第2話 黒と白
フロートバイクの速度を上げてイフが方向を指し示す進路へと指示に従い向かう。私の中で多次嵐が起きている中に生存者がいるまたは生命体がいるというのは初めての事態だ。だが、そこには生きた生命体が検知していると私の網膜にも表示されている。
イフとの同期された観測情報が脳内と網膜と意識へ同時に流れ込んで来る。まず間違いなく、何者かがそこにいることは確かだ。数は三体。人型の形をしている。
「イフ、この生命体は私と同じだと思う?」
「いやぁ、ルナのような完全人ではない。異人か」
「異人?」
「俺ァ、そう思うぜ。ライブラリにアクセスしている全情報と照合しても該当する生物、生命体と一致しねぇ。それに、未知の言語で話をしている。まだ距離があるのと多元嵐で会話が聞き取れにくいということもあるが、全言語データベースで会話の羅列と発音、意味、流れ、意図等を分析し解析している。遭遇する頃にはソイツらの言語体系は獲得出来るはずだぜ」
「さすが、イフね」
「まぁな、俺様なら余裕だぜ」
ただ、どうして異人が? 複数の次元の裂け目から出て来たということ? いや、それでは無事に済むはずがない。だけど、私の網膜にははっきりと立ち上がり会話をしている。シルエットからは武装している様子も見える。つまり、弾き出される答えは私と同じ人型の別人種ということになる。
異人が次元の裂け目を通して出現または顕現するというのは歴史から実証されており、かつて人類文明が生物として謳歌した時代において、隣り合わせに存在する平行世界への介入と接触に成功したという事実が記録されている。これはライブラリにて膨大な論文と理論が記録されている。なので、かつての人間は平行世界の存在する人らを異人と表した。
「イフ、この異人は三人と表示されているけれどどの世界線の人たちだと思う?」
「さぁね、ソイツらの話ている内容を断片的に聞き取ると、現状に混乱しているのと敵意と警戒の言葉がくみ取れた」
「何かに追われている?」
「その可能性は極めて高いぜ。 人型の人種でかつ異人というのは特に厄介だ。しかもライブラリに適合しない存在ということはこの基底世界において完全な未知との遭遇ってことだぜ。互いにな」
「確かにそうね。充分に警戒をする必要があるけれど、放っておくわけにもいかないんじゃない?」
「おいおい、助けるってつもりじゃないだろうな。異人たちの様子を見るに敵意と警戒が見え見えだぞ」
「わかっている。だけど、そこに助かる命があるのであれば助けたいと思うじゃない」
「ルナらしくはあるが、俺は今回だけはオススメしないぜ」
「何故?」
「多元嵐の中に何か潜んでいるからだ」
「嘘でしょ?! どうやって多元嵐の中で潜めるって言うの?!」
「ルナ、落ち着けって。俺としても助けたいという気持ちもあるが、あれは罠であり俺たちのようなものを招く撒き餌だと俺は踏んでいるぜ。その証拠に多元嵐の中で何かまでは観測出来なねぇが、大きな何かがいるってことぐらいわかるってもんだぜ」
「これが、その大きな何かってやつ?」
網膜に表示される影は確かにエネルギーの渦の中に存在していた。大きいなんてもんじゃない。大陸鯨並じゃないか。しかも、これは意図的に多元嵐を操作している?
「イフ、ちょっと観測手法を追加して欲しいんだけど。複数の多元嵐で操作されているような意図的な痕跡がないか調査して欲しい」
「あいよ!」
「来た! やっぱり操作されているね」
「ああ、ルナの勘は当たるな。この多元嵐は中に潜む何者かの仕業で間違い無いだろう」
「敵だと思う?」
「どうだろうな。この場合、敵というよりかはこの世界への警戒と状況の確認というのが正しい。人型のやつらはやはり撒き餌で決定ということは確定だ。どちらにせよ、この無機物で飽和された世界の中で生きるには異人では絶望的だろう」
「そしたら、私に良い考えがある」
「いやいや、無理だって」
「私、まだ何も言ってないよ」
「いやいやいや、わかるってもんだぜ。俺たち、意識が同期しちまっているからな。ルナがやろうとしているのは、愛国者たちと戦うよりかは簡単かもしれないが、危ない橋ということは間違い無いぜ」
「ということで」
「マジかよ、やるのかよ! わかったよ」
「そうよ。旅は道連れ世は情けってライブラリにもそういう言葉があったよ。そしたら、あの多元嵐の中にいる存在を引きずり出して、異人さんたちを元の世界へ戻してあげましょ!」
「ぶっ飛んでぜ! ルナらしいって言えばルナらしい。俺たちは一心同体だ! やろうぜ!」
「おう!」
フロートバイクをフルスロットルで異人がいる三人にへ舵を切り向かった。距離はまだあるが、そう時間は掛からない。イフには多元嵐の中に潜む巨大な何かと異人三人を警戒と観測を継続中。
私は全ての情報を整理して、異人おを目視で確認。異人らもこちらを確認。私の眼で解析を終え、ライブラリにアクセスして記録と照合し現在から過去までの全ての異人らとの歴史または人物の照合完了。該当者無し。
一番の懸念だったのは愛国者たちがこの状況を仕組んでいた場合だ。彼らには愛国者たちの痕跡が見当たらなかった。もし過去の人類がこの私たちがいる基底世界に来たのであれば愛国者たちとの関連が濃厚となるが、そうでは無さそうだ。異人三人を前にしてフロートバイクを停車させた。
「はじめまして、私の言葉通じる? 私はルナ」
「言葉が通じるのか! おい、ここはどこだ!」
三人の内の大柄な男が剣を構えて怒鳴ってきた。警戒心からか、声が上擦っている。いや、恐怖か。思考を操作されている? 視線が定まっていない。混乱、錯乱? 薬物か?
