第4話 旅は道連れ
こちらへ迫る飛翔体は識別種別は。
「イフ、これは!」
「ああ、愛国者が天使を送り込んで来た」
「識別クラスは」
「レベル1相当だ」
「レベル1か、イフ、引き続きバックアップを。龍帝、続きは後だ。これから来る奴の相手をしないといけない」
「小娘、何が来るというのだ。何だ、この空気の揺れは」
「龍帝、これがこの世界の大厄災という神と謳い使わせた天使だ」
「神?! 《《この世界にも》》神がいるのか!!」
「龍帝、お前、神を知っているのか?!」
「知っているが、恐らくというか確実に我が知っている神と小娘が言う神とは別だな。これがこの世界の神の使いか」
何やら龍帝は大厄災の元凶である神を知っているようだ。種類が違う、別の存在? 異界には他にも神がいるのか、めんどくさい。ただ、龍帝との戦闘でウォーミングアップは出来た。準備万端。
「龍帝、お前には聞きたいことが山ほどある、そこで見ておけ」
「不遜なルナよ、いいだろう。お前の実力は先程で軽く知った。この世界とやらの理を見せてもらうぞ」
龍帝はそのまま静観姿勢に入った。これから起きる戦闘を予期または予知したのか、防御姿勢を軽くとっている。さて、レベル1相当の天使か。いつ以来かな。網膜処理に異常数値が跳ね上がる。大気の揺れが振動へ、地震へと共振するかのようにこの区画全体を揺らしている。先程の龍帝との戦闘に愛国者が気づいたので間違い無い。
「戦術武装兵装を愛国者天使専用へ変更開始」
『受理:ライブラリよりウェポンレジストリサーチ・対天使戦術兵装を変更全身換装完了しました』
「ルナ、来るぞ。来た!」
イフの声と同時に目視で確認。距離34万㎞。
「識別クラス、天使レベル1に合致を確認。先手を打つ!」
『確定予知多弾頭閃光射出』
視界全てが熱線で蒸発する。遅れて衝撃波と熱波が包み込む。天使はこの程度では絶対にやられない。今回のは多元嵐の調査と大規模な戦闘のエネルギー反応した巡回していた天使が反応だと確定予知が判断。
この周辺の区画を入念に調査していたわけではない。広大な空間を包み込む連続構造帯とあらゆる捻れが現在の世界の在り方を映している。そのどこかに愛国者に関わる存在がいたのかも知れない。いずれにせよ、龍帝がこちらの世界を静観している時点で良しとする。
「次だ!」
『量原素子砲』
観測する前面の全景色が明滅し消失。多元嵐ごと消し飛んだ。眼の前にあるのは完全な闇だ。
「イフ、天使を観測出来るか」
「アイツ、確率の宇宙で跳躍して回避しやがった」
「過去に戦闘したデータを学習されたか。クソッ! 次だ。確率の宇宙にいるということは、攻撃する時は基底世界へ来ないとこちらを攻撃出来ないのは私も知るところ。ならば、それが天使が確定している確率ごと砕けばいい!」
「いいぜ! やってやろうぜ!」
「イフ、少し暴れる。三人の保護を最優先に」
「あいよ」
龍帝と戦闘前にこの基底世界へ来た三人は重力で気絶し、拡張現実へ格納してある。つまり、この世界でいかなる戦闘があろうとも無事ということだ。私が消滅したら終わりだけどね。龍帝が動く気配はない。こちらを冷静に観察している。
「来た!」
「チッ!」
天使が確定した確率ごと事象をずらして攻撃してきやがった。純白のドレスを纏い神々しさを讃えている。天使の全身からは光の粒子が舞いチカチカと大気へ霧散して溶け合うように空間を歪めていた。
そもそもがこの天使らはクラス毎で危険度は異なれど世界にとって災いでしかない。私の装甲が天使の攻撃を少し擦っただけでその部分だけが消失した。天使とは理の外にいる正真正銘の存在なのだ。
「これなら!」
剣をライブラリから顕現させて予備動作無しで天使に直撃した。羽が破損を確認。この剣もこれから使う武装や兵装も全てこれまでの膨大な屍の上に成り立っている対天使専用だ。私たちの仲間がそうであったように、これからの私がそうであるようにこの一撃の全てには重みがある。
天使が両断され霧散していく。
「今回は手こずったな」
「無理もねぇって、ルナが天使と最後に戦闘したのは数千年も経つ」
「私にはリハビリがまだまだ必要だな」
「ああ、だが、直近だと53年前の愛国者との戦闘以来だ。無理はするな」
「愛国者か、クソッ!」
地面に着地して全身の全兵装を解除。周辺の環境確認と状況の把握学習進化を開始。同時に龍帝へ歩を進めた。
「さて、今度はお前の番だ。龍帝」
「不遜なルナ、天使とやらとの戦闘を見させてもらったぞ」
「そうだな、感想はあるか?」
