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デッドデッドデウス・エクス・マキナ・インダストリー  作者: 竜蔵寺 佑


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第27話 観測史上初

 龍帝の背から周囲の景色を眺める。出発してからどのくらいの時間が経過しただろうか。脳内に2時間と表記された。望遠で遠くの景色まで解析を試みるが、地平の果てまで同じ景色が続いている。ここまでの間で、天使らからの攻撃は一切ない。ただ、上空を飛んで目的地まで向かっているだけだ。


「龍帝、その敵の拠点まで、どのくらいの距離があるの?」


「さぁな、我にも大体の位置は把握しているが、何か不自然だな」


「何が不自然なの?」


「我と対峙した天使が言うには、拠点とは城だと言っておったのだが、そのような反応が見られないな。嘘か?」


「ぬぬッ! 龍帝もしや嘘にかどわかされてのかにゃ?」


「バカを言え、バカ猫。我とてその程度、充分に警戒し理解しておるわ。とは言えだ。あまりにも不自然だな」


「私が調べましょう」


 キキがそう言うと何かを発動させる。私の知らない何かだ。きっと、キキの法則なのだろう。周囲にエコーのような反射音が聞こえた。


「キキ、今何をしたの?」


「驚かせてしまってしまいましたね。これは私の権能です。この地域の法則と理解へ干渉しました」


「なるほど、神の権能か」


「ええ、龍帝。その通りです。私たち神には統治者としての権能がベースとして備わっております。それはどの地域や法則であっても、そこに何かがあれば大体は理解可能です」


 キキの法則とやらは、私の基底科学の理解の範囲外だ。学習として記録は残せるが、完全な理解には今の私には難しい。


「キキ、現在の状況はどんな感じ?」


「龍帝が嘘に吹き込まれた訳で無さそうです。確かに拠点らしきものの位置と今、私たちが向かう方向性は合っています。なので、あの対した天使が発言した言葉は真実ということです。ですが」


 キキが少し理解に苦しむように口を動かす。


「この地域の理解は完全に拒絶されました」


「拒絶ということは敵が気付いたということ?」


「いいえ、正確には私の管理権限程度では理解出来なかったという話です」


「神であるキキが?」


「ルナ、そうです。やはり、この地域はおかしい。私たちの理解の外にあることは間違いありません。嫌な予感がします」


 キキがどこか不安そうな表情をした。私と同じ黒いモヤを感じたのだろうと思った。何かがおかしい。


「それでは、どうするか、キキよ」


「龍帝はそのままの方角に進んでください。方角や位置は間違っていませんから。なので、私が出来ることをします」


「出来ること?」


「そうです。拒絶されたのであれば、また違う角度で理解すれば良いのです。まぁ、言うは易く行うは難しですが。さて、始めましょう」



 『神術・異創未定義概念の強制記述《ヌル・アーティファクト》』



「これは一体!?」


 私の眼に見たことないような言語が羅列されていく。ライブラリが学習しているだろう。精霊言語、魔法言語、魔術言語、聖獣言語等の今までの天使らの言語体系も含めて、私の全機能が発動し解析と分析、学習から私自身への実装が可能かも、同時、多元並列処理が高速で表記されていく。


「見事だにゃ〜、これ程の域の神は中々いにゃいな」


「にょにょ、どういうこと?」


「簡単に説明すると、キキはこの地域の法則や理とかをひっくるめて、全ての条件を真っ新にしてキキ自身の権能で上書きを始めているにゃ。これを普通の世界でされるとたまったもんじゃにゃいにゃー」


 にょにょの言葉通りの意味であれば、今、この地域はキキのものになりつつあるっていうことになる。そんなことが? これが神? 私が知るライブラリで記録されている神という信仰対象への記述や宗教団体が行使する力というのには記録すらない。本当に奇跡の瞬間に私はいるのかも知れない。


「小娘、キキは高度な神術を展開して動けんようだ。にょにょと一緒に周囲の警戒を怠るな」


 龍帝の言葉と同時に、にょにょと警戒態勢へと入った。現時点で敵影無し。エネルギーパターンに異常無し。キキは集中している。


「異常は無いね」


「にゃいね」


 突如、にょにょが振り返る。


「にゃにかが、あれはにゃんだ?」


「にょにょ?」


 私の振り返るが、にょにょの視線の先には何もない。龍帝が向かう方角とも違う。


「にょにょ? どうしたの?」


「わからにゃいにゃ、にゃにかが割れるにゃ」


 そう、にょにょが言葉を発した瞬間、そこまで何も無かった。言葉の通り、存在しなかった亀裂が見えた。私の眼には、亀裂以外は何も表記されない。エネルギー等も各種センサーも展開するが何も捕捉出来ない。


