第21話 世界という地域
「では、もうこの都市では用事は済んだな」
「私としては、この都市のことを何も知らないから滞在したいという気持ちもあるけれど、迷惑をかけたくないという気持ちが大きい」
「我も同意だ。小娘が目覚めた今時点では愛国者からの反応は見られないが、警戒をすることに越したことはないだろう」
「あたいも同感だにゃ、今のルナの力は、あたいと初めて戦った時とは状態や力も違うにゃ」
「そうなの? やっぱり、私の中で何かが変わったんだね」
「そうだぜ、今のルナの力は目覚める前とは比べものにならない程の力だぜ」
「ただ、その力については理解が小娘自身追いついていないと見える。今後の課題だな」
龍帝の言う通りだ。私自身、この力をどうしていいか、まだ実戦としての学習データが圧倒的に足りない。この都市でこの力を振るうわけにもいかない。ならば、前へ進むのみだ。
「よし、いこう。調停者という存在のところへ」
私たちは滞在していた部屋を引き払い、都市の外縁にある城門のような場所まで移動した。急ぎとはいえ、にょにょの提案で都市を歩きながら移動した。かなり目の保養になったし、気分転換になった。
知らない言語に知らない人種や種族が入り乱れながらも生活を維持している。きっと、この広大な空間にも他にもこういう都市があり、多くの人たちが営んでいるのだろう。
「この城門はどうやって通るの? 凄い分厚い反応があるけれど。扉というより壁?」
「ここは我がやろう。ここの都市長には話をつけてあるからな」
龍帝が分厚い壁の前に立ち、何かと話をしている。私が知らない言語だ。何と話しているんだろう。
「イフ、龍帝は何をしているの?」
「ああ、龍帝の旦那は、扉の主と話をしているんだぜ」
「扉の主? 誰かいるってこと?」
「そうだなぁ、強いて言うのであれば、俺のような量子生命体に近い、エネルギー生命体と会話をしているんだぜ」
「へぇ、この階層の文明はかなり発展しているんだね」
「そりゃ、他の世界から来た住人たちだ。俺たちの基底世界の常識はここじゃ通用しねぇ。龍帝の旦那やにょにょの姐さんが居なかった詰んでいたぜ」
「そんなに? 凄い世界だね」
「ああ、おっと、終わったようだぜ」
龍帝が手でこちらへ合図を送ると同時に、壁のような巨大な門が上下左右に開閉しながら分厚い壁が開いていく。大昔の下層で見た機械都市みたいだ。ここの都市とは発展大きく異なるけれど、もしかしたら、以前見た都市や街、人たちとも遭遇した時に、私が無知だっただけで異なる世界の常識や法則だったのかも知れないと想いを巡らせた。
「この扉は我らが外に出ると同時に隔壁が閉じる。進むぞ」
「おう!」
皆で声を上げ出発した。この巨大通路は龍帝とにょにょは何度か、他国への侵攻で利用したとのこと。通路の中は直線上ではなくて思ったより複雑で入り組んでいた。龍帝が説明してくれたが、理由は他国や外敵の魔獣からの侵攻に備えてだという。こういう仕組みもあるのかと驚きながら進んだ。
「ルナ、体調は大丈夫かにゃ?」
「うん、大丈夫だよ。どうしたの? 急に」
「ここの通路は外敵用と侵入者用に強力な波数を発しているにゃ。先程のいた都市の住人以外には毒になるということにゃ。あたいとこのおっさんは平気だにゃ」
龍帝がムスッとしているが、にょにょに反論しない。きっと、慣れだ。
「ふふ、大丈夫だよ。にょにょ、私は大丈夫。平気」
「それなら安心したにゃ、もうすぐしたら出られるにゃ。この通路は入り組んではいるけれど、私たちは敵じゃないから門番が通路を簡略化してくれているんだにゃ」
「へぇ、この通路全体を管理しているんだ」
「そうだにゃ、他国の都市や軍勢も凄い実力なんだにゃ。あたいの知らないことも沢山知れたにゃ」
「そうなんだ。本当に他の世界が融合しているんだね」
「そうだにゃ。生き物だにゃ」
「本当だ。知らない構造物だ。知らない金属に石材も含まれている? 大気中の濃度も数字が違うね」
「この空気はこの世界独自のものだにゃ、そろそろ出口が見えるにゃよ」
にょにょの言う通り、視線の先には出口らしきものが見えた。念のため、索敵してみるが出口付近から遠い距離まで敵影無し。安全だ。ただ、これまでの私がいた世界の常識とまるで違うということが、索敵した結果わかった。
「イフ、これって?」
「ああ、出口から先は大気が結晶化している世界だ」
「大気が結晶化しているって、圧力を感じ無いのに」
「基底世界に融合した産物なのか、融合前の別世界にあった自然常識なのかまでは俺も調査出来ていないぜ。少なくとも、これから向かう先は階層ではなくて、世界そのものが連続して構成されたより難易度が高い空間になっているぜ」
「世界が連続して続いているか……」
出口を抜けた。大気に結晶化した鉱物だろうか、ふわふわと宙に浮かんでいる。
「小娘、その結晶化した鉱物に触るなよ。それ触ると爆発する」
「そんなエネルギー反応はしないけれど」
「この辺り一帯は我らの常識や理屈は通用せぬ。結果、移動にも制限がかかる」
「龍帝の魔法でもどうにか出来ないの?」
