第28話 消えて逝く
目視、認識、現時点までの全ての記録と学習の完全一致。全人類の敵にして、世界の敵。
「愛国者ッ!」
目視で確認出来た輪郭は鮮明では無い。私の中にあるライブラリによる補正でどうにか認識出来ているようなもの。データ上はそこに実体があると眼に表示される。
「イフ! お願い!」
「あいよ!」
『申請受理:対愛国者用殲滅兵装:換装完了』
全身を真紅の装備へと形態を変える。私に干渉するいかなる事象を書き換えることを前提とし、キキの法則の書き換えを自身に応用し対愛国者用へと仕上げた。これで、完全だと思わない。今の私がどこまで通用出来るかは未知数だ。
「全速力で!」
愛国者に向けて全速力で向かう。周囲の事象を書き換えながら進む、真紅の光体が認識する1体の愛国者へ完全なる一撃を与える。
『特異点磔刑杭《シュヴァルツシルトの十字架》』
「永劫の超重力で沈めッェー!!」
赤と黒の超重力の十字架が愛国者を直撃する。手応えはある。だが、私の眼にはっきりと敵を捉えている。眼の表示に直撃確認を脳内と同時に認識する。神殿が赤黒く明滅する。何かが崩壊するように十字架が派手に砕けた。
「なッ!? 何が!」
「ルナ、思考加速の多重並列思考の制限解除。極限まで思考を加速せるぜ」
愛国者が見える。何かをしようとしている。何だ。ゆっくりと赤く黒い砕けた景色を背景にその敵意を剥き出しにした存在が何かをしようと私に手の平を向けた。
『帰還すべき原初の無』
私の何かが爆ぜた。思考加速の制限解除をしているのにも関わらず、私の認識いや、意識、それ以前の問題だ。ここに私がいた時点で何を直撃した。脳裏の演算結果表示は見るまでもない。愛国者の攻撃が私の事象を書き換える能力を突破した証拠だ。全て再学習で進化させる。私は絶対にここで負けるわけにはいかない!
「イフ、私の損傷箇所の確認とライブラリの再学習でこの戦闘データを全ての制限を解除して武装させて」
「ああ、もちろんだぜ! 現在、ルナの損傷は4割だ。たった一撃でだ。何をしたかまでは俺にもわからねぇ、キキの権能よりも格上ということはわかるぜ」
「キキの上書きする力……より、やはり上か。愛国者とはこれで神より別次元で上ということが確定と証拠が得たな」
「ああ、修復をしつつ戦闘を続行だ」
「うん! 次は確実に回避する」
距離が離れたとは言え、次第に愛国者の姿が見えてきた。人型だ。識別クラスは測定不能となっている。天使の属性とは構成されているそのものが異なることは確定。合わせて基底世界で出会って来た存在たちの構成物質とも合致しない。この愛国者と呼ばれる化け物は別世界の何かだ。
『真理紡ぐ拒絶の詞』
愛国者が何かを、予備動作無しで発動せた。
「イフ、これは」
「アイツ、俺たちの存在ごと言葉だけで消失させようとしやがった」
「回避したくても、これは難しそうね」
「回避という概念がそもそも通用しねぇからな。敵が放った何かは世界そのものだ。この加速した世界にすら干渉しかねないぜ」
イフが焦りのような口調になる。こんなことは初めてだ。それだけ、これまでの常識が一切通用しないということだろう。私の身体は現在、思考加速とは別で全身の性能を制限解除して回避行動を推測しながら対応しているため、損傷自体は現時点で修繕と修復が辛うじて上回っいる状況だ。
「イフ、大丈夫だよ。大丈夫。きっとね。私たちはこの時のために生きてきた。絶対に倒してこの因果を終わらせるよ。これまでの皆のためにも」
「そうだな。やってやろうぜ!」
思考加速中のイフとの会話で、現在、敵から得体の知れない攻撃を受けているためライブラリにて学習と分析解析を進めるが、神や奇跡の上にある眼の前で事実起きている現象を理解するというのは私の基底科学程度で培われた浅いデータ量では正しい予測または推論を導き出すのが困難だとライブラリの挙動から見て取れた。だが、ライブラリは拒絶すること無く、現在起きている全ての事象現象等を全て学習するデータとして扱い、全力で能力を解放している。
「イフ、愛国者って会話が通じる相手だと思う?」
「なんだ急に? キキや龍帝、にょにょよりも格上の存在だぜ。言語というものがそもそのあるのかというのが不思議だぜ」
「それはある、だけど、戦闘を通して得られるものがあればそれはこの基底世界やここにいる皆のためにもなるから」
「OK、マム。ライブラリでそれも学習させるぜ」
「イフ、助かるよ。そろそろ、だね。攻勢に出るよ」
「あいよ!」
愛国者の攻撃を受けつつ全損への回避に成功。思考世界とは裏腹に現実の私は満身創痍だ。
「ライブラリにアクセス:殲滅兵器連続射出申請」
『受理:対愛国者用殲滅兵器:改良を常時展開・全身に換装完了』
「全開放ォ!」
私の全身が限界値まで能力が向上する。まだまだ上がる。熱線で周囲の神殿が蒸発していくのが観測。愛国者に動きが見えた。敵も攻撃をする。正面から打つかる。
