第24話 襲来
「本当に我らと同行することで相違ないか?」
龍帝が低い声で、入念に再度、キキへ確認をする。
「ええ、私も同行します。その方がいいでしょう」
少年は笑顔のままだ。
「小僧は、神だと発言したな。力の制限についてはどうしておるのだ?」
にょにょも、その話になった途端、耳をこちらへ傾けるが見えた。
「貴方も制限を受けておられるのですね。そうです、私自身も未だに以前の程の力を有しておりません。ですが、貴方達もそれは同様でしょう?」
「そうだ。我らも他から巻き込まれた存在として、力の制限を常時受けておる。これを小僧でも制限を外すことは至難か」
「ええ、難しいですね。私の言葉と認識で、貴方達、神と位列が同列である存在もまた制限を受けている。この現象だけでも充分な情報です」
キキは嬉しそうに語る。
「神である、小僧でも制限を受けているか」
「ええ、この基底世界と呼ばれる愛国者が統治している全てにて、例外無く他の世界から招かれた、恐らく大半の巻き込まれた存在らはすべからずして同じ状況でしょう。元の世界への戻り方も分からず、ただ制限されている状態というのは、完全な私たち高位の存在の無条件の制限を掛けている証拠」
「ふむ、我と同意見だな」
龍帝が深く熟考するような仕草をする。
「さて、そろそろ、お兄さんの名前をお伺いしても?」
「そうだな、小僧、いや、キキを認めよう。我は龍帝オブリビオンである」
「ほぅ、神龍ですか。それで懐かしい威圧を感じたのは」
「そうだ。キキの世界にも居たのか?」
「ええ、神の龍は確かにいました」
「いました、ということは」
「ええ、龍帝の推測する通り、全滅です。圧倒的理不尽さの前で、たった一撃であの神龍らが一掃されました。龍帝、貴方がいた世界がでも同じことが起きたでしょう?」
「ああ、そうだ。我の世界は総力戦で世界の半数が消失した」
「ふむふむ、なるほど、龍帝の世界においては私の世界とは力の差が圧倒的に上とも解釈が成り立ちますね。もしくは、愛国者の個体差によって攻撃力または破壊力に差が生まれているのか。興味深いところです」
「にょにょはどう思う?」
私の問いににょにょが目を覚ました。
「あたいも同意見だにゃ、あたいの世界は神ら諸共消えちゃったにゃから、あたいしかいないにゃ」
「にょにょさんの世界では、そういうことが。なるほど」
「キキ、貴方は私たちと同行するってことだけれど、次へ進む方法は知っているの?」
「ええ、もちろん。この施設の最奥にある隔壁から外に出ることが出来ます」
「キキ、お前は外に出たことがあるのか?」
「ええ、龍帝。ただ、私一人の存在では、難しい難易度でした」
「ほぅ、どういう意味だ?」
龍帝が前のめりで、キキの話を聴こうする。
「あたいも気になるにゃ!」
「俺も気になるぜ!」
「私も!」
「ええ、隔壁の外には恐らく魔獣と別世界の生態系が続いています。これからは世界のことを地域と呼びましょうか。私が前回、探索した範囲では知的生命体の反応が見られました。ただ、動物の類いではありません。正確には魔の者でも無いのですが、通称名として私は魔獣と呼んでいます」
「その魔獣とやらは、我らの知る魔獣とは異なるのか?」
「ええ、他の世界のことを全て私は知りませんが、恐らく共通認識として魔力を帯びた生物または瘴気を含んだ生物ではありません。ただ、独自の地域で進化し発展しています。これまで貴方達が経験してきた次元とは危険度が格段に上がるという認識を持っていただければ正しいです」
「興味深いにゃ、魔族ではにゃいってことだにゃ?」
「そうです。魔族ではありません。この基底世界と呼ばれる独自の生態系で生まれた存在でしょう。たった一人の神如き程度では魔獣一匹すら仕留めることは不可能でした」
「そんなに? キキは神様なんでしょう? さっき武闘派って言っていたし」
「そうですよ、ルナ。私は神であり、それなりに戦えます。決して足手まといにはならないと断言は出来ませんが、神の中ではダントツに強い方だと自覚していますよ」
「なるほどな、つまり、このキキが統べている未知の領域の技術や文明レベルよりもさらに次元が上がった危険な地域という認識でいいか?」
「ええ、龍帝。それで間違いありません。ですので、少しでも戦力になりたいと思います。きっと、このメンバーであれば、あの強力な魔獣でも対処しようがあると私は確信しています」
キキは自信満々に発言する。そこには迷いも不安や陰りも一切ない。真っ直ぐな瞳で私たちを直視した。
「なぜ、我らなら対処出来ると断言する」
「それは簡単です。それぞれが異なる法則を纏っているからです」
「それはそうだにゃ、あたいもこのドラゴンや、ルナも異なる世界の住人にゃし、キキもあたいたちとは別の存在。それなら対処の選択肢が多くなるってことだにゃ?」
「そうです。にょにょ。私一人では攻撃や防御、思考や視点に多様に物事を見ることが、この基底世界においては困難ということです。ここにいる存在らであれば、打開方法も見つかると私は心の底からそう思うのです」
「そうにゃね、ただ、気になる点があるにゃ。その魔獣は本当に魔獣なのかにゃ?」
