第7話 初めての魔法
人型の何かが攻撃をしてきた。
「おい、言葉を通じるか!」
「……」
「言語サーチ、周波数帯域確認申請」
『受理:ライブラリサーチ:該当あり。設定開始終了』
「よし! お前、言葉通じるな!」
「なんだ、言葉が通じるとは、お主ら何者か」
「私たちはこの世界の管理者へ交信を試みようとする者だ。戦闘は避けたい」
獣型の存在も動きを止めた。私の言葉が通じているのだろう。龍帝には私たちの言葉が通じているのだろうか。今のところ龍帝が攻撃に転ずるという姿勢は見えないが警戒を緩めているという様子は見られない。静観というところが正しい見立てだろう。
「ほほぅ、お主ら神殿の機能をどこで知った? 何故、我々と会話を試みる?」
「このような場所は他にも多く見て来たが、かつての文明の遺跡という類いのものでしかなかったが、ここは違うようだ。意思を持ったお前達がいる。今までは言葉や意思すらも疎通することすら出来なかった。だが、今は出来た。理由はわからない。そして、私の索敵に反応しなかった。お前達は一体何なんだ」
「私たちか? 私たちはこの神殿を守護する者であり案内人でもある」
獣型の存在が意気揚々で語り始めた。
「お前達は愛国者と関連があるのか?」
これは重要な質問だ。愛国者関連だと戦闘は避けられない。愛国者側も私たちのような完全人側を排斥しようとしているからだ。
「あいこくしゃ? なんだそれは? うまいのか?」
獣型の存在が呆気にとられた様子で気の抜けた言葉を出す。
「愛国者を知らないという意味でいいのか?」
「ああ、私たちはアイコクシャという存在を知らない。それと、巨塔の外側の世界については知ろうとも思わない」
「何故だ。愛国者は危険だ」
「何故って? 私たちにとっては必要の無いことであり、存在だからだ。この塔は世界の要の一つであり、私たちはそれを守護する存在として生み出された存在だからだ」
「わかったわ。私はルナ、こっちの大きいのはオブリビオン」
イフのことは伏せることにした。イフには思念伝達で私たちの会話の記録を取りつつライブラリにアクセスしながら調査を解析を進めさせた。
「そうか、私はメンテ、こちらはランテ」
「ありがとう。メンテ、ランテ」
「さて、ルナ殿、この塔へは何用で?」
「管理者への《《交信》》のためです」
「ここが神殿ということを認識した上での発言と見ていいですね?」
口調が強くなった気がする。少しだが空気がピリッと張り詰める。
「そうです。私たちはこの世界の管理者へ申立をしに来ました」
「申立?」
「そうです。現在、この世界、いえ、塔の外側は管理者不在のような状況と状態が続いておりその原因の調査と管理者側で何が起きているのか。また、改善することが可能なのかを聞きにきました」
「聞いてどうするのです? 私たちがそれを許可するとでも?」
「ここに来るまでに邪魔が入り戦闘にもなりました。先程、申し上げた愛国者という存在です。現在、その愛国者という存在がこの世界の実権と他の世界への介入を開始しているという情報が入り状況は緊急を要すると私は思っています」
メンテが右手で顎を触りながら何かを考えている姿勢をした。とても見た目の機械的な外見からは想像も出来ないくらい人間くさい仕草だ。
「私は門番です。判断は下す権限はありません。ですが、貴女が言う発言に証拠はあるのでしょうか」
「我が証拠だ」
メンテとランテが驚きの表情を浮かべて声のする方向へ顔を上げた。龍帝の声に反応したのだ。龍帝が、この門番との会話を聞き取れていたということか、どういう理屈か説明出来ない。どういうことだ。
「我の能力の一つに全知統制というものがある。数単語または会話一つから全ての言語体系を知り我自身が自由自在に扱うことを可能とするものだ。小娘との会話もそうであったぞ」
確かに自然と会話していたから気づかなかったけれど、龍帝側が補正していたのか。まるで気づかなかった。
「貴方が証拠?」
「そうだ。我は他の世界から来た。《《この世界の存在に侵略された》》のでな」
「先程のアイコクシャという存在ですか」
「愛国者だ」
「愛国者ですね。なるほど。異界から来たという大きな生物。確かに私の知る知識には無い存在ではありますね。しかも、体内外に強大な力を秘めている。一度、我々と戦闘したらどうなっていたことやら。さて、証拠は充分でしょう。裁定者に面談の申請をします」
「裁定者とはなんだ?」
「そうでしたね、裁定者とはこの神殿領域において、神への交信を是非を問う存在です」