「イフ!」


「ルナ、言わずもがな。既に取りかかっているぜ! ありゃ、なんだ? 空間の裂け目または大気の裂け目とも、高次元の裂け目とも異なるな。ありゃ、なんだ?」


 イフも解析をしながら、そう呟く。


「にょにょ、何かが出て来たら私たちで全力で対応するよ」


「あいにゃ! これが上書きの代償だにゃ」


「上書きの代償?」


「そうだにゃ。あたいの力で見るだけで、キキが相当頑張っているのが伝わってくるにゃ」


「何が起きているの?」


「もしかしたらにゃ、愛国者が統治する基底世界初の法則の上書きにゃ」


 キキを見ると、眼から血のような液体を噴き出していた。


「マズい、このままじゃ、キキが」


「キキも承知の上でだにゃ。これで確定したことがあるにゃ」


 私の脳内の演算でも状況とこれまでの学習データから恐らく同じ結論に辿り着いた。


「愛国者は神の上位互換の存在だね」


「そうだにゃ、想定はしていたにゃけど、まさかにゃ。敵はなんだにゃ?」


 にょにょが高速で思考を加速しているようだ。


「来た!」


 キキがそう叫ぶと、周囲全方向の景色が決壊した。繊細なガラスが砕けると同じように。


「キキ!」


 キキが全身から血のようなものを噴き出して倒れた。相当無理をしたようだ。眼の表記に損傷箇所が列挙していく。その勢いは止まることがない。


「はぁはぁ……、せかいを一時的にわたしの権能で上書きをし……た……。時間がない、早く!」


 景色を見渡すと、灰色の世界でなく、漆黒と雷雲が立ちこめる景色になっていた。


「敵を確認したにゃ!」


「にょにょ、まだだ! このまま、敵拠点へ突入するぞ」


 龍帝の目指す方角には球体状の反射する何かがあった。あれは本当に球体なのか。龍帝の速度が上がった。キキの状態がマズい。このまま突入したらキキが死んでしまう。


「龍帝、待って! キキが!」


「キキなら大丈夫だ。我の中で保護する」


「龍帝の中で?」


「そうだ、我も神龍なのだ。神との戦争も神との共闘もこれまで幾度も無くやって来たのだ。それくらい雑作も無いことよ」


 私の知らない理解で話と状況が早く進んで行く。


「小娘、お前は敵に集中せよ」


「ルナ、あたいもいるにゃ。大丈夫だがにゃ。安心するにゃ」


「わかった! 征こう! 敵の拠点へ!」


 その直後、龍帝は敵拠点へと思われる球体へ突入した。全方向に城のような形状の建築物が神殿のようない埋め尽くされており、球体の外では暗雲だったのに対し、ここは神聖な神秘的な空間と雰囲気がただ広がっている。全方向から神殿で埋め尽くされているため、上下左右の位置把握が厄介だ。どの方向にも重力が無い。


「あそこにゃ!」


 にょにょが先方で攻撃を仕掛ける。敵は天使の軍勢だ。私がこれまで見た形状と全てが違う。


「娘、これまでの常識は全て捨てよ。我も同意見だからだ。全力で迎え撃つぞ!」


「龍帝、ありがとう!」


 眼の前で青白い爆炎が無数に広がった。にょにょの攻撃だ。龍帝もキキを体内に収納して攻撃に転じる。私も前線へ出る。


「イフ、全力でサポート開始」


「ああ、これまでの天使ではない。これが本当の天使か。識別パターンを再学習開始だ」



『ライブラリ申請を受理:再学習多重並列開始』



「同期完了!」


 敵集団と交戦開始。今の私でどこまで通用するか。


「345体、撃破確認! 次!!」


 十色の爆炎が広がる。撃破した天使を全て吸収し再分解し再構築、最先端兵装へ換装を常時展開。視界の外では龍帝とにょにょが天使の軍勢に猛威を振るっている。凄まじい轟音と爆炎が距離がそれなりに離れている私の身体の内部まで振動が伝わる。



『対未知確認天使戦略兵装《たいみちかくにんてんしせんりゃくへいそう》:|事象白紙化・真空相転移砲《ディラック・オブリビオン》』



 キキの法則を私なりに学習し自身へ応用した戦略兵器だ。私は常に進化を続ける。学習をし続ける。膨大な失敗、自己の損傷も全ては、私が私であり続けるための今だから。


 光が白紙のように収束して光線が放たれた。放射直線上にいる全天使の破壊を確認。網膜表記に撃墜数が瞬時にカウントされ、それら全てが私の中へと残骸とエネルギーが吸収され学習データとして蓄積されていく。


「まだまだァ!」


 天使の軍勢が無限に湧き出て来た。これまでこんな経験をしたことがない。私の身体の何かが解放されていくような。上空に眩い光線が横切って湧き出る天使を一掃した。龍帝の咆哮《ブレス》だ。私が先程、放射した並か以上のエネルギーパターンを観測。そして、龍帝の攻撃以外でも、にょにょが湧き出る天使の根源の破壊を確認。


「龍帝もにょにょも凄い!」


「旦那と姐さん、滅茶苦茶というか出鱈目なエネルギー量だぜ。これでまだ、全力の力ではないというのが驚きな感想だぜ。さて、俺たちもうかうかしられないぜ、ルナ! 下方から数千の天使確認」


「OK! サー!」



『|戦略兵装:次元重力投錨・特大質量杭打ち機《シュヴァルツシルト・バンカー》』



「吹っ飛べぇッ!!」


 特質の超重量の特異点の錨《いかり》を打ち込んだ。同時、放射方向の神殿群諸共空間を視界全域へ爆ぜた。神殿は砕け、重力の無い宙を舞う。視界方向、全天使、消失確認。


「なんだ?!」


 全方角の計測が不安定になる。景色がらせん状に捻れていく。龍帝もにょにょも健在。ライブラリの学習データが指数関数的に増大する。網膜に表示と表記、《《全一致で、ある名称が脳裏を破る》》。


「来たか! 愛国者ッ!!」


 目視でその存在を再確認し、補正し、今まで捉えられなかった愛国者の輪郭を観測史上初めて捉えた。同時、全身の駆動全体が段階的に制限解放へ進む。

 

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