「どうかな。我以下であることは違えないとして、だが、背後にどのような存在がこの世界にいる?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。我が知っている神が使わす天使というのは魔法または神術の類いの一端または《《それらを管理する者達のこと》》だ。それらが大厄災の元凶となるには神自体の否定に他ならない。寧ろ、弱体化すら招かんとする所業よ」
何を言っているんだ? 弱体化? いやいや、有り得ない。大厄災の元凶が顕現し以来、文字通り全てが悪化している。
「つまり、龍帝が言っている神と私たちが認識している神とは同一ではないということか?」
「どうかな。だが、断言出来ることが我にもある。あれは神の使いではないということだ。強いて言うのであれば暴走の成れ果ての類いだな」
「龍帝のあんたには、この世界がそう見えるということだね。これは重要なデータだ。さて、さっきの続きをするかい?」
「ルナよ、好戦的なことは時に死を早めることに成りかねないぞ」
「なんだ? 龍帝が私の心配を」
「先程の戦闘を見て確かに小娘、お前は強い。我に一撃を与えたのだ。そして、我は世界を超えてこの世界を侵略しに来たが……」
「この世界がそんなに悲惨かい?」
「我にそのような感情はない。我がこの世界へ侵略する切っ掛けを作ったのはこの世界だからだ」
「は?」
「イフ、龍帝の言っている意味分かる?」
「んにゃ〜、俺にはさっぱりだぜ」
「龍帝は、この世界を侵略という名の戦争を仕返しに来たということ?」
「もう一度、聞こう。この世界の背後にはどのような存在がいる?」
龍帝の言葉には含みと同時に威圧を含んでいた。
「この世界は愛国者がいる。天使というのはそいつらの手下だ」
「その愛国者たちが我の世界へ戦争を仕掛けてきたと?」
「愛国者がそれを出来ることが、そもそも可能なのかをこれまでの記録を照合しても該当する痕跡も記録もない。つまり、わからない」
「だが、事実として我の世界へやってきた。そして、撃退して複数の次元を介しこの世界への介入を試みた」
「愛国者を退けたのか!」
思わず前のめりになる。
「ああ、あれらが愛国者か。とんだ化け物だな」
「龍帝の世界はどうなったの?」
「我の世界か、我らの軍勢に神らも加勢した上で世界の半分が焦土に喫したわ。たった一人の存在にな」
「龍帝がいた世界の半分と神も?!」
「そうだ。事実、我が知っているその存在が愛国者と呼ばれる者と同一であるのであれば滅する権利が我にはある」
「だけど、私に苦戦していなかったか?」
「そうだな。それも事実だ。我がいた世界線と不遜なルナがいる世界線では調整者がいるのだろう。その愛国者というのはそれを無視した行動が出来る存在であるということは確信した」
「で、どうする? 自分の世界へ帰るか。戦うか」
「そうだな。戦おう」
「じゃあ、早速……龍帝、何をしている?」
くつろぎ始めた。戦闘を始める気配もない。
「どういうことだ。私と戦闘をするんじゃないのか?」
「不遜なルナよ、我の言葉を理解出来ぬのか? 我はお前らと共闘すると言っている」
「意味が分からないよ、イフ」
「ああ、えーっと、龍帝さん、ちょっといいかい?」
「ああ、不遜なルナが独り言ではなく、こやつと会話しておったのか。精神生命体の類いか?」
「まぁ、厳密には違うがまぁ同じでいいさ。俺らと共闘するに当たって協力して欲しいことがある」
「ふむ、なんだ言ってみろ」
「ありがとう。では、こちらへ出した三人を元の世界に還して欲しい。ここに普通の人間が生きるには辛いというか絶望しか無いしな。それと、戦闘は無闇にしないことだ」
「いいだろう。三人は元の世界へ還そう。疑問がある。何故、無闇に戦闘してはいけないのだ」
「理外世界の住人さんにはちと理解し難いと思うが、この世界は普通の世界じゃねぇ、土が広がっている大地も湛える海や自然も無い。あるのは連続した無機物とその無機物に棲まう歪んだ生態系を模した特有な有機生命体やらがいるんでね」
「では、貴様らは歪んだ生態系の有機生命体に該当するのか?」
「俺たち、そうだな。ルナは人間では無く、完全人だ。人間が望んだ果ての完成形さ。そして、俺は完全人をサポートする量子生命体のイフって言う者だ。実体はねぇが心はある」
「なるほどな。この空間を支配していたのはイフ、貴様か」
「察しの通りで」
しばらく龍帝とこの世界の話と龍帝がいた世界の後の話などを聞かせてもらい、その後、三人を多元嵐ではなく、元々の世界へ龍帝が次元の穴へと雑に放り込んだ。大丈夫なのだろうか。龍帝曰く、この世界へ投げた時も同様と言ったので、大丈夫なんだなぁっ安堵した。




