第5話 神殿へ
「ところで、不遜なルナよ」
「何よ、黒とかげ」
「この世界は何故、こんなに広大なんだ?」
龍帝は何を言っているか、意味が分からなかった。
「広大って、確かにフロアや区画毎に広いのは確かだけど、そんなに広大だなんて思ったことは無かったわ」
「なるほど、我の力で周囲を索敵してみたが広大過ぎて、まるで星一つ、いや三つ以上の広さを有しているということなのか」
「龍帝さんよ、ちょっといいかい?」
「イフとやらか、なんだ?」
「あんたの索敵範囲というのはどの程度の距離の敵や的を見つけることができるんだ?」
「そうだな。我の力であれば、距離に制限はないというのが仕様だ。実際にこの世界に世界へ干渉してから現在の状態となっている」
「なるほどね、例の調整者がいるって話に繋がるのか」
「その可能性は極めて高いだろう。だが、調整者が機能していたとしても我の力であれば制限を解除されていてもおかしくはないのだが、どうも様子がおかしい」
「おかしいってどういうことだ?」
「今、我はこの世界の管理者または神がいるであろう存在にコンタクトしようと先程から何度も問いかけているが、まるで返答が返って来ない。今までこのようなことは一度も無かった」
「この世界を管理するもの?」
「そうだ、不遜なルナよ。どの世界にも管理する存在はいる。神と呼ばれたり、概念だったり、その世界の固有名だったり様々だが世界という強大な力が渦巻く世界ほど必ず管理するものが存在している。この世界なら尚更のこと」
「ちと、龍帝さんに確認したいんだがいいかい?」
「なんだ? イフよ」
「あんたから見てこの世界はどう見える?」
「言わずもがな、歪んでいる世界と称した方が最適だろうか。我の力が行使出来る時点で我がいた世界と同様の魔素または魔力があることは確認した。だが、我がこれまで見てきた世界とはいかにかけ離れたスケールの世界か」
「だだっ広いってだけかい?」
「いいや、イフよ。広いだけなら星々の数を見上げればいい。だが、それらを持ってしてもこの世界の広さには敵わないだろう。そして、管理者不在または機能していないこの世界は放っておけば世界自体が崩壊しかねない」
龍帝の言う通りだ。だが、管理者というのは本当に存在するのか。ただの信仰ではないのか。ライブラリにアクセスしても神仏または世界各地の都市、地名、場所や空間によって独自に発展した文化としての信仰対象として神らは存在している。
だが、管理者かというとそういう伝承や話は聞いたことも私が生きてきた数十世紀でも該当するものはない。イフも同意見だ。ならば...
「龍帝」
「なんだ、不遜なルナ」
「私たちの記憶や記録には世界を管理するという存在は現在までに確認されていない。お前の話もどこまで信じていいのかわからない」
「それはそうだろう。我の位列が同じか、それに準ずる力を有したものが交信または接触が可能だ。それに、先程、小娘が戦闘したのは天使だろう? 愛国者とは何者だ?」
「愛国者たちはこの世界が始まる時からいる存在だ。私たちにとっては敵となる」
「ほぅ、愛国者たちへ協力するものがいるということか」
「いる。支持者というものたちだ。私たち完全人は別の種類で人類が進化した存在になる。この世界でいくつか文明を築いていると話を聞いたことがあるが私たちは数度しか出会っていない」
「戦闘にはならなかったのか?」
「なった。支持者は愛国者の恩寵を常時受けているため、基本スペックは私よりも個体にもよるが同程度の実力が基本ベースになる」
「厄介だな」
「そういえば、お前の世界に来たという愛国者はどのような存在だった?」
「我が言うより、見せた方が早いだろう」
そう、龍帝が言うと巨大な手を私たちにかざしてきた。
『心象風景の檻』
私の脳内に鮮明な映像が流れてきた。風や陽の光を感じる。温かい。風が全身を抜ける。そして、見えた。
「あれが! 愛国者!」
私は愛国者と敵対し戦闘したことは何度もあるが、実体を見たことは無かった。理由は愛国者の力の影響で相手が畏怖する存在として鏡像のように映し出されるという性質を有しているということが判明したからだ。なので、これから見る愛国者という存在は龍帝が見た畏怖する存在として映し出されるはずだ。
禍々しさを湛える。周囲には私が知っている天使とは似ても似つかわしくない神聖さを湛える強大な力有した存在が、亜愛国者と対峙していた。
愛国者の姿は常に変化している。龍帝が見た景色も同じだという。人型だったり、ドラゴンのようになったり、光になったりと形態と形状問わず常に変化をしている。そして、悲劇が始まる。
◇
「貴様ァ、何者だ? 名を名乗れ!」
「世界を愛する存在。愛国者である。この世界を滅しに来た」
