第12話 甲種素体
都市全域が大きく揺れている。この建築物の耐震性がどの程度あるかまでは構造上のスキャンをした段階では建物全域までを精査することは出来なかった。建築に使用されて材質が私のスキャンを通さないからだ。
そして、この構造物はかなり古いものということだけは確実に年代測定で把握した。私自身よりも長くある都市だ。何万年以上も存在していることは確かだ。
「イフ、どのくらいで目的地まで到着でそう?」
「ああ、この都市は俺たちの量子光学を通さない物質だから全体をスキャンは出来なかったが、おおよその位置と座標は特定したぜ。網膜に経路は表示させた」
「ありがとう」
「小娘、案内を任せる」
「龍帝、私の後についてきて全力足で行くよ」
入り組んだ白い廊下を高速で移動した。都市全体を揺らす攻撃は今も続いている。反響音とイフが都市内外で動かしている探査機の情報が網膜と脳内に情報が流れ込んで来る。映像も確認出来た。廊下を移動しながら、外の様子を確認。
「これが攻撃している正体?」
「ああ、ルナの推察の通り、敵は愛国者が寄越した存在だ」
「この外見、天使じゃないわよね」
「そうだぜ、かと言って愛国者本人というわけでもない。恐らくだが、愛国者を支持する同調者の可能性が高い」
「同調者って、あの?!」
「ああ、愛国者の次に力と影響力を持つ存在たち。過去にライブラリからの識別パターンと一致する」
「ここに同調者を送り込むということは、相当、この都市が邪魔ってわけだね。ここに何があるんだろう」
「同調者を送り込んできたということは、アイツらたちにとって危険な存在だということだ」
「我らも急がねばならないな」
「うん!」
間もなく、昇降フロアへ侵入に成功した。ここまで都市からの攻撃や妨害等は一切無し。このフロアに入った瞬間、下降を始めた。
「イフが操作したの?」
「先回りして操作しておいた」
「厳重だな」
龍帝が下降していく上を見上げると隔壁が幾重にも閉じられていくのが見えた。しかも、全ての隔壁が異なる材質で未知の物質で構成されている。あれらを破壊することは簡単とはいかないだろう。
だが、同調者であればどうか。愛国者と同様の力を有していれば容易いし、天使の識別パターンレベル3以上であれば時間の問題だ。下降してく中で、外の映像を観察する。この短い時間で大都市の半分以上が半壊している状態になっていた。
「イフ、この都市には攻撃機能とかは無かったの?」
「あるが、何をしても起動しないようだ。古過ぎるのが原因じゃないかと俺は思っている。結界内で時間停止されていたってわけでは無さそうのと、緩やかではあるが侵食がいたる箇所で確認にされた。老朽化には未知の物質でも完全に防ぐのは困難だったってことさ」
「そしたら、ここが陥落するのも時間の問題?」
「どうかな? ルナも見ての通り、ここの物質は未知の素材だ。俺たちが今まで見て来た素材とはまるで異質だ。しかも、これらを人工でこの都市の住人たちが生み出した可能性がある。都市内部の物質も確かに未知の物質ではあるが、同調者らによって破壊されているのを見るに完全に壊れないものではないということも証明された。だが、同調者ほどの存在でまだ半壊の状態で済んでいるのはかなり頑丈な物質であることは間違い無いだろう」
「確かにそうだね。なら、この私たちがいる構造物は更に強固な作りになっていると思う?」
「ああ、間違い無いぜ」
「なら、まだ少し時間に猶予はあるね」
「小娘、どうやら到着したようだぞ」
下降したフロアが止まった。大きな開閉扉幾重にも開き、その先には白い大きな廊下が一直線に繋がっていた。
「急ごう!」
高速で移動して、目的の場所に到着した。
「ここから反応があるな。我が開けよう」
「待てまて、ぶっ壊すつもりだろう。どんなトラップがあるかわからないのに」
「小娘、ならどうする。敵は真上まで来ておるのだぞ」
「大丈夫、私に任せて!」
ここに来るまでに都市全体をスキャンし、イフ経由で都市構造帯全域にアクセスを掌握した。解析不能な箇所も多々あったが時間が掛かるものはバックグラウンドにて同時多重並列解析で走らせて、それでも不明な点は私自身の機能で予測して解析を完了した。
つまり、この目の前にある、この都市にあるどの重厚な扉よりも頑丈に出来ているものを開けることが可能ということだ。
「ライブラリにアクセス。解錠請求申請」
『受理:ライブラリより防禦隔壁権限剥奪特例処理を実行:完了』
厳重に施錠された隔壁が鈍い解錠音を響かせながらゆっくりと開いた。
「ほぅ、小娘、さすがだな」
「この程度ならもう私にも簡単に解錠出来るんだから。さて、中に何があるのかな?」
