第9話 屍を越えて
龍帝と敵がいる空域では激しい戦闘が繰り広げられていた。上空へ飛行を開始してもまだその空域には辿り付けない。理由は私たちが元々いた基底現実での物理法則が異なるということだ。この空間はもしかしたら独自の世界を限定的に構築しているのかもしれないと私は認識している。
「ライブラリにアクセス、対未確認存在への兵装申請」
『受理:対未確認動態飛翔体への最適解に接続:ウェポンストラテジー計画実行・完了』
「よし、これで武装と防御共に完了」
「ルナ、間もなく戦闘している空域に突入する。気を抜くなよ」
「了解!」
戦闘空域に突入した。衝撃の轟音に大気が目視で検知無しに歪んでいるのが確認した。しかも、龍帝と敵は光速または同等の速度で激突していると見える。物質が光速で移動し直撃をすると凄まじい衝撃波を生むが、この衝撃波の規模では小さく感じる。空域に黒い閃光と衝撃波が同時に複数箇所で発生している。
「私も参戦するよ!」
視覚操作で飛翔体2体を確認。
「捉えた! みーっけ!」
「小娘、ようやく来たか」
「苦戦しているようだけど、手伝いに来たよ」
「不遜なルナ、我を甘く見るではないぞ」
「で、戦況は?」
「敵は間違い無く、愛国者の手先だろう。会話を試みようとも敵が応答しない。何かしらの生命体という可能性とただのゴーレムという線もある」
「ゴーレム? 機械生命体みたいなものかな?」
「そうかも知れんな。だが、敵意という意思は確認出来る。しかも、奴は我の咆哮を片手で受け流した」
「龍帝の咆哮を?」
有り得るか? 龍帝がこの基底世界において制限が強制的に掛けられているというのは事実だ。それを差し引いても私のリミッターを一時解除してようやく沈黙出来る存在が、基底世界でそうそういるとは思えない。それが龍帝が愛国者の手下という判断の根拠に至る理由だろう。油断は出来ない。
「イフ!」
「もうやっている! 敵の行動パターンを解析中。同時にどの愛国者の分類に入るかもライブラリへ確認中。少し時間が掛かる」
「了解! 頼んだよ、イフ」
「敵の素性は現時点では不明ということだな」
「そうだね、ただ、愛国者の手下という可能性が濃厚ということであれば話は別だ。広く調べる必要はない。愛国者に絞って過去の膨大なライブラリデータから検索させてるとこ」
「なるほど。では、参ろうか」
「おう!」
敵が攻撃を繰り出す。斬撃、いや、空間を斬り裂いている。間一髪で回避に成功し、右手に換装したミサイル発射し直線上へ爆炎を昇らせた。通常の物質生命体であれば、これで蒸発して決着だ。だが、物質を蒸発させる爆炎にいながらも敵が動いている。しかも、ダメージがまるで通っていないような動きだ。何の物質で構成されているのか興味が湧いたが今はそれを考える余裕はない。
爆炎から敵が出たと同時に龍帝の咆哮が直撃し、遙か下に見える大草原へ咆哮の攻撃が直撃した。私たちがいるこの空域まで一瞬で爆炎を昇らせた。衝撃波で大草原は荒れた大地へと化した。いたるところで炎が立ち上っている。
「この敵、かなり硬いな」
「うむ、だが、動きは鈍くなっているようにも見えるし、余力を残しているようにも見える。我が思うに後者か」
「嘘でしょ、この攻撃を受けても余力を残しているって言うの?」
「敵は生命体でなく、ダメージを受けない存在なのかも知れぬ。我の世界にも似たような存在はいた」
「まぁ、私も過去に何度か心当たりはあるけど……」
「ルナ! 結果が出たぜ! 敵の正体は天使だ。しかも、大異端審問官に該当する。識別クラスはレベル2相当。危険だぜ、かなりな」
「大異端審問官とは、塔の関連は無いってメンテ言ってたけれど嘘だったってこと?」
「それはありえねぇな。メンテは確かに塔の番人だったが、この天使とは無関係だ。識別パターンが異なるのと、最後のメンテとの会話は全てライブラリにアクセスした状態で行っていたから愛国者と関連のある存在であればライブラリが拒絶する仕様になっているしな」
「小娘、敵の正体がわかったようだな」
龍帝の声に確認と確信が込められていた。
「ああ、愛国者の手下だ。位列は大異端審問官級だ。基底世界と管理者を繋ぐこの塔を別の意味で守護している存在、いや排除する存在だ」
「なるほど、では、メンテはやはり機能を停止したか」
「うん、残念ながらね」
「では、裁定者とやらも我らが見た時点、いや、遙か以前に機能停止していたまたは故障したという認識か」
「龍帝の言う通りだよ。確実に裁定者は愛国者によって機能自体を破壊されている。辛うじて機能しているように見せていたのは、私たちのようなアクセスを試みようとする存在がいようとするものを排除する目的があった可能性が極めて高いね」