不思議そうにキキが首を傾ける。
「にょにょさん、それはどういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だにゃ、この基底世界において天使や同調者という存在を、あたいたちは確認し戦闘しているにゃ」
「天使、同調者? それら私にもわかりません。私が遭遇した存在は全て天使や同調者という存在だったのかも知れません」
「では、愛国者の領域として警戒すべきだな」
龍帝が確信を持った口調で話す。
「どうりで中々倒せないわけだ。貴方達が来てくれて情報を共有しただけで、視界が晴れた気がします」
「ルナ、どう見る」
「正直、直接対峙しないとわからない。ただ、最低、天使の識別クラスは3以上というのが私の推測だね」
「うむ、今の我らであれば、ある程度は撃退できるかも知れぬというところか」
「そうだね、龍帝が考えるように、私にもここではっきり断言することは難しい。もし、この先が愛国者の領域が広がっているのであれば気を引き締める必要があるね」
「ふむ、小娘の言う通りだな」
「あたいはやる気まんまんだにゃー」
「そうだ、キキ、紹介し忘れていたね。あたしの相棒のイフだよ」
「おおぉ、私のシステム言語をハッキングした生命体だね。改めて、よろしく、イフ」
「おう! 俺はイフだぜ。よろしくだ、キキ」
「ちなみ、イフはどういうことが出来るの?」
「ああ、そうだな。例えば、周囲の索敵や物資の創造を周辺の物質を再構築して出力することが可能だぜ。他にも食料や飲料等なども生み出すことが可能だぜ」
「へぇ、凄い。これが基底世界の技術か。ルナは人間とは違うけど、基底世界の人間は皆、こうなの?」
「ルナは完全なる人と書いて、完全人と呼ばれる生命体だぜ。かつての人間が夢見た理想の人間の完成形だ。もう、俺の知る範囲だと残存はルナだけになっちまったけどな」
イフの陽気なトーンが少し下がった。
「そうか、完全人か。この基底世界でも人類は進化の歩みを止めなかったんだね。それはどの世界でも同じということか。それも興味深いことだ」
「そうだな、我の世界もそうであったな」
「あたいの世界でもにゃ」
「人間とは無限に想像し創造の歩みを止めない奇跡な存在なんだね」
「どうだろうな、良くも悪くも、この基底世界を作っちまった原因でもあるけれどな」
「それでもだよ、イフ。それが、今の私たちを巡り合わせてくれた。きっと何かの運命を感じ無いかい?」
「キキ、あなたは何を言って」
突如、施設が大きく揺れる。何だ?
「なんだにゃー!!」
「この揺れはなんだ!」
「キキ!」
「この施設が揺れる?! 有り得ない! 空間の領域と隔絶した施設なのに。まずは状況の確認を」
『特異点統御自律知性:起動!』
キキが何かに命令している。この施設全体から、イフと似た感覚を受けた。
「おいおい、このシステム名の名称ってか?」
「イフ、これは一体」
「俺もシステムと今、接続している状態だからキキの判断だろうな、俺にも現在の施設の状況が把握出来ているぜ。これは、《《敵襲》》だ」
「敵襲!?」
「ああ、しかも、このキキが言う通り、隔絶した空間に対してに攻撃を開始しているぜ」
「キキ、この状況は過去にもあった?」
「いや、私の記録では存在しない。いや、もしかして、この施設へ干渉を始めた? 有り得ない! 私が構築した権能領域だぞ」
キキが焦っている。こういうことは今まで無いという。龍帝とにょにょは冷静に状況を分析しているようだ。イフも解析を始めている。
「キキ、どこから攻撃を受けているの?」
「信じられない……」
「キキ!」
キキの両肩をがっしり掴んで、眼の見た。
「有り得ないんだ! この施設という神殿に全方位から正体不明の何かに攻撃を受けている……」
キキの眼には、状況を正しく整理をしようと全力で思考加速しているのが読み取れた。今まで本当にこういう事態は起きていないということだ。
「イフ、状況は?!」
「ああ、ルナ、敵さんの識別パターンが判明したぜ。俺たちも今まで経験したことがない。敵さんだ。識別パターンは天使。レベルは5相当」
「今、イフ、なんて?! レベル5相当?! 天使ということは間違いない?」
「何度も照合した結果がレベル5相当の最高位の天使だと識別している。だが、この識別パターンは今まで経験したことが無い天使のパターンだ」
「つまり、それって」
「観測史上未発見のレベル6以上の天使という認識でいいぜ」
識別レベル6以上だなんて、私たちが戦闘してきたどの驚異よりも遙かに上ってことだ。
「小娘、この施設を脱出するぞ。ここに居ては持たん」
「何故、今なんだ!」
「キキ、落ち着くにゃ! このタイミングといい。確実にあたいたちを標的にしているにゃ。この施設を下層にいる皆のためにも被害は最小限に抑えるべきだにゃ。急いで最奥に向かうにゃ」
「ああ、わかった。急ごう!」
「イフ、案内をよろしく!」
「おうさ」
施設全体の揺れが次第に大きくなる。軋む音が鈍く重い。私たちはこの施設の最奥の出口へと指定された最短距離を抜けながら向かった。




