第11話 揺れる都市
クジラが1匹だけではないようだ。群れで行動していたようで、多くのクジラが暖色色の光体を纏いながら構造帯を泳ぐ。
「物質を泳ぐクジラかぁ、なんだか幻想的だね」
「そうだな。融星鯨の生態系については謎が多い。いつから種としていたのかは遙か昔の記録にも記述されているから太古から変わらない存在なのかもな」
「あれは、精霊の類いか?」
「どうだろう。私たちは、そもそも精霊というのを知らない。さっき、龍帝の近くで感じ取れたぐらい程度の知識とか体験しかない。あのクジラが精霊かと言われてみればそうなのかも知れない」
「あれからは、精霊に似た気配を我は感じる。この世界にとっての精霊の類いなのかも知れぬな」
「そうだといいね。私もクジラを見るのは初めてだから感動しちゃった」
「これはライブラリに記録だぜ」
「そうだね! イフ、しっかり記録とっておいて」
「おう!」
龍帝の背中に乗りながら高速で移動していたが、クジラたちもかなり高速で見た感じよりも動いていることがわかった。重力の影響なのか、クジラ本体の特性なのかまでは不明だ。ただ、温かい光に包まれたクジラたちが鳴き声を上げながら物質を優雅に泳いでいるのは幻想的だった。
「小娘、上昇するぞ」
龍帝の言葉と同時に私たちは上昇した。目線の遠い先には構造帯が続いていた。この構造帯はどこまで続いているのだろう。ライブラリにもその記述や成り立ち、誰が建築したのかも記されてはいない。ただ、建築物が連続して続いているのだ。
「龍帝の旦那、この階層を抜けるってことで?」
「ああ、上に何か気配を我は感じる」
「気配? 何か、上にあるということ? 私には何も検知しないな」
「俺もダゼ! この距離なら波長で構造帯の空間構造を把握出来るが上に、気になるような類いのものは俺にも拾えなかったぜ」
「うむ、我にだけ感じるということか」
「何があるの?」
「わからぬ、モノというより状態というのが適切かも知れぬ」
「状態ということは、何だろう。空間が歪んでいるか、重量場が崩れているとか? いや、それじゃ、私のほうが早く感じ取れるか。なんだろう」
「あの構造物の隙間から上へ上がるぞ」
「ちょっと、打つかるって!」
龍帝は速度をぐんぐん上げて行く。光が帯びて線になっていく。網膜に表示される数値が光速を越えたと示す。全身にパチパチと粒子が衝突する音のようなものが響く。そして、光の帯は元の景色へと収束して戻った。
「着いたぞ」
龍帝が地面に着地した。
「これは、都市か」
目の前には巨大な城壁都市が築かれていた。私の探査検知には何も引っかからなかった。
「おおっと! こりゃ、たまげたぜ。俺様の探査装置にもこの都市の情報を拾えていなかったぜ」
「龍帝は、ここに都市があるって気付いていたの?」
龍帝は少し間を空けて口を動かした。
「いや、我にもそこまではわからぬ。だが、我と似た存在または状態を感じたのだ」
「さっきも状態とか言っていたよね。ここの空間は確かに私たちの探索や検知からも引っかかことがなかったと見るに特殊な場所というのは間違いなさそうだね。だけど、不思議だね。都市には光が灯っているのに生命体の反応がない」
「ああ、ルナの言う通りだ。この巨大都市と言っても良いと思うが、灯りや動力の反応があるにも関わらず生命体の反応が一切、俺にも検知できなかったぜ」
「ふむ、もしや、結界の類いで防いでいる可能性はあるだろう」
「結界? それは身を隠すという意味だよね。ということは、愛国者から身を隠しているということかな」
「どうだろうな、我にもわからぬ。だが、生命体がいそうな気配はあるのに生命体の反応がないところを見るに何かしらの存在がいる可能性は高い」
「龍帝の旦那が言う通りだぜ。この広大な都市全域に特殊な膜が形成されているぜ。攻勢防壁を兼ねている可能性があるか、または罠を潜ませている可能性が高いぜ」
「イフの解析通りなら慎重に行動する必要があるね」
「いや、それは必要無い。この結界には反撃する意思はないようだ」
龍帝が突然言い出した。
「もしかして、結界と対話しているの?」
「小娘、言ったであろう。この結界は状態の類いかもと感じたと。ならば、その状態とやらに法則性や意思が宿っている可能性は極めて高い。それが分かれば我には充分だ」
「龍帝の旦那、この結界には意思があったのかい?」
「意思というよりかは、思念の集合体のようなものだ。イフのような存在に近い感覚を受ける」
「量子生命体反応?」
「俺と同じ存在または似た存在というわけか、これまでの長い旅でそんな出来事には出会ったことは無かったぜ。つまり、ここはかなり高度な文明がある都市って認識でいいわけだ」
