第14話 息を吹き返す
周囲に敵の姿や反応はない。遙か遠い景色の向こう側では雲が渦巻いており、雷雨を含んだ嵐が観測された。
「この階層は重力が安定していのかも知れないね」
「ああ、この階層や隣接する階層にも同様な現象が確認出来たぜ。原因は恐らくあれだ」
視界にイフから共有された指示と座標が表示され、望遠でその位置を観測した。
「あれは、重力子の海なの?」
「ああ、激ヤバだぜ。本来、重力子は本来、圧縮されても海を形成することは希だ。あの雷雲も重量子による影響だ。この距離でもこの数値だ。近づけば俺たちも無事じゃ済まされないだろうな」
そう、私たちは重力崩壊の場面に幾度か遭遇している。重力炉による暴走、破壊、自然現象等だ。人工的であれ、自然現象であれ、重力子が海のように液体状に私の目視で確認出来ているだけで異常事態なのだ。
「我にはあれは危険には思えぬが、あれはそれ程なのか?」
龍帝が不思議そうな口調で質問してきた。
「そう! あれはとっても危険なの。危険というか、触れちゃいけない、踏み込んではいけない領域とでも言えばいいのかな」
「そういうものか。まぁ、我と共におれば巻き込まれることはない。あれはこの世界にとっての自然現象であるのだろう? では、理外の存在である我にはその法則は当てはまることはない」
「いやいや、流石の龍帝でもあれの危なさを知らないから、そう言えるんだよ」
「こういうものだろ?」
龍帝が片手で何かを生み出した。
「マッジッか!」
「嘘でしょ、重力子の液体だ」
龍帝が何も無い空間から突如、重力子の塊で出来た液状の球体を顕現させた。これは、龍帝の魔法? それとも別の何か?
「そんなに驚く必要はない。ただ、この場の声を集めただけのこと?」
「声って、精霊のこと?」
「そうだな、少し性質は異なるが自然法則の流れそのものの声といったものだ。あの遠くで見える、これと同質の海は自然法則の乱れと混乱から生じているもの。これは、この場にある正常な状態から生じているものだ。理屈や道理も違いはない」
龍帝は簡単に説明するが、理解は出来ても龍帝が行ったことはそうそう再現出来る芸当ではない。しかし、龍帝は造作もなく重力子で出来た球体の形状を難なく変化させて観察している。
「俺は凄ぇモンを見ちまったぜ」
「イフに同意だよ」
「この世界の理は理解しつつあるが、階層とやらという区画毎に法則がまるで異なるようだな」
「それはどういう意味? この世界はこの世界の法則で動いているよ。どの区画や階層でも今までの歴史を振り返ってもそういう仮説は出なかった」
「その原因はこの世界が広大過ぎるからだろう。この階層か区画すらも星がいくつも入る広さを持っておる。しかも、増殖するように今もなお、拡大している可能性があると我は確信している」
「そうだね、確かに愛国者たちが龍帝がいる世界を襲ったように今も他の世界を襲って世界ごと飲み込んでいるのかもしれない」
「そういうことだ。話が脱線したな。つまりだ、我はこの世界に来てからこの世界の法則の声を聴けるまで成長をした。そして、適応を始めている。小娘には負けてられないからな」
龍帝の声には喜びが含まれていた。龍帝自身への成長へなのか、それとも私たちとの成長に対してなのか。
多分、後者だ。龍帝とは、意識が繋がっているわけではないから真意はわからない。だけど、敵意は感じない。安心する感覚がする。そして、重力子で出来たものを瞬時に消した。凄い技術だ。私も学習しなくては。
「ルナ、見えて来たぜ。あれが次の区画だ」
イフが共有した座標と方角を見ると上が見えない程の円形状をした開閉口が見えた。
「あれは、閉じているんだよね?」
「ああ、ロックされているようだ。今、開閉するぜ」
イフがそういうと同時に視界に解錠の文字が表示され、大気が振動する程の音が遅れて私の全身へ吹き荒れた。長い間、閉まったままだったのだろう。先程までいたあの都市よりも更に古いものだ。この区画も遙か昔に作られたものなのだろう。
「解錠完了。このまま進んで大丈夫だぜ」
「では、進もう」
龍帝が速度を上げて、開閉口の中へと突入した。
「イフ、周囲に見える全部が何かの施設に見えるけど」
「ああ、この開閉口付近には放棄された研究施設の残骸がこの先も広がっているようだぜ。この先の地表スキャンは完了しつつ、生きている施設がないかも同時に調査中だが期待しない方が良さそうだ」
「ここ、全てが放棄された研究施設か。何の研究をしていたんだろう? 入り口の外で起きてた重力子の海と関連はあるのだろうか」
