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デッドデッドデウス・エクス・マキナ・インダストリー  作者: 竜蔵寺 佑


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第29話 我らの糧

 誰かの声が大きく聞こえてくる。誰だ? イフか?


「小娘!」


「あ……りゅ……うてい?」


「馬鹿者が! 無茶しよって!」


「ご……めん……な……さい」


 私の眼はもうほとんど見えていない。体内のエネルギー量の許容値が枯渇しかけようとしているからだ。イフのバックアップで回復している作業が聞こえる。でも、イフの声は聞こえない。私のために音声という機能すらも制限して損傷した箇所を修繕させようとしているのは理解した。だけど、私は。


「りゅうてい、わたしは、もう」


「もう喋るな。後は我らがアイツと戦う。小娘のおかげでこの場所まで来られたのだからな」


「そうだにゃ、あたいたち任せるにゃ」


「ここは頼めるか、キキ」


「ええ、ルナさんのことは私に任せてください。必ず助けて見せます」


「頼んだぞ。征くぞ、にょにょ」


「あいさ!」


 ◇


 ここが愛国者の世界か。ルナをあそこまでの攻撃は別世界を貫通した。事象が変質しておるな。これがルナの現在の力か。それにこの領域はいささか不愉快だ。


「あれだな、愛国者というのは」


「そうだにゃ、今のあたいにも認識出来ているにゃー。人型かにゃ? あたいたちも本来の姿で戦うにゃ」


 にょにょは聖獣へと神格化させた本来の姿へ変身し、我も同様に神龍へ変身した。


「貴様が愛国者か、よくも我らの世界を滅しようとしたな」


 愛国者がこちらを振り返り何かを発言するが、聞き取れない。我の魔法では届かぬか? いや、神らの言語は理解しておる。ならば。


「にょにょ、お前にあの敵の言葉が聞こえるか?」


「わからないにゃ。あたいが知らない言語だにゃ。神らにゃとは類似しにゃいのかにゃ?」


「だろうな。神術は扱えるな?」


「あったりまえだにゃ! 連携するってことにゃね」


「そうだ。我ら二人なら必ず、目の前にいる何かを倒すことが出来よう」


 小娘は何かしらの方法で、あの愛国者を手負いにさせている。あれは人型、女性型にも見える。あの衣装は見たことが無い術式言語だな。つまり、解読出来るってことだな。にょにょとと思考と視覚の共有を開始。



『天蓋焼却・逆天の息吹《アンチ・プロヴィデンス・ブレス》』

『天津神籬(あまつひもろぎ)・理外ノ(ことわりそとの)大祓(のおおはらえ)』



 双方の遠隔攻撃が組み合わさり、敵へと直撃する。


「チッ、手応えはあったが、浅いか」


「手強いにゃね」


 チカチカと大気中に神気が火花のように大きく爆ぜ散る。


「貴方たちは、あの娘と同じ世界の出身ではないわね?」


 爆ぜた大気の状態で景色が歪む中から、その民族衣装にも似た衣服を纏う女性型の愛国者が言葉を発した。


「貴様の声が聞こえるぞ」


「あたいもだにゃ」


「私が合わせたのよ。貴方たちはあの娘とどういう関係でこの世界で私たちへ敵対するのかを直接確認したくてね」


「そんなことをせずとも、我らの世界を蹂躙したではないか。これは時間稼ぎだな」


「そうね、半分正解よ。でも、私の意思で今、会話を始めたわ」


「貴様らが我らの世界を滅し破壊の限りを尽くしたではないか! 始めたのは貴様らだ」


「そうね、そうよ。私たちにも使命があるの。貴方たちは単なる恨みで遙々ここまで来たということね。《《その程度の力》》で」


「我らがこの程度の実力だと本気で貴様は思っておるのか?」


「ええ、そうよ。娘の方が良くもまぁ私に傷を付けたのは褒めるわ。でも、それは同じ世界の性質を持った存在だから許されたのであって、貴方たち程度の世界から来た程度の神龍や聖獣の類いでは神と同列程度の力しか発揮出来ないのよ」


 この愛国者とやら、多(・)弁(・)だな。


「ふん、どうかな。試してみようではないか」


「そうね、何度でも踏み潰してあげるわ」


「あたいの存在を忘れていないかにゃ!」


「!!」



『天網恢恢(てんもうかいかい)・虚国ノ神裂キ(むなぐにのかみざき)』



 愛国者の直上からにょにょが、爪による神罰の打撃攻撃が直撃する。


「にゃにぃ!」


「言ったでしょ。貴方たちがどれだけ力を発揮しようが、神と同格であれば私には届かないの!」


 女性型の愛国者は難なくにょにょの攻撃をあしらう。不可避の攻撃を片手で受け、あしらうのは常神《じょうじん》の域では無い。やはり、異質な何かか。


「問う。貴様ら愛国者ら何者だ」


 女性は少し間を置いて話始めた。


「ええ、いいわよ。貴方たちはどうせここでお終いなのだから。私は愛国者にして、第5席にして憂国執行官《パトリオット・エグゼキューター》のクシャト・ラ・オムニ・ゾルと申しますわ」


 優雅に民族衣装風のスカートを両手で広げて余裕な態度で挨拶をする。この濃い殺意が込められた空気感でも、ゾルと称する愛国者からは笑みが表情からこぼれている。我らを下等と評していると同義。


