第十二話 深淵たる求知心
そう。あからさますぎる。
この女は僕の知る限りでも長い年月、胸の内で牙をひた隠しにしていた。
僕が知り得たのもあくまで偶然。
それが無ければ、気に留めることも無かっただろう。
その女が、こんなあからさまに感情を出すのは何か理由があるはずだ。
感情が出ていたのではなく、出していた。
そう考えると、先程の行動も何となく意図が見えてくる。
男はディエラの顔から、首元へと視線を落とす。
短剣はディエラの肌に沈み、その全貌が見えることは無い。
滴る血がディエラの衣服に落ち、滲んでいく。ぽたぽたと垂れるそれは、いつぞやにレイヴンが男に見せた砂時計なるものを想起させた。
『首を見せるのは警戒心が無いことの表れだ』
記憶に紐づいたレイヴンの言葉が脳裏に響く。
男はあの時、あえてその行動をとっていた。自分がレイヴンの指揮下に置かれていないことを悟られぬよう、一芝居打っていた。
この女もまた、そうだとしたら?
男の思惑とディエラの思惑は異なる。だが、それでも男は、ディエラが思惑を抱いてとった行動だと結びつけるところには行きついた。
『ようやく続きを見せる気になったかと思ったのに』
女の言葉は何かを待っていた様子だった。
僕が短剣を握りしめたのとほぼ同じタイミングで、女は目を伏せて顔を背けた。
…それが怯えや諦めではないとしたら?
「……君、どこまで視えてるの?」
男の声が少し上ずる。
「やっとまともに話ができそうね。その頭でも使わないよりは幾分かマシよ」
男の言葉に、ディエラはようやく男に視線を合わせた。
男が問いを掛けたことへの咎めは無く、ようやく場が進展することへの満足げな笑みを浮かべていた。
*
「首を差し出したのわざと?」
「ええ。その方が話が早いもの」
再度男の語尾につけられた疑問符に、ディエラが触れることはしなかった。
脳死で発した質問ではなく、考えた末の答え合わせなら、男が無駄に話を続けることは無い。話が進むことを前提とするのなら、多少の寄り道は目を瞑った。
男の推察通り、首を晒したのは怯えたわけも諦めたわけでもなかった。
延々と問いを重ね、反応を楽しみ、そのたびに足を止める。ようやく動いたかと思えば、今度は刃を見せて、また問いかけてくる始末。
避けることも防御することもできた。男もそれを承知の上で、わざと猶予を与えていた。だが、その選択肢を取った先に待っているのは、再度訪れる質問攻めと場の停滞だろう。
最初はディエラ自身も脳内の整理と状況の把握のために、男の言動に乗っかった。男のペースに合わせ、欲しい反応を見せれば、男の情報も拾える。
そこまでは良かった。
だが、想像以上に男の興味の底が深かった。
だから、待った。
止める理由を与えず、男の描いた脚本の流れに沿うように、狙いやすいよう首まで晒した。
それなのに、男はまだ喋っていた。本当に良く回る口だと内心で皮肉を零すのも無理は無いだろう。