「そうか、では、敵を掃討しこの空間から現実の世界へ戻るぞ」
「ああ、行くぞ」
龍帝と共に地面でこちらを見上げている人型の何かがこちらへ顔を向ける。表情は変わらないが、不気味さが一気増した。龍帝は言った敵は余力を残している可能性があると。ダメージが通らない存在であると。
ならば、どうやって倒すか。今までやってきた通りのやり方で倒すしかない。レベル2相当の天使になると、能力も個体の数値もレベル1の天使とは桁が異なる。いや、別種の何かだ。このような類いの天使を倒す時に必要なことは一つだけだ。存在ごと消すしかない。
『受理:ウェポンストラテジーサーチ・対レベル2級天使最適解に接続完了』
右手に砲台が換装され、放たれた。
『ディラック・バスター』
衝撃が全身を包み込む。同時にイフからの通信が入る。敵消失確認完了。衝撃波が止み終わった時、私たちは裁定者と出会った場所にいた。
「ここは?」
「うむ、あの空間が崩壊しここに戻されたということか? 小娘、あの敵は確実に倒したのは間違いないようだな」
「私を舐めないで、私はずっと愛国者と戦争しているんだから。大丈夫、あの天使は私の攻撃で空間ごと消失させた。イフに確認済みだから間違い無い」
「ああ、ルナの言う通りだぜ。俺がしっかりと敵さんの消失を確認済みだぜ。ただ、あの空間が何だったのかが謎だ」
「確かにね。あの空間は戦闘用の空間だったのかな」
「我にもわからぬ。ただ、空間自体からは敵意は感じなかった。もしかしたら、そこの裁定者とやらが手助けをしてくれたのかも知れぬがな」
私は裁定者を見た。最初に見た姿とは異なる。朽ちた何かが人型の女性らしき形をしたあった。
「あれ? 確か、裁定者ってここに来た時はまだ綺麗な状態だったような」
「ルナ、時間軸には影響は無いようだぜ。恐らく最初から裁定者はこの姿だ。つまり、最初に見た裁定者とは違うという認識を間違って見たのは俺たちの方ってことさ」
「嘘でしょ? 私の計測には何にも変化や異常値は出なかったよ」
「俺もだぜ。それに龍帝の旦那もそうだと思うぜ」
「ああ、我も裁定者とやらは綺麗な状態のままだった。今のような抜け殻にはなってはいなかった。それと、イフの言う通り、我らの時間軸が大きくズレたまたは別次元に飛ばされたという形跡も無いのを我も確認した。ここの状態は最初からこの状態だったということだ」
「信じられない」
「さて、これからどうするかね。裁定者が機能していないとなるということは、塔そのものが機能を遙か昔に停止したということだ。恐らく門番も機能していないだろうな」
「我もここから交信を試みてはいるが、そもそも我の問いかけに対して返答が無い」
「塔が機能を停止しているんだったら修理するって線はどうかな」
「それは無理だぜ、ルナ。一応、ライブラリ経由で塔の全体の機能に接続して状態を確認したが、この塔はもう既に生きちゃいない。ただのそこらへんにある瓦礫と同じになっちまってる」
「では、どこへ我らは向かう」
「そうだな、この塔の頂上を目指すのはどうだ? この塔の状態を確認した際に、広大な空間と建築物を確認んしたぜ」
「つまり、この塔は支柱での役割をしていたということ?」
「そこまでは俺でもわからないぜ。ただ、この塔は巨大かつ超々距離の高高度建築物だ。外側から回るよりは塔内部から進んだな方が安全なようだ」
「外の方が、光速移動出来るのに、敵がいるってこと?」
「ああ、ビンゴだぜ、ルナ! 別の識別パターンの天使が周回している記録が大昔だが塔に記録されているようだぜ」
「なるほど、いちいち相手にしているというのは面倒だな。イフよ、ああいう天使の類いはどの程度の強さまでいるのだ?」
「ああ、天使は大きく分類して識別パターンはレベル5までとされているぜ。それ以上の確認はライブラリにしか記録がないが、もしこの記録が正しければレベル10までいることになる。だが、俺たちは最大値でレベル4までしか対峙したことがない」
「そうか、で、そのレベル4にお前達は勝てたのか」
「辛勝っといったところだ。勝てたのが奇跡と多大な犠牲の上に成り立っているのは間違いないぜ。だが、その戦闘の学習データがあったからこそ今のルナと俺たちがいるってことも間違いない事実だぜ。だから、俺たちはあの辛勝した頃よりも遙かに強くなっている。そして、今回の戦闘でもだ」
「なるほど、学習して強くなるか。やはり、お前達は見込みがあるな。我の背中に乗れ」
「お、また乗せてくれるのか!」
「光如きの速度では時間の無駄だ。とっととこの塔を突破するぞ」
「おう!」
ひょいと龍帝の背中に乗り鱗をわしっと掴んだ。
「では、征くぞ!」




