第26話 敵の拠点へ
白い灰の世界を索敵しながら飛行して向かう。龍帝たちのことへ向かう途中に天使の雑兵が多数出現し、全て瞬時に消滅させた。実感としては手応えがまるでない。私自身が強くなったという証拠なんだと思う。これは、これまで学習で活かされた結果だ。
「龍帝たち大丈夫かな」
「旦那や姐さん、それにあのキキもいるんだぜ。そりゃ、大丈夫だと俺は思うぜ。ほら、そう言っている間にこの衝撃波」
白い灰が舞い上がる。草木が白く灰で覆われて、大気中を反射しながら宙を舞う。幻想的ではあるが、その灰には濃い殺気が込められている。きっと、龍帝も白い灰の天使と戦闘しているに違い無いと判断した。
「龍帝、援護に来たよ!」
「なんだ、小娘遅かったではないか? その様子だと苦戦したか?」
龍帝は天使たちの軍勢を簡単に蹴散らしていた。
「ここに強い天使はいなかった?」
「いたぞ、もう消失したがな」
「やっと、残りの天使を掃討したにゃー! キキも大活躍だにゃ」
「キキ、大丈夫?!」
「私は大丈夫。龍帝やにょにょさんはとんでもなく強い存在で圧倒されました。先程は、取り乱して申し訳ないでした」
キキがペコリを頭を下げた。
「いいんだよ。それよりも、施設への被害は大丈夫なの?」
「ええ、おかげさまで。これもお二人が天使たちを撃退してくれたおかげです」
「我にかかれば、この程度、雑作もないこと」
「そうだにゃー! 良い運動になったにゃんだにゃ!」
「本当に私が眠っている間に、二人ともとんでもなく強くなったんだね」
「当たり前だにゃ! 鍛えに鍛えまくったにゃ」
「我も鍛錬をしていたのでな。それに今回の一件で敵の実力が大まかにわかった」
「龍帝、それはどういう意味?」
「今回、ルナが判別した天使のクラスは何だったか?」
「レベル6相当の天使で間違い無い」
「うむ、恐らく我らにも御方たちからの指示で、この施設への攻撃をしたと天使らが発言していた。だが、その御方たちという存在は確認出来ていない。しかし、この天使は我らの想定以上に弱い」
龍帝の言葉に驚いた。今の龍帝たちにとって、天使のレベル6相当では弱いという認識なんだ。私は倒したが、圧勝ではなかった。辛勝というところだろうか。
「龍帝、ここにいた天使はその御方という存在について、どこまで言及していた?」
「うむ、複数いるということは確かだ。それに愛国者という名称はその一角の名称に過ぎないと」
「他にも呼び方があるということね」
「そのようです。現在、私たちには愛国者と御方という存在は同一して問題ないかと思われます」
「キキ、どうしてそう思うの?」
「あの天使を私たちそれぞれの世界で見ているからです。ただ、その時は何故か対処出来なかった。その時は何故か苦戦したというのは、推測するに別世界へ介入を愛国者という存在が始めた際に私たちの力を大幅にあらゆる誓約と条件を無視して制限したという事実です」
「今回、キキもその天使を倒せたということ?」
「いえ、私にはまだ力が戻っていないようです。周囲にいた天使は倒すことが出来ましたが防御する一方でした」
「キキ、案ずるな。その内に我らのように力の制限を緩和出来るであろう」
「龍帝、ありがとうございます」
「そうだにゃ」
何故、キキはこの世界に長く居るはずなのに力の制限を龍帝たちよりも受けているのだろう。にょにょも制限を緩和しているみたいだし、来た世界によって個体差があるということなのかな?
「さて、危機は一先ず去ったな。だが、油断は出来ぬな」
「そうですね。施設は既に封鎖しましたので今後干渉されることはないですが、敵を殲滅したと相手にも確実に伝わっていると思われます」
「にゃら、先に進むしかにゃいな。ここに居てもまた襲われるだけだにゃ」
「うむ、そうだな。移動を開始しよう」
「龍帝、どうやって移動する?」
「うむ、先程、滅した天使が言っていた拠点へ行こうと思う。大体の位置は理解しておる」
「龍帝、天使とそういう会話をしていたの?」
「ああ、情報収集するためにな。会話をする天使というのはこの基底世界では初めてでな。だが、やはりというべきか、我らの知る天使とは異質」
「そうですね。神としての私でもあれは本来の天使とは異なる存在で間違いないでしょう」
「あたいも同意だにゃ。あたいもあんな天使みたことがにゃいな」
三人とも神と同列の存在だ。それぞれの世界にも天使というのはいたのか。いや、そうなのだろう。だけど、この基底世界の愛国者たちが使役している天使は別モノということなのか?別世界だからという話ではニュアンス的にそうでは無さそうだ。
「三人に確認だけど、皆の世界にいた天使とは大体は同じものという意味でいい?」
三人の返事はそうだとのこと。
「ルナ、ここは移動しながら話をしましょう」
「そうね。移動は徒歩というわけにはいかないよね」
「そうだにゃ、この白い灰は邪魔だにゃ」
「我が龍化する。背に乗れ」
龍帝が本来のドラゴンの姿に戻っていく。全員が背中に乗り白い灰が降る世界の上空へ低うした。