「この世界を滅するだと? こちらは神々の協力を得ている。貴様には不可能な所業よ」
「ならば、向かって来るがいい。哀れな存在よ」
愛国者がそう発すると同時に龍帝が率いる龍王の軍勢と神が率いる神々の軍勢が、たった一つの脅威という存在へと猛進する。戦闘は凄まじさが記憶という映像越しから伝わってきた。
「オブリビオン殿、あれは何だと思う」
「アニマか、あれは我にもわからん。天使らしき存在を放ってきているがあれはお前達の同種ではないのか?」
アニマが首を横に振る。
「あれらは私たちとは異なる存在です。確かに見た目の特徴は似てはいなくないですが、天使という名も借り物でしょう。恐らく、この世界の管理者である私とこの世界を統べる龍帝オブリビオンから見て異質だと思うあれは、別世界の何か。バグ、いや、もっと歪な……超越した世界のそのものか」
「超越した世界? 何を言う」
「いや、これはあくまで過程の話だ。今から言うことは仮説に過ぎない。この世界でも他の世界においても世界という頂に届き得る存在というのは数多く歴史や今もいる。だが、世界そのものを扱える存在は数が知れている。それらを超越者と私たちは言う。だが、あれは世界を扱えるのでは無くて、世界そのものが暴走しているのではと私は思うのだ」
「世界、そのものが暴走? アニマ、それは有り得るのか? では何故、その世界を管理しているものが止めない」
「恐らく、管理権を強奪または消失させたのかもしれない。つまりだ、今、龍王らや神々の軍勢がたった一つの存在に為す術もなくやられている根拠の一つになることは確かだ」
「あれのせいで、世界の半分が消失したからな」
「でだ、オブリビオンにはあの存在がいる世界に行って欲しい」
「ほぅ、面白いことを言う。それは管理者としての意見かな」
「そうだ。あれは危険過ぎるという物差しをとうに超える存在だ。オブリビオンしか、やつの世界で通用することは出来ないだろう。私は別ルートで奴の世界へ管理者権限で神として介入を図る。頼めるか」
「良いだろう。では、まずアイツを退させる必要があるな」
「それには俺に考えがある」
「アニマにあれがやれるとでも?」
「さぁね。一応、私は神なのだ。伊達に強者がのさばる世界を管理しているわけではない。充分に神力は溜まった」
「わかった。アイツが退くのを確認すると同時に適当な奴を見繕って多元介入でアイツがいる世界へと介入を試みるとしよう」
「頼むぞ、オブリビオン」
『星葬の反転織』
星色の光を放つのその糸はアニマの全身を覆い、チカチカと星の瞬きの閃光を放つ。そして、愛国者とアニマが同時に衝突し放った光の糸の束は愛国者を包み込み、破れるはずの無い絶対の糸が容易く破られると同時にアニマが幾重にも神力で技を放ち、管理者権限の全権力を用いり愛国者が来たとされる世界へと差し戻した。
◇
「これが、龍帝の世界……」
「そうだ、不遜なルナよ。これが事の顛末だ。我は愛国者という存在がどのような存在かはわからない。対峙したというのにな。記憶されている映像にもまるで形を成していないように映っている。我の精神へ干渉した可能性は低い。アニマにも同様に干渉したということになるからな。性質や位列も同列であれ異なる我々に同時へ変質させるというのは不可能だ。それはも我々よりも位列が遙かに高いという証明になってしまう」
「龍帝さん、お前さんは位列としてはどの位置にいるんだ?」
「最上位だ。我より上は存在しない」
「神様もってことかい?」
「アニマは星を束ねる最高神の女神だ。口調や気性も男性神勝りだがな。ただ、アニマの全力を受けた愛国者という存在が無傷でいるとは考え難い。あの攻撃で無傷や軽傷で済むという話となると我ではどうすることにも出来ぬからな」
「そういえばよぉ、調整者というのが龍帝さんのリミッターを解除出来ればそれは可能ってことかい?」
「イフの言う通りだ。だが、我は何度もこの世界の管理者に交信を試みてはいるが何の返事や返答も無い。つまり、見込みがないということだ」
「それじゃさ、調整者とかこの世界の管理者にアクセス出来るところへ行ってみようよ」
「ルナ、それって、塔に行くってことかい?」
「そうだよ、イフ! 塔に行けば何か分かるかもしれない」
「何だ、その塔というのは? ダンジョンの類いか?」
「いや、ダンジョンの類いではないな。強いて言うのであれば、神殿に近いとも言える」
「神殿か。この世界の神殿は塔なのか?」
「そうとも言えるし、そうでも無いとも言える。階層やフロア毎によって多少神殿の建築様式も異なるのさ。この区画からだとちょっと距離があるが行けない距離ではない」
「では、行こう」
「よっしッ! 目指せ塔へ」