踏みしめる音がした。破片? 瓦礫? ガチャリと重なる音が部屋中に響く。私たちが入室すると同時に広い空間に光が灯った。
「あれは何だ? 人か?」
龍帝の言葉に耳を疑った。龍帝にはあれが人に見えると言う。
「あれは、人じゃない。愛国者だ」
「何?」
龍帝の言葉には、極めて濃い殺意が込められていた。それは無論、私に向けてではない。その目の前に厳重に拘束されている存在の確認と認識が同時に成されたという事実に対して龍帝は殺意を向けている。
「小娘、何故平然としておる。我らの敵を目の前にして何故、冷静さを失わない!」
「龍帝もわかっているでしょ? もうこの存在は死んでいる」
「では、なんだ。その存在から発せられる言葉は?」
「それは多分、愛国者を呼ぶための救難信号だと思う。つまり、この愛国者を救出しに上では大規模な戦闘が起きているということだ」
「何故だ」
「何が?」
「何故、小娘は平然としておる」
「わからない。だけど、この愛国者からは、私が敵としている愛国者とは違うような気がするからかも知れない」
「意味がわからんな。それは愛国者ではないということか? それとも、死んだから別モノになったとでも?」
「いいや、龍帝、思い出して欲しいんだ。龍帝が見た愛国者ってどういう存在だった? 人型だった? 違うでしょ? そう、愛国者という存在を直接目視で確認またはいかなる力や機能を用いようとも認識が見る者によって異なるのが愛国者。なら、どうして私たちはこれを全員が人型の愛国者だと認識出来るのか」
「……それは、愛国者にとってマズい存在か」
「そう、だから都市全域が守護者として機能していた。この都市を建築した存在らは何かの方法で、この愛国者を撃退または確保しここで研究して封印していたという可能性が、現時点でのこの都市に現存する全ての情報と私のこれまでの膨大な愛国者らの存在の情報を照合させた結果がこれは愛国者を打破する為の鍵だと示している」
「ほぅ、では、何故、ここの住民や存在はこの都市を放棄した。何故、強固な結界と物質だけでこの存在を封じたのだ。何故、戦闘をしようとしない」
「きっと、ここにいた存在は私のような永劫を生きる私のような完全人では無かったということと。戦闘において愛国者たちから身を守ることに全振りした結果の果てがこの都市を形作っていると私は答えを出した。戦うだけでは戦力が足りない。だけど、当時のここに居た存在は守りに関しては当時の愛国者たちの上を言っていたのかも知れない。完全な隠蔽に近い程の守りを築いたのだと私は思う」
龍帝の様子には先程までの濃い殺気は込められていない。冷静さを取り戻していた。
「ならば、その死した愛国者らしき残骸をどうする?」
「私たちの糧にする」
「どういう意味だ?」
「愛国者にとってマズいもの。それは対抗される手段の手札が増えることの危機管理の徹底に他ならない。ならば、この愛国者だったものを私たちの糧にして迎撃する」
「可能なのか? この短い時間で。同調者とやらは間もなく直上に来るぞ」
「大丈夫、この存在と出会えたことが奇跡だ。愛国者を知る手がかりにもなる、イフ」
「あいよ! バックアップは任せておけ!」
「頼むぜ、相棒!」
「イエス、マム!」
「ライブラリにアクセス、対愛国者解析申請」
『受理:甲種素体情報抽出及認可処理開始:実行……処理中……』
「なんだ? 小娘に何が起きた? 拘束された愛国者が消えていく」
私の全身を中心にあらゆる解析言語が舞う。龍帝が魔法を扱う際に見せた術式言語と似ていることだろう。だが、この言語を龍帝は知らない。この言語すらも龍帝の力を持ってすれば理解することも出来るのかもしれないが、それを実際に実行し活用するとなると、この基底世界の理解が必須だ。
そして、今、私は愛国者を理解するというこの戦争が起きて以来の長い歴史に大きな動きが出る瞬間に私はいる。
『ライブラリから応答:処理完了。甲種素体情報換装完了報告』
「ルナ、換装完了だぜ。意識はあるか」
「問題無い。これで私はこの素体を土台にした上でさらに強くなった」
「小娘に何が起きた?」
「龍帝の旦那、簡単に言うとここにあった愛国者を分解し吸収してその力を取り込んだってことだぜ」
「フハハッ! 何でも有りなのだな、小娘は」
「私はもう以前の私とは段違いに格が異なる強さになったよ」
「では、共に同調者とやらを迎撃しようではないか」
「慣らし運転には丁度いい!」
「行くぞ!」
「うん!」
龍帝と一緒に、天井にある構造帯ごと破壊すると同時に地上へ出た。眼下には同調者を確認。映像と認識が異なる。人型というより多足型の何か。同調者もこちらを確認。視線が交差した瞬間に地表が爆ぜる。




