ディエラは支えとなっていた手を離し、男の方へ重心を傾ける。
傾いた軸は統率を失い、男がディエラの首筋に這わせる刃へと吸い込まれていく。
「”全て”を見届けるまで、貴方は私を殺さないわ」
ローズピンクの瞳が、愉しげに弧を描いた。




