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デッドデッドデウス・エクス・マキナ・インダストリー  作者: 竜蔵寺 佑


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第1話 生命体

 青い海、青い空、白い雲、それらはかつて人類が住んでいたとされる世界だという。


 この空気に触っている感触も、肌に当たるきめ細かく吹き抜ける風も、全ては遠い昔の過去だ。


「ルナ、覚えておきなさい」

「うん、おじいちゃん」


 ◇


「おい、ルナ!」


 私の頭に響く大きな声がした。視界は不明瞭だ。視覚神経をやられてたか、または一時的な切断か。いや、今はそれよりもこの声の主が誰かだということだ。


 聞き覚えのある声だ。誰だ。


「誰だ?」


 ふわふわと青い光体が宙に浮かんで話掛けてきた。表情もある。どこか、見覚えがあるような。ぼんやりとしか記憶にない。


「何寝ぼけているんだよ。俺だよ、オッレッ! ダ! ゼッ!」


「イフ?」


「そうだぜ、相棒! 俺様はイフだ。やっぱり修復は出来たが記憶領域の深部まで損傷があるか。まぁ、時間が経てば回復するだろう。手は尽くした」


「何を? いや、ここは?」


 なんだ、この景色は。目の前に広がるのは地平線の彼方まで広がる結晶で埋め尽くされた世界だ。


 地面や天井も外壁すらも広大な空間を埋め尽くした幻想的で、どこか不安定な感情を呼び起こすような感覚になる印象だ。


「うーん、おい、ルナ。ライブラリにアクセスは出来るか?」


「ライブラリにアクセス……」


「そう、今のルナは記憶領域をやられてはいるが、損傷自体は俺が修繕して損傷は0%だ。だが、一時的なシステム障害だろう、ルナの中で恐らく記憶領域だけが上手く機能していないと俺は診ているぜ」


「ライブラリにアクセス」


 私の中へ意識をライブラリにアクセスするように向けた瞬間に何かに接続された強い感覚に包まれた。デジタル空間が見える。ライブラリにアクセスが無事にされたようだ。


「これは!」


「ああ、俺たちがこうなる前の記憶だ」


「イフ! 私、思い出した! リムやテスたちは! 機兵長のデクスタは!?」


「お察しの通りだ。皆、死んだよ」


「み、皆死んだって?」


「ライブラリにアクセスが出来たということは俺も同時接続しているから、分かっちゃいると思うが、ルナも重力崩壊に巻き込まれて四肢全損、頭部半損、腹部深部裂傷多数、接続回路細断等、ルナも相当な状態だった。だが、俺が何とかした。周囲の重力体結晶を分解再構成してルナの身体素体として修復させた」


「この結晶体は、重力体結晶だというの?」


「ああ、重力崩壊が起こした産物ということだ。ご覧の通り、ここにかつてあった大都市は全て超重力崩壊によって吹き飛んじまった」


「私はどれくらい眠っていたの?」


「ざっと、53年と8ヶ月だ」


「そんなに?!」


「身体の修繕自体は10年程度で済んだが、繊細な接続神経系については簡単にはいかないのとこの重力崩壊した環境では、その繊細な修復作業を阻害されていたのと、彼奴らが来ることを警戒していたというのもある」


「彼奴ら? 愛国者か!」


「おお! ようやく記憶が完全に復旧したな。おかえりルナ」


「イフ、こんな状況で私を待っていてくれてありがとう」


「いいんだ。俺たちは一心同体だぜ」


「もう、愛国者たちはどのくらいの期間、イフの観測領域に侵入していない?」


 そう、私が約半世紀も休眠していたとなるとイフも相当に周囲を警戒していた中での修繕作業だ。私が死ねばイフも死ぬ。イフは私にインストールされているからだ。動力源は私であり、私が活動を停止しなければイフは恒久的に活動を私の動力が完全に停止さえしなければ活動出来る。今回、愛国者が攻めてきたから、あの大都市は消失してしまった。


「ああ、俺が観測領域には重力崩壊後は数度、偵察に来ていた。確実に生存者がいるかの有無の確認だ。俺が重力体結晶で構成した保護膜で愛国者の索敵には引っかからなかったが、保護膜というよりはこの空間全体が歪んでいたというのも索敵から逃れられた影響だろうなと俺は思っているぜ」


「そうか、環境が有利に働いたということか」


「まぁ、そうだな。最後に愛国者を俺が観測したのは30年前だ。それ以来は見かけてもいない。この区画を完全に放棄または破棄したか、二次災害を期待しているのか」


「二次災害?」


「ルナ、上を」


 上を見上げると遙か高い天井に大きな穴が大渦を巻いて雷を帯びた雲と、隙間から見える光の粒が見えた。


「イフ、あれは?!」


「世界の切れ目、または裂け目か。とにかくヤベぇ状態な環境に俺たちがいるのは間違い無い」


「イフから見て、あとどのくらいであれが悪さをすると思う?」


「悪さ? ああ、そうだな。俺の予知測値だと、あと数年というところか。今起きてもおかしくはない数値が出ているけどな」


「私が目覚めなかったら、イフはどうしていた?」


「愚問だぜ、相棒」


 イフの表情は屈託のない笑顔だった。


「それじゃ、ここを早く脱出しなくちゃだね」


「おうよ! フロートバイクを用意しておいたぜ」


「準備がいいな」


「まぁ、素材は周辺にいくらでもあるからな。それに、この辺りのインフラはもう既に駄目だ。余波で全て吹き飛んで使い物にもならねぇ。愛国者がまたいつやってくるかもわからないというのもある。彼奴らから逃げるにはこれも必要だろ?」


