第10話 星々の銀河
龍帝の周囲に光、いや、これが魔力というものなのか。見たこともない未知の物質が検知されていく。
これまでの戦闘で龍帝が魔法や何かしらを発動していた時に検知したデータはあったが、それが具体的に何を示すのかまではわからなかったが、イフとの協力で解析に成功した。
この基底世界には存在しない未知の物質だ。これを魔素子、魔素とでも呼ぼうか。私たちを魔素が包み込む。
「次元を超えて移動するの?」
「いや、今回からは次元移動はもうせぬ。また、干渉してくる奴らがいるとなるのであれば、方法を変えねばならない」
「そしたら、今度はどういう移動で塔の上を目指すの?」
「俺も気になるぜ」
「まぁ、見ておれ」
『現因再定義』
無数の光の柱が、龍帝を囲むように聳え立った。光の神殿のようだ。小声だが、何かの声を検知した。
「これは言葉?」
「小娘よ、これは詠唱だ。我の周囲には精霊が宿り、それらが我の魔力に反応して、この世界に存在していないはずの自然へ語りかけ発動しているに過ぎない。その声はこの世界の声と認識してもいい」
「おお、俺も世界の声とやらを初めて観測したぜ。これは凄ぇぜ」
「これからどうやって移動するの?」
「多次元とかの移動法になるのか?」
「どちらも異なる。移動とは我らが向かうのでは無く、既にその場の目的地に自分が最初から存在していたという因果率を書き換えるだけのこと」
「嘘でしょ? 龍帝も因果率を操作できるの?」
「龍帝の旦那、底知れないのはどちらの方だぜ」
「振り落とされるなよ」
光の柱が大きく私たちを包み込んだ。精霊たちの声が多く聞こえ観測した。これが世界の声、どの言語体系にも属していない未知の世界の言葉。
「着いたぞ」
「本当に着いたの?」
「ルナ! 本当に塔の上に俺たちはいるぜ。塔の情報が真下の構造物越しから感知出来た。この一瞬で因果率操作して移動するということはどういうことなんだ。いや、これはルナに応用出来るか?」
「因果率操作なら私たちでも出来るよ! 移動という発想はなかったけどね。龍帝と行動するだけで新しい発見があるね、イフ」
「ああ、本当にそうだぜ」
「小娘、この世界は本当に巨大な構造物に囲まれているのだな。これだけの膨大な距離を移動したとはいえ、この建築物は誰が創ったものなのだ?」
「私にはわからない。私が生まれた時からこの世界はこの姿だった。だから、この世界以前の世界についてはライブラリへアクセスした時に見られる太古の映像でしか見ることはできないんだ」
龍帝が不思議そうな顔をした。
「何?」
「小娘は草原を知っているかのような口ぶりではなかったか?」
「それはね、ライブラリで昔観た映像の記録から知識として知っていただけだよ」
「では、かつてはこの世界には草木があったということか」
「そうかもね。そうだと私は思いたいし、もしかしたら、基底世界はとんでもなく広いから、きっと世界のどこかにはそのままの自然が残っている気がするんだ」
「そうか。我がいた世界とは随分、異なる世界だということはよくわかった。我はまだ力のほとんどが制限されているが故に調整者と接触をしなくてはならない。愛国者の邪魔が入るまでに」
「わかっている。まずは、ここを移動しよう」
「行き先に心当たりはあるのか?」
「無い。だけど、常に広域に地形をリアルタイムで把握しているから移動していれば何かしらの情報は得られると思うの」
「そうなのか、イフよ」
「おう、龍帝の旦那。ルナの言う通りだぜ、俺も周囲にアクセスしながら地形把握と施設がないかの確認、そして、今までの類似する建造物または同種の機能を備えた設備等も含めて広く調査しているぜ。それと、コイツらを無数の広範囲に飛ばしてある」
「目に見えぬが、何かを感じるな。これらは何だ?」
「コイツらは、量子索敵自動装置と呼ぶ索敵装置だ。俺が今、創作した」
「ほぅ、イフは便利なものを作れるのだな」
「ああ、俺の力は周囲にものや核または素材があれば何でも生み出し創造が出来る機能を備えている。ルナが損傷した時の修復等も俺の担当なんだぜ」
「なるほど、それで小娘からは複雑な生命反応がするわけか」
龍帝は私を見ながら合点がいったという視線と表情をした。私の身体の構造はこれまでの戦闘で9割以上を別の構造物で再構築しているため、その時の構造物がノイズにならないように活かした状態で体組織に組み込まれている。
だから、大昔の当初の私よりも今の私の方が頑丈だし、おかげで多くの武器や能力等の機能を使えるように出来た。
「私はね、常に進化しているの。そうでなきゃ、愛国者には勝てないからね」
「——そうか、そうだな。小娘、これからのことはどうする?」
「そうね、無闇に移動とはいかないから、周囲を警戒しつつ建造物や施設がありそうなところを索敵しながら進みましょうか」