ライブラリにアクセスにして裁定者について、情報を洗い出す。該当が多数あり。太古の昔から存在する機能とされている。つまり、この巨塔は自体も相当古いということだ。
「裁定者とは古来より現存する機能ですね」
「おお、物知りですね。そうですよ。ルナ殿、では参りましょう。急ぐのでしょう?」
メンテは何かを察したようだ。私の顔に焦りが出ていたか? いや、冷静だったと思う。発言を振り返っても感情の自体に起伏や精神での異常も見られない。冷静沈着とはこのことだ。だが、メンテには私は急いでいると見られたようだ。
「何故、急ぐと思うのです?」
「この場所を神殿と知り、管理者もとい、神へ申立をしたいとなると急ぎの要件とはいくら冷静であろうとも急ぎの要件であることは間違いありません。なので、私たちは貴方たちの発言から急ぎと判断しました」
確かに言われて見ればそうだ。ここは神殿だ。目的があって来るということは急ぎ以外の何物でも無い。行動自体が急ぎだと判断されたのだ。良い方向に判断してくれて良かったと思うべきか。
「どうやって、その裁定者とやらに会いに行くのだ?」
「あー、そうですね。既に足下に転送陣を発動用意をしております」
床に大きな模様が浮かんだ。正二十面体だ。
「ああ、我が感じていたのはこれか。魔力を感じるな。複雑な術式が織り込まれておる。我のいた世界の魔法体系とは異なる技術か、実に興味深い」
床が青白く一瞬眩く光ると同時に景色がガラリと変容した。先程の無機質な広大な空間では無く、城塞都市のような建築物の中にいるからだ。ただ、スケールは大きい。龍帝が収まる大きさなのだから。魔法陣で一緒に出て来たのはメンテだけだった。ランテは下で門番として待機しているとのこと。
「ほぅ、見事な建築物だな」
「はい、聖堂本殿への参道を兼ねています。この先にある大きな扉の先に裁定者がいます」
「裁定者とは具体的にどのような存在なのか?」
龍帝が興味興味深く質問をする。
「神との交信を代行する機能または存在というべきでしょうか」
「お前達のような守護者と同じ性質か」
「いえ、守護者とは位列が異なります。なので、性質や役割、存在意義すらも別次元ですね。ただ、強いて言えば、彼女のもう記憶に無いくらい言葉を口にしたことがありません」
「それはどういう意味か?」
「それは辿り着けばわかります。こちらです」
メンテが大きな扉を軽々と開いて、私たちは中へと案内された。中は廊下よりも広く、天井が高い。そして、明るい。光源はどこだろうか。壁や天井、床からも光が溢れているようにも感じ取れる。そして、私の目の前には白いドレスを纏った女性が祈る姿で佇んでいた。
「この方が、裁定者となります」
メンテの言葉に裁定者と呼ばれる女性型の何かは微動だにしない。
「メンテよ、この者は機能しておるのか?」
「私どもではわかりません。ただ、彼女は今も交信している最中というのが現状です」
「今も交信している?」
私の感知機器には何も反応しないが、何かしらのエネルギーパターンを計測することが出来た。ただ、交信というよりは一方的に通信を送っている状態が繰り返しているように思える。
「メンテ、この裁定者さんはいつからこの状態なの?」
「私たちにもわかりません。ただ、ずっと昔からなのです。私たちの忘れるはずの無い記憶が無くなる程前からずっと前から」
メンテの表情からはどこか、寂しさを感じた。
「なるほど、我に試したいことがある」
「あの、何を」
「この裁定者とやらの構築術式は我が居た世界と似た技術で構築されている。我単体でも神とは交信可能だったがこの世界に来てからは交信が不可になっていた。その理由が今、わかった。交信する鍵の種類が異なるということだ。つまり、この世界においての裁定者から解析出来る術式を我が再構築すれば我単体でも管理者との交信が可能とということになるのは当然」
「この方は何を一体言っておられるのだ。そんなことは不可能だ。実際に裁定者は交信をして本来の機能を休止している状態までになっているのだぞ」
「では、奇跡を見るが良い」
龍帝が裁定者と龍帝自身を見たこともない多面体の模様と文字の羅列が文様として浮かび上がる。
『異界・高次元の門を開く:大星型十二面体』
凄い、網膜に見たこともない検知と数値が跳ね上がる。光が聖堂を真っ白に染め上げた。
鐘の音が鳴り響く、まるで歌うように、奏でるように、導くように。
純白の光が収束した瞬間、私の目の前に現れたのは空間を覆おう巨大な情報の塊と化して何かの術式だった。私が知らない。私の検知の外側で起きた理外の現象だ。これが魔法か。私は生まれて初めて本当の魔法というものを知った。