「イフ!」
「あいよ!」
三人が一心不乱に同時に私へと襲いかかってきた。イフの予想通りの動きをしてくる。三人の装備は全員バラバラだ。確実に来た時代や世界も異なるようだ。武装している文明レベルが明らかに異なるからだ。
一人は銃剣を持った文明初期の歩兵、一人は両刃の長剣を持った騎士のようだ。最後の一人は杖を持っている。何かをブツブツと呟いているが、特に変化は見られない。襲い掛かることと同時にイフが三人をいとも容易くねじ伏せた。
イフの環境操作で重力場を張っただけ。三人とも重力の圧力で気絶している。命に別状はない。そして、ライブラリにアクセスして武器を次元ストックから取り出した。
「隠れてないで、出て来い!」
拳銃にしては大きく、ライフルサイズの大型銃の引き金を引いた。轟音が鳴り、大地が揺れる。放たれたのは七色に明滅する光の銃弾だ。次元の嵐の中で爆発音が鳴り響く。手応えあり。
「ルナ! 来るぞ」
イフの声が届くと同時に多元嵐の中から黒色の生き物が出て来た。展開している観測に感知観測すると同時にライブラリにアクセスして何の種族または種別、何科に属するかを同時多重並列思考で該当するまたは類似するものまたは参考になるものまたは平行世界の存在として記録されたものを停止する程の時間の速度で調べた。
そして――
「あ、あれが……!」
「おいおいおい、マジかよ――」
「我、汝らに問う、我の鱗に汚れを付けた不届き者か」
漆黒の鱗が大きく動き鈍く重い金属を思わせるような光を反射させて発する言葉と共に大地を大きく揺らした。何時以来だろうか、この高揚感は。いつ以来だろうか、この圧倒される感覚は。この化け物は――
「《《これ》》が、ドラゴンか――」
知ってはいるが、見るのは初めてだ。空想上の物語でしかライブラリにも存在しないからだ。平行世界の存在としても異界からの書物においてもドラゴンらしき存在の生き物は空想上の物語で存在している程度のものでしかなかった。人類がかつて反映を極めていた太古からもドラゴンは世界各地で伝承や信仰が残されていたと記録が残っている。
そして、現在、恐らくドラゴンでろうと思われる存在と私たちは遭遇している。かつての人類も伝承として記録されている以上、太古には人類はこういうドラゴンと共生していたのであろうか。
「小娘、何が可笑しい」
「何を言っている」
「我に汚れを付けておきながら不遜な。羽虫の如く塵と化せ」
「ルナ! 避けろ!」
「ッ!!」
『深淵の劫火』
漆黒が発光している。避ける? 不可能だ。受け止める? 無理だ。では、ルナなら私ならどうする? この程度の攻撃で私は負けはしない。巨大な漆黒の閃光が多元嵐すらも消し飛ばす。観測する数値が出鱈目な数値を叩き出す。異常とはこのこと。常軌を逸するとはこのこと。私は何度も死線を潜り抜けてきた。今までも今もこれからもだ。
「だから私は負けない!」
全身のリミッターを一時解除。最大出力で銃口を漆黒の閃光へ向けた。ドラゴンのブレスと同時に刹那の思考の連鎖と多重並列加速が織り成す。
銃身が全開放され外殻が広がり無垢の銃身が眩い白い閃光を弾かせ、そして、引き金は引かれ黒と白の閃光が同時に正面から直撃した。




