第16話 騒がしい日
「では、我が結界を張ろう。戦闘で要らぬ存在を招かねんからな」
「龍帝、ありがとう。よろしく」
「殺すなよ」
「言われなくても」
「あたいに手加減をするかにゃー! 本気で来るにゃ!」
にょにょがもふもふさせながら、威嚇してくる。愛らしい。なんて、愛らしいのだろう。いやいや、ルナ、しっかりするんだ。これからは真剣に。私たちが戦闘の場を整えるために、遺跡周囲へ結界が張られた。
『絶対隔離領域「零の園」』
氷の結晶が魔力を帯びて結界内へ降り注ぐ。幻想的な光景だ。光と魔力が反射しながら、周囲の魔力に反応し結界を相互に強めているようだ。
龍帝は相変わらず、底知れない力を秘めている。イフのバックアップ支援を確認と同時に結界外での万が一への対応についても対応開始。
「あのドラゴン、神聖属性の高位魔法を扱えるとは中々にゃるではにゃいか。しかも、この結界、完全に結界外へ影響が出ないように世界ごと切り離してにゃとは……」
「さて、始めるよ。にょにょ」
「ルナと言ったかにゃ、あのドラゴンが認める娘。その実力を見させて貰うにゃ」
戦闘が開始。全視界と全反応から、にょにょの検知が消えた。右側面から強い衝撃が響いた。蹴られた? 殴られた? 反応出来ない速度? いや、これは空間とか次元とそういう意味じゃない。攻撃の動作と当たるという瞬間が同時なんだ。どんな力! 気付いたら瓦礫に埋もれていた。瞬時に立ち上がると同時にライブラリ申請。
『受理:対未確認未登録種別(聖獣にょにょ)専用にストラテジーを構築……完了。実行に移します』
「にゃんだ? 雰囲気が変わったにゃ……」
にょにょの腹部へ深く潜り込み、右アッパーで腹部を突き上げた。
「さすがだにゃ、だけど、通用しにゃいにゃ」
『ライブラリストラテジー変更・実行開始』
「そんなゆるい攻撃じゃ、あたいには当たらないにゃ!」
凄い。にょにょは別次元で進化した私の打撃を全て回避した。ライブラリが学習を加速させる。
「ライブラリへ申請。対兵装用意」
『受理:対聖獣用武装兵装を構築開始・実行』
「それはなんだにゃ?」
にょにょが少し驚いた表情をしているのが見えた。
「これは貴女に特化した攻撃だよ」
『|戦略兵器:光屑連鎖・天之逆鉾』
左手から肩に掛けて換装された砲台戦略兵器の砲台から放たれた光の一撃が、にょにょを直撃した。これまでの回避行動逆算と想定しているため不可避の一撃となる。光が収束し、巨大な大穴が空いたが龍帝の結界で地形が元に戻っていく。
この僅かな時間で、にょにょを捕捉から外れた。私にとって予想してはいたが、私の解析の上をにょにょは行くようだ。存命かつ強者であることは確定した。今の一撃は決して生易しいものではない。
しかも、今の私は愛国者の力の一端を手にした強化された状態だ。その一撃を受けても尚、元の状態を維持しているというのは龍帝と同格とは嘘ではなく確信に記録と学習が上書きされた。
「甘いにゃ!」
『大御神の逆鱗「天崩地坼」』
にょにょの殴打の一撃で武装した砲台が全壊。その衝撃波だけで、私が先程放った一撃以上の威力の大穴を地面を抉った。強い。かなり強い。想像以上ににょにょは強い。これは事実だ。しかも、まだかなり余力を残しているように見える。瓦礫に埋もれながら、次の実装を模索する。
「今の私の全力を打つける!」
「来るにゃ! ルナという娘の力を推し量るにゃ!」
『ライブラリ:対聖獣用へリミッターを一時解除:受理:兵装準備完了・実行に移します』
「消えたにゃ!」
瓦礫から起き上がると同時に、遠方に居たにょにょの背後へ自身を転送と同時に攻撃を放つ。これはにょにょが私に使用したであろう魔法または技術を、私の中で高速で組み立て実戦用に仕上げた一撃の光だ。
「見つけたにゃ!」
にょにょの反応が想定の誤差を超えて早く反応を見せた。
『八咫烏の祖・天火明』
私の殺意を込めた渾身の一撃の光と、世界を滅せんとする程の熱線を帯びた光が結界内で炸裂する。私の眼に表示されているエネルギー情報の数値が見えない速度で上昇していく。
この結界が無ければこの階層ごと消し炭になっていたことは間違い無いだろう。それ程の威力ということだ。龍帝の結界は崩壊することなく、消失した全てを元に復元させる。
「にょにょ、強いな。私の一撃を相殺するとは」
「あたいには余裕だにゃ」
なんて、存在だ。他の世界にはこのような存在が多くいるのか。それを愛国者が殲滅したまたは世界ごと飲み込むとは、私が想像している愛国者の脅威度が増した。学習データを更新して改良に全力で向かわせた。
「別世界にはこのような存在がいるんだな」
「ルナという娘も強いにゃ。普通の存在は勝負にもならないにゃ。だけど、あたいに何度も技を出させたいるにゃ」
「なんで、愛国者たちに負けたの。貴女は、そんなに強いのに」