「わかった。我に乗り移動しよう、その方が早い」
「了解!」
龍帝の背中に乗ったまま、移動を開始した。
高速で移動しながら周囲を観測する。
「この空気、不思議な感覚がする」
「小娘、気づいたか。恐らくあれだ」
龍帝が首で方向を指し示す先には、小さな光の川がらせん状に宙を舞って流れていた。
「星河の落涙だ。初めて見た……」
「あれは珍しいものなのか?」
「そうだよ、空間が圧縮された状態らしいけど、あの規模だと天体よりも巨大な空間が圧縮された状態なんだろうね。私の計器類にもライブラリに記録されている数値と同等かそれ以上の数値が出ているね。綺麗だけど、近寄るのは危険かな」
「なるほど。あれからは魔力を我は感じる。別世界へ通じておるのかも知れぬ」
「龍帝がいた世界と繋がっている可能性があるという意味?」
「いや、我がいた世界とはまた別だろうな。世界は数え切れないに分岐して進化して広がっている。この世界もまたその一つ。だが、世界を跨ぎ移動するというのは限られたものしか許されておらぬ」
「愛国者か」
「そうだ。愛国者について知っている情報を知りたい。アイツらはいつからこの世界にいると記録がある?」
「ずっと昔。私が生まれるずっと昔から戦争している。だけど、龍帝がいた世界へ侵略戦争を仕掛けたという話は今回が初めて。私たちが知らないだけで、多くの世界が犠牲になっている可能性は充分にあると思う」
「この世界が歪んでいる状態というのは、我が推測するに多世界へ侵略戦争を仕掛けた結果起きた現象とも言えるかも知れぬな」
龍帝がとんでもないことを言い出した。だけど、声のトーンは真面目そのものだ。
「言われてみれば、そうかも知れない。この世界が歪んでいるのも、不自然な形で広大化を続けているのも他の世界を吸収している証拠なのかもしれないね」
「我の話は仮定の話だ。我の権能による推測した仮説に過ぎない」
「龍帝は最上位のドラゴンって言っていたけれど、神様とどっちが強いの?」
「愚問。我の方が強いに決まっておる。神は武力ではなく統治が専門だからな」
確かに言われて見れば、神様ってライブラリの記録では、人を導くとか教えるとか道を開くとかのは話が多い。統治という言葉は広い意味で龍帝はそう解釈しているのだろう。
では、この世界にとっての神様はどうなっている? この世界が歪んでいるということは、愛国者がこの世界の管理者になっているということ? もしくは、神様と呼ばれる存在が機能していないということ? でも、天使と私たちが呼ぶ存在がいるのはどうしてなんだ?
「龍帝は、この世界には神様はいると思う?」
「いるだろう。だが、不在とも言える」
「不在ってことは、どこかには存在しているってこと?」
「裁定者という存在や、交信する存在を阻むということは逆に言えば、この世界にも神はいるという証明でもある。だが、我が思うに神は恐らく愛国者と拮抗している状態にあると思われる」
「争っているということ?」
「そうだ。その証拠に世界は歪んではいるが滅んではいない。神または愛国者と呼ばれる存在が維持し管理しているとみて間違い無いだろう。この世界を管理するには極めて高いコストを強いられる。通常の世界でさえ管理が大変なのに、超自然が当たり前のように周囲で起きている。通常であれば、我と小娘の戦闘だけでも他世界であれば用意に殲滅し世界法則を破壊しかねない。だが、この世界は意に介することも無く平然と維持している。これが不自然な形であると我は思う」
星河の煌めきを見ながら、龍帝の言葉の意味を咀嚼した。この世界は歪であり、不自然な形をしてはいるが、奇しくも神と愛国者がこの世界を維持し管理している可能性があるという解釈が出来るという事実が、龍帝と出会う前までの私たちの歩んで来た歴史の記録でも合点はいく。
だが、確定ではない。愛国者は人類いや、この世界にとって敵なのだから。
「龍帝、結論を出すにはまだ早い気がすると私は思う。確かに龍帝の推測した仮説は的を得ているし現実的な着地として正しいと私も思う。ライブラリを介さずにもそれくらい理解出来る。だけど、何か情報が足りないか欠落しているような気がするんだ」
「ほぅ、興味深いな、それは。見落としがあると?」
「その可能性も充分にあるって意味だよ。断定するにはまだ早いのもまた確か」
「そうだな。この話はまた追って議論を深めよう」
「うん、そうしよう」
龍帝が反応を見せた。
「なんだ、あれは?」
「あれは……!」
「これは融星鯨だぜ」
構造帯という物質をまるで液体の中で泳ぐ生き物たちがいる。その中で、珍しいものとされるのが、このクジラだ。
星々の銀河に招かれたのか、生息していたのか不明だが、こうして実物を見られたのは、それもまた奇跡のような瞬間に私たちには見えた。




