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デッドデッドデウス・エクス・マキナ・インダストリー  作者: 竜蔵寺 佑


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第25話 白い灰色

 施設への衝撃が大きくなる。やはり、最奥に近づくほど振動のが強く大きく揺れる。


「あそこを真っ直ぐだ!」


 イフが先導して案内をする。イフのバックアップでキキが対応している。キキの表情には余裕が無く見えた。それ程の異常事態ということか。


「あれだ! あそこがこの施設の最奥で、外に出るための隔壁だぜ」


「これはなんだ?」


 扉というよりかは、封印されているような状態で開閉出来ないように何かの物質だろうか。隙間無く固定されている。


「キキ、これはどう開けるの?」


「この扉は私の権能以外では解錠できないように誓約を設けている。だから、外にいる何かが、簡単に侵入出来ないようになっているんだ」


「開けられないということ?」


「いや、誓約を破棄すれば解錠は出来る。だから、今開ける」


 キキが右手を伸ばし、手の平を扉へ向けた瞬間、扉を固定していた物質が溶けて消えていった。


「もう開けることが出来る。今、開くよ」


 鈍く重い音が通路内を響かせる。幾重にも厳重に重ねられた隔壁のような扉が開いていく。通路の向こう側へと全員で歩みを進めた。キキが言うには、この扉はキキが一時的に解錠したに過ぎないようで、また扉がしばらくしたら閉まるということだ。理由は簡単で外にいる、外敵からの侵入をキキが管理していた地域へ侵入させないためらしい。


「ここが!」


 私の眼に移った景色は白い世界だった。白い何かが積もっている。後方には扉が閉まっていく。


「イフ、敵の配置は?」


「ああ、俺たちは囲まれているぜ」


「ふむ、強いな」


「腕がにゃるな」


「キキ、休んでいて」


「いや、僕も戦うよ。施設が今も攻撃されているという連絡が来ている。きっとこの状況を早くなんとかしないと、私の民たちに悪い影響が出てしまう。きっと大きな厄災になってしまう」


 キキの表情には焦り、恐怖、冷静、怒りが同時に見えた。私の眼は索敵をしないでもこの威圧はよく伝わる。敵は今までとは比べものにならないと。


「では、生き残ることを最優先にしつつ、ここの敵を掃討するよ」


「我とにょにょとキキで周囲の雑兵を相手しよう」


「まっかせるにゃ!」


「私の大切な民へ牙を向けたことを後悔するがいい!」


 龍帝は雑兵というけれど、識別パターンレベル6以上の天使だ。そして、私の眼にその姿が見えた。敵だ。


「ライブラリにアクセス、識別パターン学習開始」



『受理:ライブラリへ対天使用識別クラス不確定と想定・戦略兵装を実行・完了』



「OK、戦闘開始」


「イフ!」


「あいよ、敵さんの情報を分析中だぜ。ってか、こりゃ凄ぇエネルギーパターンだな。本当に俺たちが知っている愛国者の配下である天使なのか?」


 巨躯の天使が襲い掛かる。凄い速度だ。今の私でもギリギリで回避だ。空間の配置を無視している? いや、次元移動? それでもない。なんだ、この違和感は?


「ちッ!」


 巨躯の天使に向けて、ライブラリからの兵器兵装を換装し殴打による戦闘開始。広範囲では龍帝らが猛威を振るっている。戦況は混乱している。だが、劣勢ではないことだけは確かだ。それでも、長時間戦うわけにはいかない。施設から距離を取り、天使たちの注意をこちらへ集めつつ侵攻することが必要だ。



『慣性質量励起式・重殻腕《ニュートン・ドライブ》』



 超重力級の殴打の連撃を放つ。だが、全て回避されてしまう。座標の軸がズレたか。この攻撃ならば、当たればレベル5以上なのか、確定するデータが取れるのだが。


「ならば!」


 座標がズレているのではなく、敵が何らかの方法でズレさせていると解釈し補正。そして、直後、殴打の直撃が巨躯の天使の腹部へと当たる。天使が粉砕出来ないのを確認し認識したため、識別クラスはレベル6以上と認定。ライブラリでこれから起きてる龍帝らも含めて全てのこの場にある情報を学習と進化に充てるように実行を開始。


「やるね、君」


「?!」


 今、天使が発したのか? 言葉を? え?


「何を驚いている? 同胞を倒したと数多くの報告が上がってきたが、今回は当たりのようだ。前時代の遺物にて我らの敵ルナ」


 コイツは何を言っている?


「天使が言葉を発するなんて、聞いたことが無いぞ?!」


「知らないのか? ああ、貴様がこれまで倒して来た天使らは我らとは与えられたいるものが異なるせいだ」


「何を?」


「おやおや、理解が追いついていないようだね。我らの目的はルナらを殲滅すること」


 天使が自分の目的をペラペラと話始めた? 情報を収集するには好都合だが、偽情報か別の思考や意識への誘導という線は考えられないか? いや、だが、ここは。


「お前らを殲滅するのは私たちだ! お前に攻撃が当たるということは倒せるということだ」


 瞬時に殴打による攻撃を直撃させる。先程の攻撃をさらに学習した上で上書きをしているため、先程の比較にはならない程の威力だ。巨躯の天使の腹部から背中へ掛けて衝撃波が貫通し背後にあった白い結晶体構造物を微塵に破壊する。


「効かないね。いくらか、この程度か」


「私の攻撃が通用していない?! 物理の拒絶か!」


「正解」


 顔面に衝撃が走った。頭が割れそうだ。痛い。大地に直撃した。


「くそったれ!」


 頭部から流れる血を拭う。瞬時に傷は回復。機能に問題無し。問題はあの巨躯の天使が物理攻撃の拒絶をしたということだ。考えられる手段はまだ多くある。ライブラリが学習を加速させ、巨躯の天使へ適応を始める。