「うむ、我もそれは思う。それに、我らが気付いたということは向こうもこちらの存在を認知しているはずだ」
「警戒しないようにってことだね」
「周囲の索敵と警戒は俺に任せとけ!」
龍帝の背に乗りながら、都市の門らしきところへ向かった。建築様式は要塞都市で見たような堅牢なものだ。ッ材質まで私が知る物質ではない。数歩先には結界が張ってあるのが、虹彩フィルターを切り替えて視覚化することに成功した。ライブラリへアクセスしながら解析を進める。
「この結界、かなり複雑だね。結界というより封印に近いのでは?」
「ルナ、その感覚は正しいぜ。これは都市では無くて何かを封印している場所ではと俺も同じ回答だぜ」
「そうか、ここに何かが封印されておるのか。ならば、遠慮はいらんな」
「龍帝何を?!」
龍帝がふぅーっと結界に向けて白い息を吹きかけた。
『究極解錠』
結界に龍帝の白い息吹が軽く広がると同時に溶けるように霧散した。
「え? え? 龍帝、一体何をしたの? 複雑な結界が簡単に霧散したんだけど?!」
「小娘よ、この程度の封印結界如き我にとって解錠することは造作も無いこと」
おいおい、このドラゴン何でもありかよ。これで制限しているとか、本当なのか? 確かにこの結界は複雑で私の力であればイフとの共同作業になるが解錠するのには、それなりの時間がかかる。それを龍帝はたった一瞬の恐らく魔法だと思われるが、たった一回の一瞬で解錠してしまった。
「龍帝の旦那、この結界には俺のような意思は無かったのかい?」
「あったが、対話には成功した。だが、急ぐ必要があったため強制的に解錠させてもらった」
「急ぐ必要って何があったの?」
「我が言うより、小娘らが見た方が早い」
私たちは急いで都市中央へ向かった。街並みは綺麗で窓からは光が灯っている。だが、生命体の反応はない。しかし、気配はあるという状況。生命体がいれば都市の詳細とかを聞きたいところだけど、どの周波数帯でもその気配とは会話は出来なかった。
なので、イフの量子周波数帯で会話が可能かを多元的に分析と解析、実行を試みている。龍帝とは何かしらの手段を用いて対話が出来ているのだ。私たちに出来ない道理はない。ただ、まさか基底世界に魔法が存在していたとなった場合には話が変わってくるだろう。それならばお手上げだ。
「龍帝、あそこが中央かな?」
「だろうな。更に結界が施されているようだ」
「ここは要塞というより封印用の施設だったりするかもな」
「イフの推論と龍帝が言うことを照合させると、確かにその線が高いかもしれない」
「間もなく、中央だ」
龍帝の言葉の通りに都市の中央のビル群に辿り着いた。王城のような佇まいと荘厳さの空気を湛えていた。
「この結界も龍帝は解錠出来る?」
「ああ、問題無い」
龍帝は、今度はふぅーっと結界に向かって黒い息を吹きかけた。
『絶対解呪』
黒い息吹が結界全体を瞬く間に包み込み、泡のように爆ぜ消えた。
「これで結界は完全に無い」
「龍帝の旦那、凄いぜ」
「こんな複雑で重厚な結界を一瞬で、これが魔法か」
イフと共同作業で魔法についての研究を続けているが、そもそも魔力の素になる粒子が、この基底世界では少なすぎる。私の力で書き換えることは可能だ。
だが、龍帝のようにその場で高度かつ複雑なものを解錠することは技術以前に龍帝の存在自体がこの世界にとって異質だから成り立つのだろうと私たちは理解している。
「ここが、目的地ですかい?」
「我はこの建築物から強い反応を感じられ呼ばれている。ここで間違い無いだろう」
「よし! 善は急げだ。行こう!」
私たちが巨大な扉前に近づくと重厚な扉が幾重にも開いた。まるで金庫だ。いや、ここには何があるんだ?
「白い床に壁だ。研究所かな?」
「この壁の素材は、ライブラリには該当しない物質で構成されているぜ。人工で作られたものなのか。ここには高度な文明があった証拠だぜ」
「我も同意だ。ここは今までとは異なる。まるで、別の世界のもののような」
「別の世界? もしかして、愛国者との関連があるってこと?」
「どうかな。小娘よ、敵は愛国者だけなのか?」
「それはどういう……」
地面が大きく揺れる。地震? いや、攻撃されている?
「ルナ、外部から攻撃されているぜ! この結界を解錠したタイミングでとなると誰かが解錠するのを待っていたようだ。しかも、俺が都市内外に設置した探査機達が攻撃した対象を現在特定中だぜ」
「イフ、ありがとう! 引き続き、解析を進めて」
「小娘、行くぞ。敵の狙いがこの都市であるということであれば、敵の目的も我らと同じのはず」
「でしょうね。敵が来るまでに奥にある何かと接触しましょ!」