「この白い景色、かなり広範囲まで広がっている」
「天使の気配はにゃいな」
「そういえば、空中で敵に気付かれて可能性は?」
「まぁ、どう対策しても気付かれるのは時間の問題だろう」
龍帝は一応、結界を張っているようだ。不可視の結界らしく、気配や存在そのものを消して移動出来る便利結界のようだけど、この基底世界で通用するかというと龍帝の常識が通用するとは最初から思っていないようだ。それは、他の二人とも同じらしい。
「龍帝、行き先を知っているってことだけど、どこに向かうの?」
「あの方向だ」
龍帝で旋回して方向を示す。遠い先まで白い灰一色だ。下には森だろうか、白い灰で埋め尽くされている。
「キキが以前、外に出た際にはここはこういう状況だった?」
首を静かに振う。
「いいえ、まるで景色が違います。以前、私が来た時には大森林の状態で、見たことも知らない生命体が多くいました。このような白い灰色の世界では決してなかったです」
「記憶違いってことはにゃいか? 幻の類いにょかの可能性は? 愛国者の力なら神相手でも幻覚か錯覚させることは簡単にできるはずだにゃ」
「確かにその可能性は充分に考えられますね」
「キキがその時、苦戦した魔獣というのも実は天使の仲間だったという可能性もありそうね」
「もし、神を欺く幻覚の類いが使用されたのであれば私の権能が察知するはずなのですが。その可能性がゼロではない限り、魔獣の正体も天使だったという可能性は充分に考えられます」
「今、私たちが話をしている内容はあくまで推論の域を出ないから、今の考えも確定じゃない。キキが以前、来た世界が上書きされたと考えてもいいかも知れないから」
「そうだにゃー、愛国者とか御方とかどんな存在にゃのかにゃー?」
「私にも分かりません。類似する神はいませんね。それよりも上位の神? いや、本当に何でしょうか」
二人は深く考えていた。私が知っている愛国者という情報は完全人と有史以来の敵という認識だ。災厄の元凶であり、基底世界という歪んだ世界を構築した張本人と私は理解している。少なくともクレマティエルという天使が言うには、御方たちという複数人を示唆する発言を見るに、やはり個体ではなく規模はわからないが集団であるということは間違い無さそうだ。
「この先は、天使が言うには聖域だと言ってた。だから、これまでの常識は一切通用しないと考えた方がいいね」
「そうですね、ルナの言う通りです」
「そうだにゃ。今回の成果は天使を楽々倒せたということかだにゃ」
「バカ猫、油断するでないぞ」
「にゃにぃ〜!! この黒変態トカゲハゲおっさん!」
「貴様ッ! 我にハゲと、また戯れ言をォ!!」
二人が激しく何か騒がしく言い合い始めた。
「あ、あの、ルナ。あの二人はいつもあんな感じなんですか?」
「ええ、気にしなくていいよ。いつもの二人だから」
「は、はぁ」
キキの肩の力が抜けていくように見えた。龍帝とにょにょが言い争いをしてじゃれている間は、まだ余裕があるってことだ。私が寝ていた時は誰が仲裁に入ったんだろうか。ふと、頭を過った。
「ルナ、それは俺だぜ」
「やっぱりイフか。そうだよね、イフしかいないもんね」
「まぁ、俺が見えている範囲では基本毎日あんな感じだぜ。仲が良いこって」
「それはそうだ。仲が良い証拠だね」
「ルナ、クレマティエルの解析が完了したぜ。既にルナの中で融合してある愛国者の素体をベースに性能が上がったぜ」
「それは凄い助かるよ」
身体の内部から力が溢れ出る感覚。これが、天使の力。クレマティエルか。白い灰の効果が眼に表示された。やはりというべきか、天使以外には状態異常が出る有害な成分の検出された。きっと、龍帝やにょにょ、キキにも影響があったのだろうけれど、三人とも平気そうだ。
「三人とも、この白い灰の解析が終わったんだけど、かなり有害みたい。全員大丈夫?」
三人からの返答は「問題ない」とのこと。そもそも、今回対峙した天使が放つ程度の状態異常では通用しないということだ。私自身はどうだろうか、イフが言うに目立った問題は見当たらない。ただ、それは今の私だからという可能性が極めて高いとのこと。
「今のルナなら平気だぜ。素体をベースに俺たちは学習して適応しているしな」
「イフ、ありがとう。そうだね、でも、こういう敵を吸収しないとわからないこともあるってことを知れて良かったよ。これは学びだ」
「そうなんだぜ、今の俺たちはもっと強くなる。きっとな」
「ああ、そうだね。これから目指す先にもきっと大きな脅威がいるんだろう。その拠点というところには何があるんだろう」
「まぁ、拠点というからには敵さんが、わんさかいるという認識で良いと思うぜ」
「愛国者たちについての情報が得られると良いんだけれど」
「それは俺にも正直わからないぜ。敵さんもこちらが先遣隊を倒したということは把握しているはずだから、きっと対策を用意してくると思われるぜ」
「激しい戦いになりそうだね」
私の中で、ざわりとしたざわめきと黒いモヤが同時に湧き上がった。




