第22話 部屋の扉
「着いたにゃ」
にょにょが指さした方向には宙に浮いた扉があった。
「これは? 3メートルぐらいあるのかな」
「凄い彫刻だにゃー、聞いていた通りの状態でにゃ」
「にょにょ、この扉のこと知っているの?」
「そうだにゃ、都市長さんから事前に聞いていたにゃ。そして、この扉を開けるにはこの鍵が必要なんだにゃ」
にょにょが、鍵というものを服の中から取りだした。
「これが鍵? あの宙に浮いている扉を開けることがこれで出来るの?」
「そうだにゃ、まぁ見ているにゃ」
にょにょはそういうと扉の前に近付き鍵を宙に浮いている鍵穴らしきものへと差し込み、ガチャンという金属音なのか、扉自体の音なのかはわからないが、複雑な音に私には聞こえた。
「にょにょ、開いたの?」
「開いたにゃ、入るにゃよー」
宙に浮いた扉を跨ぎ中へと入る。中は真っ暗だ。
「イフ、周囲の警戒を」
「あいよ、だが、ここは……」
「うむ、次元移動に生じる通路と性質が似ておるな」
「変な色をしているにゃ」
にょにょには、この暗闇で何かが見えているようだ。
「にょにょ、この暗闇で何が見えるの?」
「ルナの場合にゃは、眼のフィルターを変えるといいにゃよ」
「わかった」
通常の暗視や光が無い場合のフィルターには既に変更していたが、それでも見えなかった。波数と周囲の状況を分析と把握しながら最適な眼の状態へフィルターを変更した。
「うん、見えるようになった。ここは洞窟?」
「小娘、見えるようになったか。そうだ、ここは一見洞窟のように見えるがそれは一時的な状態でしかないようだ」
「確かに、物質じゃない何かで洞窟っぽい見た目をしているけれど」
「ここは狭間だ。何かのな」
「ルナ、ここは異なる地域と地域が癒着している場所だがにゃ。あまり長いはしない方が良さそうだがにゃん」
「先を急ごう」
全員で洞窟を歩いて移動した。距離はそれなりってところだ。次第にまた周囲の様子が変わってくる。
「また、波長が変わった」
「こりゃ、驚いたぜ。ここには高度な文面があったのか?」
「イフ、これは基底科学のもの?」
「いや、これは俺たちが知っている基底科学のものではないぜ。違う方向で俺たちの技術を遙かに上回る文明のようだぜ」
「私たちより違う発展した地域か。人はいるのかな」
「いや、周囲の索敵には生命体の反応はこの周辺にはいないようだぜ」
「ここは何かの施設か?」
龍帝が不思議そうに呟く。
「龍帝の旦那、その通りだぜ。例の調停者がいる施設って線で間違い無さそうだぜ」
「では、都市長の発言と文献の内容がおおよそ一致するな」
「機械がいっぱいだにゃ、探索だにゃ!」
「何が出てくるかわからない未知の場所だから、注意をしていこう」
私がそう言い、全員で施設を回った。動力は稼働しているようで、施設全体に照明が点灯して明るい。私が知っている施設とは似てはいるが、確実に別世界の代物というのは見ただけでわかった。眼に移る分析と解析結果が私の知らないもので、かつ、ライブラリにすら該当するものは存在しない。
「うにゃ? これは何だにゃ?」
にょにょが何かを見つけたようだ。セキュリティ対策だろうか。認証についての何かが表示されている。私の知る言語ではないが、試してみる価値はある。
「イフ、多分、この表記はセキュリティについての言及だと思うけれどアクセスは出来そう」
「ああ、ここには通信が通っているからアクセス可能だぜ。早速開始だ」
イフがセキュリティに向けてアクセスを開始した。周囲に量電子帯で構成されたコードらしき羅列が複数に展開された円形状へ表示されていく。私もイフのバックアップで支援しているが、私では高度なシステム言語体系で理解が今は追いついていない。イフがダウンしないように支援するのが精一杯だ。
「なるほど、この施設は下層にあった地域らとはまた異なる地域の文明ということか。我も知らない未知とは」
「あたいも知らないにゃー、ここの施設は都市長さんの話で聞いていたより100倍凄いにゃ」
龍帝とにょにょが施設が、どのくらいの文明レベルだったというの理解しようとしている。私も眼に表示される以外で、肌感覚として凄い文明があるのだと理解しつつあった。だけど、疑問が残る。これだけの文明を発展させながら何故、愛国者に丸ごと融合させられたという謎だ。
「龍帝、この地域の文明は凄いと思うけれど、どうして基底世界へ融合されてしまったのだろう」
龍帝は少し深く考えるように沈黙し、一拍置いて口を開いた。
「それは、この地域を管理していた存在または神をごと飲み込んだという線が高い。その場合にこの地域の文明レベルというのは脅威として愛国者には見られなかったのだろう。だが、結果的には不可侵の地域が織り成す広大な文明が今も尚、下層には広がっておる」
「そうか、管理者の権限を奪ってしまえば融合するのは可能ということか」
「そうなるな。だが、これはあくまで我の仮説にしか過ぎない。状況証拠だけで推論するのがギリギリというところ。話半分の参考程度の認識で良い」