「無理だな。この世界の理は我を拒絶している。精霊や魔力とかの次元ではない。自然というそのものが我を拒絶しているだ」
「龍帝は確か、世界の法則を無視することが出来たはずだよね」
「そうだ、我には世界の法則や常識等は一切通用せぬ。だが、ここでは有り得ないことが起きておる。我の推測だが、この世界とは我がいた世界では根本的に異なる。我にも完全には理解出来ておらぬ」
「にょにょはどうなの?」
「あたいも同様だにゃ、この世界にはあたいの常識も通用しないにゃ。不思議な世界にゃけど、あたいたちには理解する必要はにゃいな」
「それはどうして?」
「簡単にゃ、適応すれば良いのだにゃから。郷に入っては郷に従うって言葉があるにゃ。自然に耳を傾けて世界の声を聴くんだにゃ。そうしたら、向こうから語り掛けてくるもんだにゃ」
「へぇ、私にはさっぱりだよ」
「そのうち分かるようににゃるよ」
「小娘、そのバカ猫の言葉を鵜呑みにするなよ。アホが移る」
「きぃーッ! ドメスティックバイオレンスだにゃ! モラハラだにゃ!」
「また、意味不明な言葉を!」
「ふふっ」
思わず二人のやり取りを見て思わず笑みが零れた。理屈っぽい龍帝と、感覚的なにょにょ。意外に二人の相性はやり取りを見る限り、互いに信頼し合っているように見えた。
「ルナ、あれが例の調停者がいると思われる場所だぜ」
「あれは何?」
しばらく歩いた目線の先には空を突き抜けた、らせん状の半透明な何かを私の眼が捉えた。
「これは建築物なの?」
「いいや、あれは俺たちの言語で説明できない構造物だと思われる」
「言ったであろう、小娘。この世界には常識が通用せぬと」
「本当だ。私のセンサーに反応しないし、素材の解析も出来ない」
一見、空間が捻れているように見えるけれど、龍帝が言うには空間や次元とかが捻れているわけではないらしい。一応、物質らしく、実際に近くで触れてみるまで全く半透明なそれが何かまで形あるものなのか、認識さえできなかった。
「この上にその調停者がいるはずだにゃ」
「ここが」
「小娘、ここも徒歩で移動だ。飛ぼうとしても飛ぶことが何故か出来ないのだ」
私も龍帝に言われて、私自身も飛べるか試してみるが何故か飛ぶこと出来なかった。
「本当だ。私も飛べない。イフ、理由分かる?」
「正直、俺でもお手上げだぜ。愛国者が干渉出来ないというのも、もしかしたら関連があるのかも知れないな」
「そうか、それなら理解し易いね。きっと、ここは特別なんだ」
「特別というより、混濁した自然と言った方が早いかも知れぬな」
らせん状の続く道を昇りながら、龍帝の言葉に耳を傾ける。
「混濁ということは、世界が混じり合った結果、こういう現象が起きているということ?」
「そうだ。世界とはなんだろうな。我にも分からぬようになってきた」
「私は世界って全部の地域を指す意味って世界を捉えているよ」
「そうだな。文字通りでいけばそういう理解にもなるだろう。だが、事実はそうではない。この自然を生み出したのは世界なのか、この世界特有の神なのか。我らとは異なる存在なのか」
「そしたら、今後、この上にも別の世界が広がっているのであれば、地域と呼んだ方がいいかもね」
「ルナ、それはナイスアイディアだにゃー!」
にょにょが指を鳴らして指を向けてきた。
「そうだな、我もそれが良いという認識だ。地域か本来、狭い範囲で使用する言語と意味ではあるが、この世界自体が複雑な構成しているが故に……」
「んっもッー!! このおっさんはいちいち理屈っぽいんだにゃ! 頑固おやじなんだにゃー!」
「な、何をこのバカ猫、我を愚弄する気か!」
「誰がバカ猫だってぇー! あたいは賢いんだにゃ! バカって言う方がバカなんだにゃ! この変態バカ頑固おっさんおやじ!」
「貴様ッ!」
二人がまた言い合いを始めた。見ていて飽きないなぁって思う。にょにょが発言している言葉も意味はよくわからないけれど、きっと、龍帝に通じっているのか半分怪しいけれど、それとなく伝わっているから会話になっているのが不思議でたまらない。
「イフ、この地域はどこまで続いていたの?」
「ああ、そうだな。ここの地域だけで複数の地域が融合している状態だぜ。端の国から端の国まで移動となると、とんでもない時間が掛かるってのは確かだぜ」
「そしたら、この地域の人たちはどうやってこの広大な地域を移動していたんだろう」
「俺にもどういう理屈や法則までは分からねぇが、魔力と性質も何もかも違う装置で移動していたぜ。昔、ルナに作ったフローバイクに近いかもな。あれの車や飛空艇みたいなものもあったぜ」
イフにライブラリのアーカイブにて先程いた都市の映像と記録を見せてもらった。確かにバイクや移動車両みたいなので動いているが、まるで瞬間移動だ。次元や空間を介さずに移動しているとのこと。つまり、基底科学では理解出来ない技術で交通網が整備され運用されている事実を知って驚いた。
「ルナ、そろそろ、上に着くにゃ」
にょにょの言葉通りに、あんなに高い空を突き抜けた建築物だったのに、この短い時間であっという間に到着してしまった。本当にこの地域は何だったのだろう。