「それは簡単だにゃ。あたいの油断と傲慢だにゃ。過程がどうにゃれ、結果あたいは負け、あたいのいた世界はこの世界に飲み込まれて皆消えたにゃ。あたい以外の同格の存在の反応が無いところを見るにもういないにゃ。だから、今度は油断しないにゃ!」
なんて、潔いのだろう。格好良さを強く感じる。ただの強者ではない。尊敬出来る強者だ。だからこそ。
「ありがとう、にょにょ」
「貴女の本気を見せて欲しいにゃ!」
「うん!」
『受理:対聖獣攻略用戦闘から対聖獣殲滅用へ移行:リミッターを一時解除継続・身体損傷バックアップ開始』
全身から力が解放される。今の強化された私のリミッターを常時開放した。身体損傷は修復よりも破壊が先行する。攻略という認識ではいけない。試合では無いのだ。にょにょが求めているのは、愛国者という敵へ届くかどうかを私を通して厳しく見定めている決意を感じた。だから、出し惜しみはしない。
「にゃんだ? この力は? これがルナの本気の力ということかにゃ? 凄いにゃ! 凄いにゃ! あたいのこの攻撃を五体満足で受け切れたら認めてあげるにゃ!」
『大始祖・虚無の主』
にょにょの形状が大きく変化した。魔力とも異なる力。見たこともない計測数値が羅列と学習データの解析が多元並列で進む。
「行くにゃ!」
「おう!」
両手と全身を魔力と基底科学が融合した形態と武装。両手には龍帝の力を解析学習しかつ、愛国者たちが持っていた力を応用した戦略戦術兵器。一見、武器を持っていないように見えるが全方位の万物事象を書き換えて攻撃することが可能となる。これは攻撃だけでなく、防御にも応用済み。つまり、こういうことが出来る。
「空間を掴んでいるにゃ! いや、この全域の空間だにゃ!」
液体化された圧縮された景色が形態変化させたにょにょの前で炸裂し、結界に大きな亀裂を入れさせた。
「まだまだぁ!」
景色を弾丸にして光線の連射をにょにょへ全弾直撃させた。この広大とはいえ、限定された結界内で完全に回避することは不可能。そして、私の両手の手の平内で事象の変質が開始される。
両手に見えている景色が世界の全てと書き換えてそのまま押し潰す。だが。
「凄いにゃ、見事にゃ! これは! 見事にゃ! この形態のあたいをここまで追い詰めるのは、いつ以来かにゃ」
そして、世界という空間は閃光と共に爆ぜた。
結界が炸裂し崩壊すると同時に私の意識は消えた。
「見事、小娘の損傷は?」
「ああ、ひでぇもんだぜ。全力を出し過ぎだぜ。結界が無ければこの区画、いや階層ごと消えていたかもな。旦那には感謝だぜ」
「良い、さて、にょにょ。どうする?」
崩壊する結界から、のしのしと、にょにょが現れた。
「認めるにゃ! あたいにここまでさせるとは凄いにゃ」
「あんたも相当なダメージを負ってないか?」
「この魔力回路を全吸収したからようやく戦闘出来たものの、ご覧の有様だにゃ。ルナはかなり強いにゃ。だけど、まだまだ強くなるにゃ」
「にょにょ、お前は神か?」
「お前と同じ同格にゃ。お前も強いんにゃろうなぁ」
「いずれ手合わせしたいものだな」
「おいおい、物騒な冗談は止めて」
「今は無理だにゃ。ドラゴンや、あたいもこの世界じゃ制限を掛けられているにゃ」
「いやいや、にょにょさんよ、あんた相当、強そうに見えたぜ。あの進化したルナ相手に圧倒していたじゃないか」
「どうかな。私の全力はあんなもんじゃにゃいな。もし万全のあたいならこんな重傷を負ってないにゃ。にゃけど、ルナの攻撃は本物だにゃ。あたいの世界でもしルナがいたら、何れ肩を並べる存在になるのも時間の問題だにゃ。この世界でも屈指の実力じゃないかにゃ」
「良い眼をしているじゃあないか、にょにょよ。魔力が不足であろう。我のを与えよう」
「要らないにゃ」
「にょにょさんや、ここは龍帝の旦那の言う通りにしてやって欲しい」
「しょうがないにゃ」
「それで良い」
『聖天の泉』
「おおぉ! 魔力が全快したにゃー! 傷が完治したにゃ!」
「はしゃぐな、傷が開くぞ」
「ぐふぁ、痛いにゃ、幻痛だにゃ、痛いのは嫌だにゃ」
「だから、言ったであろう。はしゃぐなと」
「だって魔力が全快したら元気なるのは当たり前だにゃ」
「魔力はそうであっても、傷は別だ」
「そうだったにゃ」
「おいおい、にょにょさんは本当に神なのか?」
「神じゃないにゃいな! 聖獣だにゃ!」
「正しくは、始祖獣だな」
「無断鑑定変態だにゃー!! おまわりさん、コイツですにゃー!!」
「にょにょ、うるさい!」
にょにょの治療は龍帝の旦那がすることになり騒がしいネコが仲間になった。ルナの状態は深刻だ。まだ、修繕に時間が掛かる。意識は無い。
愛国者を吸収してからエネルギーの調節が上手く出来ない中にリミッターを連続で解除したのが重症化している原因だ。龍帝の旦那の魔法でどうにかなるってわけでもない。龍帝の旦那の提案で再度別結界を張り、治療に専念することとした。