「龍帝の視点は的を得ているよ。その可能性はとても高いと思う」
「あたいも、同意だにゃ。あたいの世界も結果負けて融合された事実があるからにゃ。そこには文明レベルとかそういう次元の話ではないからにゃー、その地域が持っている文明とは愛国者にとってはおまけにしか気にとめていなかったかもしれぬかにゃ」
「文明レベルがおまけ? 愛国者って一体何者なんだ?」
ますます、龍帝やにょにょと出会い、前に進むへ連れて愛国者という存在が謎であり、私の中で強大さが増していく黒いモヤみたいのが広がっていくようだ。この感覚は嫌だな。
「案ずるな、小娘。愛国者も所詮、何かという脅威として存在しているというのであれば、それがなんであれ、敵が出来たことを我らが出来ない道理はないのだから」
「つまり、愛国者が攻めてきた、攻撃をした、基底世界と融合させたということの逆も私たちが出来る可能性があるという意味?」
「そうだ。敵がもし、世界を越えた、神よりもさらに上の存在であったとしてもだ。何かしらの影響を及ぼしたからこそ、多様な世界の管理権限を奪い自身の基底世界へ融合させ続けているのだから」
「何故、それをするのだろう」
「さぁな、だが、何れ分かる」
龍帝は何か思うところがあるのだろうと表情から見えたが、それが何かまではわからなかった。きっと仮説以前の空想の段階だからなのかも知れない。
「イフ、セキュリティ解除出来そう?」
「ああ、間もなくだぜ。お待たせだ。完了!」
周囲に展開されていた表示が解除され、壁だと思っていたものが開いた。その先へ続く道もどんどん開いていく。
「準備万端だにゃ、進むにゃー」
にょにょは警戒しているかわからないが、意気揚々を前進していく。イフに念のため、周囲のシステムに警備等や防衛機構が備わっていた場合の確認をしてみたが、そういうのも見られなかったようだ。
「この施設って厳重のようで、厳重じゃないね。セキュリティが扉だけって」
「俺も同意だぜ、何か意図を感じるぜ」
「もしかして、私たち誘われている?」
「うむ、そのような存在の気配はないがな。生命体の類いではない可能性もあるのかも知れぬな」
「ここで、あえて魔法とか神術を使うのはマズい気がするにゃ。道なりに進むしかにゃいよ」
「確かにね。私たちのそれぞれの地域の法則が異なる存在でも、この施設や下層にあった地域も含めて魔法というものが制限された事実もあるし」
「そうだにゃ、ここが何のための施設かは不明にゃけど、きっと、あたいたちのこと監視している何かがあると思うにゃ」
「我も同意だ。これ程の施設であれば監視等のセキュリティがあっても良いだろう。だが、そういうのは目立っては見つけることが出来ないが、ここはイフを頼るしかあるまい」
「あいよ、旦那! ここは俺の出番だぜ。確かに監視装置等は現時点で明らか方法では、確認されていないが、空中に散布されている大気中に監視または検知する成分を検出したぜ」
「イフ、どうして、その成分が監視と関連があるなんてわかったの?」
「簡単だぜ。大気中に散布されているこの未知の成分は、俺たちには一切害は無いが、伝達に特化した物質ということが先程のアクセスで理解出来るようになったぜ。これは俺たちの今後の行動にも活かせるぜ」
イフは解析しながらこの文明レベルの技術を習得しようと試みて学習中しているようだ。しかも応用しようとまで考えている。
「イフよ、この施設の地図は手に入れることは出来たのか?」
「ああ、旦那の察しの通りで既に入手済みだぜ。俺が案内するぜ。周囲のセキュリティは俺にも共有されるようになったから、もし敵が潜伏していたら反撃や攪乱は容易だぜ」
「イフよ、見事だ」
「イフも凄いにゃー、あたいたちはどこに向かっているのかだにゃ?」
「ああ、姐さん、そりゃもちろん、調停者のところダゼ!」
「おおー、凄いにゃ!」
「調停者という存在はなんだ?」
龍帝が警戒を込めた言葉をイフへ投げた。
「調停者が何者かまでは施設のアクセスした情報の中には一切の記述が見られなかった。だが、この施設は調停者のために作られた施設ということは確かだぜ、旦那」
「なるほどな。充分だ。我らも充分に警戒するとしよう。敵かも知れぬからな」
「そうだにゃ。腕がなるにゃ」
「まだ、戦闘と決まったわけじゃないんだから」
調停者とは、重力崩壊調停者と呼ばれる存在だ。機械かも知れないし、ここの施設の設備を見るにイフのような量子生命体に近い存在かも知れない。多元並列思考を加速させても結果は推論の域を出ない。未知の情報に未知の物質、環境、状況等、前提が基底世界とはまるで異なるから、私がいくら考えを熟考したところで未来を予知することは出来ないのだから。
「着いたぜ、ここが例の調停者という存在がいる部屋の扉だ」
白く未知の言語で記述された文字が羅列されている。何かを封印ではない、警告のような印字もされている。なんだろうか。
「開けるぜ」
イフがそういう言うと、難なく扉が開き私たちは警戒しながら部屋の中へ歩みを進めた。