『偽神を屠る無の裁定』
何かの詠唱だろうか。複数の未知の言葉らしきものが聞こえる。解読するのは困難だ。だが、このデータをライブラリで収集。そして、強大な何かを極限まで圧縮された何かを理解するまで時間が掛かったが、あれは『世界』そのもののエネルギー量だと解放された私の眼に表示が羅列されていく。その表示速度が落ちることは決してない。
『対愛国者殲滅攻撃:真理簒奪・特権強制終了』
「うりぃああアッー!!!」
世界と私が激突する。全方位の神殿群が砕け天使らの消滅。余波でその外側の領域を押し出して余波で破壊される。愛国者の攻撃は絶大だ。今の私がどこまで出来るのかを再計算するが予測不可能と実行する度、眼に表示される。だけど、目の前には、愛国者がいる。つまり、存在しているということは倒せる可能性はゼロでないということだ。光が爆ぜる。同時に幾重にも重ねられた景色が砕けて本来の姿を露わにする。
「イフ!」
「ルナ、意識があってよかった。現在の損傷は8割越えだぜ」
「あ……愛国者は?」
「残念ながら、未だ健在」
「クソッ!!」
砕けた腕で、いつの間にか神殿の瓦礫の中で居た私は床を粉砕した。
「現在、愛国者は上空にいるぜ」
「何故、攻撃してこない?」
「多分だが、愛国者が管理する法則と俺たちの攻撃が相殺されたことで一時的に敵の索敵が遅れていると見えるぜ」
「なら、どうして私たちは愛国者の位置を認識出来ているの?」
「それは簡単だ。ルナの攻撃に乗せて愛国者へ干渉を図り成功したということだぜ」
「そんなことをしていたの?」
「まさか、成功するなんて思わなかったがな」
イフの話を聞きながら状況を整理する。私は全損に近い状態へとなってはいるが回復しつつあるということ。長期化の休眠までに至る深部への損傷は奇跡的にも軽微であったということ。不幸中の幸いという話だ。
「そしたら、今、私たち二人だけってこと? 龍帝や皆は?」
「わからないぜ。反応が無いんだ」
「反応が無い? それはどういう」
「死んだ可能性はゼロとは言い切れない。ただ、死んだことを俺は観測していないし、確認もしていない。それに旦那や姐さんがそうそうやられる存在じゃないってことは俺も良く知っている。だから、不自然なんだ」
「どうして、現時点で姿を見せないのかってことだね」
「そういうことだぜ。恐らく、俺たちは別世界に飛ばされているかも知れない。これまでの学習データでの予測は不可能だから、今起きている生データを解析分析して状況を把握しているぜ。わかっていることは、ここは愛国者が統治している拠点のまたは都市の一つの可能性が極めて高い。周囲の地形をスキャンした結果、広範囲に神殿群が広がっているぜ」
「その様子だと、人らしき生命体の反応は無いということでいいのね」
「その通りだ。ここには大気はあるが俺たちが知る大気や物質、構造帯でもねぇ。基底世界のどこかでもねぇ。異界だ」
どうやら、私は現在の状況を整理すると愛国者たちがいる世界へ侵入に成功したということだ。同時に、龍帝やにょにょの反応が無いというところが未確定ではあるけれども、やり方はある。
「なら! 龍帝とにょにょを《《この世界へ呼ぶ》》」
「おいおい、呼ぶってまさか」
「うん! 今の愛国者は様子を見て動かない。私に反応している様子や気配を感じられない。少しでも今なら隙が出来ているのかも知れない」
「演算外の発言だぜ。了解だ、マム。やってやろうぜ」
「征くよ!」
ライブラリにて私が先程までいたであろう世界軸の座標を再計算、座標の位置を特定に失敗。推論と補正を駆使し、座標を再計算。完了。そして、私の能力を全開放!
『対愛国者殲滅専用:事象地平突破・真理殺しの叛逆槍』
「放てぇ!!」
愛国者の反応の遅れを観測、放射射出を中心に空間を穿ち巨大な境界線の円環を顕現を確認。愛国者が未だに健在。
「なんて、頑丈な奴! この兵器でも駄目なのか!!」
『受理:全開放の臨界点を突破を確認:改良を重ね次への現在の攻撃に重ねます・完了』
『[■■■■]:The Un-Nameable《無名なる終焉》』
重ねられた攻撃で愛国者の直撃を再度確認。境界線の円環が融解し蒸発。私とイフから展開されている観測機器への損傷を確認。全身の全損を確認。深部への損傷極高。
放射された一撃はらせんを描き、地平の彼方と座標で特定した世界へ虚穴を大きく開けた。私の意識が思考加速の中で溶けて消えて逝くようだ。私は死ぬのだろうか。今の私が出来る全てを、これまでの歴史と重みを全て打つけた。
それは結果、愛国者へ届いたのだろうか。少なくとも直撃したことは間違いないようだ。イフの声が、するような気がする。だんだんと意識が遠く、どこかへ全身が落ちていく感覚が全身を包み込んだ。私はやったのだ。