「御方の前に滅するがいい」



『主の嘆きをここに。不浄なる大地に、白き慈雨を降らせ給え:恩寵の白灰雨《グレイス・アッシュフォール》』



 視界全面に光の雨が降り注ぐ。光とは言いようだ。まるで別モノ。死を振りまく殺意の豪雨だ。熱を感じる。恐らく、かつての私だったら一粒が表皮に当たっただけで致命傷だっただろう。それが全身へ直撃した。回避しようにも激しい攻撃がそれを許さない。この攻撃は基底科学の常識を逸脱している。


「まだまだ、息がありそうだな」


「はぁ……はぁ……」


「我らの攻撃を受けてなお、全身を維持しているとは頑丈な奴よ」


「ああ、お前らのことを常に学習しているからな?」


「やはり、御方の何かを体内に取り込んだか。で、なければ我らの恩寵による攻撃を耐えられる道理ではあるな」


 何かを解析しているようだが、私にはどうでもいい。あの巨躯の天使を倒さないとここで皆が全滅してしまう。他にも同程度の天使がいるとなる場合、龍帝たちにも苦戦を強いられているのかも知れない。


「貴様! 貴様は愛国者の何なんだ!」


「愛国者。御方の名称。ああ、素晴らしい響きだ。我らの御方《おんかた》たちの」


「御方たち?」


「ええ、御方は全知全能で全ての力を有している存在たちのことです。我らはその配下。さて、貴女の中にいる御方の何かを取り込んだということは、御方たちへの侮辱である」


 巨躯の天使の目付きが濃い殺意で私を突き刺すようだ。


「では、私はここで死ぬのか?」


「ああ、そうだ」


「ならば、最後に貴様の名を知りたいな」


「いいでしょう。前時代の遺物のルナ。我らは焦土の殲滅天(スコーチ・ドミニオン)にて、我の神名は白灰《しらはい》のクレマティエル」


「へぇ、クレマティエルね。ふふ」


「何が可笑しい?」


「いや、天使は名無しだとずっと思っていたから可笑しくて」


「挑発のつもりか?」


「ええ、そうよ。この白い景色もきっとその二つ名が指す通りの白い灰で構成されているものね。ここは貴方のクレマティエルの領域」


「それを知って絶望したか」


「いいや、こんなに私にとって都合がいい状況があるって思っただけで」


「何を?」


「気付いたようだね。でも、もう遅いよ」



『解析完了:対焦土の殲滅天《スコーチ・ドミニオン》専用の戦術兵装換装完了』



「貴様ッ!」


「ええ、貴方の先程の攻撃を学習したわ。そして、理解した。この環境全てが貴方で出来ているのであれば、周囲の全ては情報の塊」


「化け物め!」


「御方たち? そいつらをぶっ倒すために私は一人になっても戦い続けて多くの仲間を失っても前へ進んで来た! それは、今までもこれからも変わらない。私は皆の屍を越えて前進して事を成す」


 クレマティエルが攻撃態勢を取る。



『我は穿つ。主の御前を阻む、すべての驕り高き壁を:断罪の天神柱(メギド・ピラー)』



 灰色の天井を覆う巨大な光の槍を見た。歌が聞こえる。これは何かを讃える歌か。精霊の言葉とは似たようで異なる音色と言語だ。内容は聞き取れない。必要無い。



『絶対零度・熱死の氷棺《ケルビン・ゼロ・エピタフ》』



 光の槍と私の攻撃が相互に直撃する。そして——


「ばッ……かな! 我の恩寵が赤く砕けた」


「終わりだ。クレマティエル。色々情報をありがとう。これで御方たちという存在を倒す材料が手に入ったよ」


「貴様ッ!」


「もう終わり、そう終わりだよ。クレマティエル」


 次の攻撃をクレマティエルが発動しようとした瞬間、赤い結晶に包まれて砕けた。


「なッ!? これはどういうことだ?!」


「混乱しているようね。教えてあげようか。私の攻撃はあなたのあの槍を攻撃したんじゃない。あなたごと攻撃したの? 気づかなかった? あなたを構成している天使構造はもう学習済みなの。だから、もう貴方じゃ私には届かない」


「有り得ぬ、この我が滅すられぬなんて……」


「——私は前進する。貴方を越えて」


「御方たちが黙っていないぞ。これから先は我らの聖地。貴様ではどうにも……」


 クレマティエルは最後の言葉を発言するまでも無く、赤い結晶体に包まれて消失した。残骸も私の中へと吸収し、イフへ解析と分析を進めさせて結果が出た。


「ルナ、コイツは識別クラスレベル6の天使だと確定したぜ」


「やっぱり、コイツは天使で間違い無いのね。会話をしてくるから、天使とはまた異なる存在かと思ったよ」


「ああ、どうやら、レベル5を境にして、知能と力が比較出来ない別モノだということだ」


「コイツの素材、私に活かせそう?」


「もう、やっているぜ。ここはコイツの支配領域ということが周囲に広がる白い灰色の世界が証明している。それに同じエネルギーパターンだ。今後もこういう奴らが出てくるという認識でいいと思うぜ」


「イフ、ありがとう。龍帝たちの様子はどう?」


「ああ、現在、レベル6相当の天使と交戦中。他にもレベル5相当の天使が雑兵《ぞうひょう》扱いでうじゃうじゃいるぜ」


「わかった。それじゃ、龍帝の援護へ行きましょう」


「ああ、案内は任せろ」


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