 イフから拳銃を手渡された。


「これは? 新しい武器か」


「ああ、この重力結晶体を拳銃ベース素体にし動力炉を超圧縮六連式重力炉で再構成と俺様のオリジナル改良銃だ」


「都市の主力武器を参考にしたのか」


「そうさ、重力砲台は確かに強力ではあったが戦略兵器としては弱点もあった。愛国者には通用しなかったということだ」


「それじゃ、この拳銃も意味がないということにならない?」


「チッチッ、甘いぜ、姉ちゃん。その拳銃は俺様のオ・リ・ジ・ナ・ルって言っただろ? その拳銃には巨大な重力砲台を拳銃サイズまで超圧縮しかつ、あの天井に見える世界の裂け目を参考に改良に改良を重ねた世界を貫通する威力まで昇華させたあるんだぜ!」


「うーん、イフ、何言っているか。よくわからないんだけど。この拳銃が良い武器だということは持った感覚でわかったよ。いつもながら良い仕事をするね」


「俺様が優秀なのは平常運転だぜ!」


「それじゃ、この銃は早速、使わせてもらうよ。本当は遺体でもあれば良くしていただいた皆を弔ってあげたかったけれど。時間が経ちすぎたね」


「ルナ、気に病むな。ライブラリにアクセスした記憶の通り、気立ての良いアイツらを何時でも思い出せるし、なんなら人格を構成した精神生命体を創造することだって……いや、口が過ぎたぜ」


「イフ、ありがとう。今までもこれまでも多くの人たちの死に目を見てきたし、これからも私たちが死なない限りそれは続いていくんだと思もう。だから、彼らから託された想いとか気持ちとか心とかは私たちの中で大切にしていこうよ」


「そうだな、それじゃ行こうか」


「うん」


 バイクにまたがり、かつて大都市があった跡を私たちは後にした。この区画はそう遠く無い未来には無となるのだ。弔う時間も無かった。だけど、皆の顔は思い出した。私が都市に来て歓迎してくれたこと。文化を教えてくれたこと。共に愛国者と戦ったことも。


 フロートバイクで、2時間程度走行した。網膜に時間と距離、速度が表示される。同時に案内で進路方向が指示される。イフと常に同期しているため、走行中も索敵と状況と周辺環境、地理の把握、どの区画を移動しているのか等を同時に観測しながら警戒して進んだ。


 現時点では特別、異常な数値や気になる状況等は起きていない。強いて言えば、空気が変わったということぐらいか。風の流れが強まっている。磁気嵐かもしれない。過去にも似たような経験をしている。磁気嵐はまだ優しい方だ。重力嵐や次元嵐、裂け目嵐等に巻き込まれる方が大変だ。後者になればなる程、困難な旅路という体験となる。


「どう? イフ」


「うーむ、俺様の勘が叫ぶぜ。この風は磁気嵐じゃないってな!」


「うぇ……もしかして、重力嵐とか?」


「ノンノノノン」


「裂け目嵐?」


「NO!! 否、否、もっとヤバいぜェ……」


「嘘でしょ?」


「俺様は嘘を言わないぜ!」


「もったいぶらないで教えなさいよ。なんで網膜走行指示は変更しないわけ?」


「それはな、極めて危険だが極めて安全だからだぜ!」


「どうゆこと?」


 イフの発言している意味と意図が全く分からない。私の演算思考の負荷を上げてイフの発言している意味が理解出来た。


「多元嵐《たげんあらし》ね!」


「そうだぜ! 複数の異なる次元の波数が打つかり合って事象を相殺し合って危険だが、安全な状況と環境を奇跡的に維持しているということだ。こういう事象はそうそう起きることも見かけることもねぇ、何故、この区画で多元嵐が起きているのかを走行しながら観測する必要があるんだぜ」


「確かにそうね。愛国者たちが起こしているという線はない?」


「充分に有り得るぜ。愛国者たちが過去の産物を呼び出すまたは実験をしている可能性も無くはないが、その可能性は低いと思われるぜ」


「理由は、そうね。複数の次元を意図的に発生させて維持するコストに合ったメリットがないということでいいかしら?」


「さっすがはルナ! そうだぜ! 愛国者たちならばもっと合理的な方法でやる筈なんだぜ」


「そしたら、自然現象?」


「その線も薄いぜ。何故なら、複数の動的生体検知観測に俺が反応しているからだ」


「ああ、つまり、何かしらの生命体がいる可能性が大だ」

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