「ふーん、ゾルと言うのにゃね」


「聖獣さんね、私はあなたたちを知っているわ」


「我にゃを知っている?」


「ええ、聖獣のにょにょ、龍帝オブリビオン。どちらも神階では最高位にいる存在だと私たちも認識しているわ」


「我らのこと知って戦争を仕掛けてきたと?」


「その程度の存在だからよ。私たちにとっては一人でも充分に基底世界へ融合の成功を確認しているわ。それは貴方たちも見てきたでしょう」


「何故、世界を拡張するようなバカな真似をする。貴様らにとって負担になるのではないか?」


「おかしな事を聞くのね、龍帝オブリビオン。世界を融合し拡張するのはまだ慣らしの段階なのよ」


 この女は何を言っている? 世界の理を捻じ曲げて強制的に融合させておいて、それがまだ準備段階だというのか。


「何のためにだ」


「死に逝く存在へ伝えたところでしょうがないわ」


「あたいは許さないにゃ。お前達、愛国者たちが同胞やそこに住む存在を滅ぼしたことを」


「いい目ね、聖獣にょにょ」


「我らはあの時とは違うぞ」


「調整者による制限を今なお受けているでしょう? 今の貴方たちでは本来の実力以下しか出すことが出来ないじゃない。それで、今もこうして私へ何も出来ずにお喋りに付き合ってくれている。それが事実よ」


「そうだにゃ、あたいたちは本来の実力を出せれていないにゃいな。にゃけど、それが愛国者を倒せない理由にはならにゃいな」


「何を言って……ま、さか」


「判断が遅いにゃ!」


 龍帝が咆哮の連続射撃と多重結界を同時展開。ゾルへ全弾直撃した直後、にょにょの不可避の一撃がゾル本体へ直撃する。



『高天原(たかまがはら)・国生ミ建テ直シ(くにうみたてなおし)』



「ルナとキキとの応用技だにゃ! 貴様ごとこの一撃で創り直すにゃ!」


「……ッ、この私に攻撃が通用している?! 有り得ない!」


「言ったであろう? 我らは制限されているのは事実だが、我らは同時に進化もしておるという事実を。にょにょ!」


「あいにゃ!」



『神代万象(かみよばんしょう)・天地返シ(あめつちがえし)』



 にょにょの天地を揺るがす打撃と龍帝の咆哮と魔力神力を応用した合体技。そして、攻撃を当てる箇所はルナがゾルに与えた損傷部分へ一点集中! 同時にゾルの腹部が砕けた。残ったのは上半身と右腕だけだ。


「有り得ない! この私が!」


「かつて、愛国者の死体を見つけて確信した。貴様らは死ぬことが出来るのだと。貴様らに通じる攻撃はつまり、過去の愛国者の材料があってこそ」


「どうやって、そんなことを?!」


 ゾルは苦悶の表情と汗が噴き出ている。まるで、人間のような生命体の生理現象反応を示すのだが、我らの神眼では人間ではない。神らを越える逸脱した存在であるということを事実として我らは知っている。我もにょにょもその他の世界の神と称される存在とはそもそも成り立ちや進化の過程が異なるということだ。つまり、その成り立ちや進化の過程の材料や情報が少しでも手元にあれば、小娘と同様、我らにも応用は可能。イフのおかげである。


「詰みだ、ゾル」


「嘘ッ! 再生しない! どうして?!」


「理由が知りたいか? ゾル。下等な存在と上から見ていた貴様らにくらう一撃の味について」


「私はッ! 愛国者! 御方に使える身!! 貴方たち如きに負けるわけには」


 ゾルの動きが段々と遅くなっていく。困惑しているようだ。


「ゾル、貴様はにょにょの攻撃を防いだと勘違いをしていたのだ?」


「はぁ?!」


「にょにょの攻撃は対神罰系の技を我と応用した毒だ。触れずとも攻撃を受ければ最高位の存在であれ、愛国者の素体をベースにした攻撃であれば必ず届く。多弁は毒が回り始めた証拠」


「クソッ! 御(・)方(・)へ(・)伝えなくては……」


「さて、もう貴様には戦闘する状態では無い。我らの糧となり情報になるがよい」


「手遅れだにゃ、ここには神術を天地展開しているにゃから、愛国者とは言えども連絡手段はにゃいよ。ルナが受けた傷をお返しするにゃ」


「まて、にょにょ。トドメを刺すのはまだ先だ」


「わ、私は、愛国者。第5席のクシャト・ラ・オムニ・ゾルよ。この状況は私が連絡しなくても必ず上に伝わるわ。貴方たち如きでは御方たちの前では足下にも……いや、まさか」


「ゾル、絶望が広がるだろう。我もその感情をかつて受けたわ。御方というのは、情報としては知っている。愛国者という存在が他にもいることも天使らの発言から読み取れておる。そして、更に事実が上書きされる。生きた愛国者を倒すという事実だ」


 ゾルの表情が青ざめていく。最初のような多弁雄弁を並べる余裕すら、彼女からは見られない。残された上半身と片腕だけになって毒による侵食でまるで身動きが取れないようだ。愛国者がかつて放っていた一撃で世界を滅ぼしたという印象はもう薄い。我らの中で変化があったのか、それともゾル自身が殲滅に来た存在ではない? いや、ゾルの言葉では、世界の融合に加担していて実行していたという事実の発言があった。


「終わりだ。クシャト・ラ・オムニ・ゾル。我らの糧となれ」


「にゃー」


 ぐしゃりと鈍く音が崩壊した神殿内を響かせた。これで愛国者たちの言語を理解習得と攻撃の特性、そして、御方たちという複数人いるということと、人型であったという情報。そして、今、こうして我らで倒せたという事実が、次に迫る戦闘へ有利な情報を得たと見て良いだろう。


「にょにょ、愛国者の死体を回収し、ルナのところへ戻るぞ」


「この死体がルナの回復に役に立つってことにゃね」


「そうだ! 全力で向かうぞ」


「にゃ!」


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