「さぁな、ただわかることは、ここにいた存在は俺たちがいた区画の研究では無く内側へ向けて研究をしていたんだろうぜ」
「どうしてそう思うの?」
「これさ」
視界に情報が共有された。
「ああ、この先にある遺跡かな? これについて研究していたということ?」
「そうだぜ、この先にはこの区画よりも古い遺跡がある。そして、この放棄された研究施設群から僅かだが、その記載と記録を確認出来た」
「生きている施設があったの?」
「いや、死んでいたがシステムの一部に俺が動力源として一部を復旧させた」
「この区画ごと、放棄されてどのくらい経過していた?」
「不明だ。日付等の痕跡すらも削除されている。ここを放棄した存在は放棄というよりかはこの区画ごとを封印したとみていいだろう」
「そうなのか。それじゃ、この先にあるはずの遺跡に行けば何か分かるかもしれないね」
「そうだぜ! 今、スキャンを展開中。確実にこの先にあるぜ」
「間もなくだ、小娘」
施設で入り組んでいた景色から一気に視界が開けた。その先には丘が見え、その先には遺跡が広がっていた。都市なのだろう。だが、建築様式はかなり古い。ライブラリによれば、レンガ造りの建築物と該当した。
「レンガ造りの建築物か、初めて見た」
「小娘、そうなのか? 確かにこの世界に来てからはこのような造りの建築物は見かけなかったな」
「龍帝の世界には、こういう建築物たくさんあるの?」
「そうだよ。我のいた世界ではこの遺跡とやらと酷似した造りの建築物が多く見られた」
「そうなのか、世界が異なれば文化も異なるんだね」
「そういうものだ。さて、イフの話によれば、この遺跡とやらを研究するために先程の研究施設群があったとなれば、この遺跡は特別ということなのか?」
「そうかも知れないね。研究していたということは何かがいた。そう、ネコがいるんだよ、きっと」
「ルナが思い描くにゃんこさんはいませんぜ」
「うぐ」
「ネコか。我と同類か? いや、この遺跡もしや飲み込まれた世界の一部か?」
「龍帝の旦那、その可能性は高いですぜ。他の世界を取り込んで拡大して成長を続けている基底世界の被害者の一部という可能性は今までの状況証拠から推察するにそう結果を関連付けても違和感はないが確証はない」
「イフよ、確かにその通りだ。確証はない。だが、可能性はある。しかし、疑問だな。何故、この遺跡と研究施設を放棄した。得るものを得て去ったということか?」
「わからねぇ、だが、愛国者が封印されていたあの都市といい、ここを指し示す記録があったといい。必ず、ここには何かがあるということは間違いないと思うぜ」
「そうだな。では、周囲を警戒しつつ着地する」
龍帝はそういうと遺跡の中央へと降り立った。私たちも龍帝から降りて地面へ着地した。イフが周囲へ探査機を展開。現時点で生命体の反応は無し。完全な無人ではある。私の感知にも違和感はない。
「龍帝、何か感じる?」
「いや、今のところは何も感じはせぬ。だが、今、不思議と懐かしさを感じている」
「懐かしさ? どういう意味?」
「そのままの意味だ。この遺跡はやはり別世界のものだ。微量ながら魔力を感じる。やはり、愛国者は別世界へ介入し取り込んでいると思われるな」
「何の為に、別世界を取り込んでいるんだろう」
「我が思うに、この基底世界とやらを維持するために取り込んでいるというのが現時点での情報を踏まえると一応の納得はするが、それが正解ではないだろう」
「確かに」
龍帝の考えは正しい。現時点では情報が足りない。私が今まで出会ってきた人や都市、記録、情報を解析と分析してもこういう別世界の遺跡というところとは接点は無かった。探索範囲が狭かったというのと、戦闘が主だったという2点が原因だと思われる。
「ルナ、周囲に微量ながら龍帝の旦那が言う通り、龍帝の旦那から溢れ出る魔素と同一のものをこの遺跡から検出したぜ」
「微量ということは。まだこの遺跡は生きている?」
「有り得るな。我が試してみよう」
「龍帝、何を?」
「見ておれ」
龍帝が軽く地面へ右足を踏み込むと同時に、光文字が地面全体いやもっと広い。この感じだと広い遺跡を飲み込むぐらいの何かを龍帝は発動させた。何が起きるの?!
『|地脈を総括し、原初の還流を再定義せよ《レイライン・リブート》』
「大地が揺れる。地震? いや、これは何かの力が動き始めている?!」
「マジかよ、龍帝の旦那、この遺跡の全体の機能を完全に回復させちまったぜ」
「この程度、造作もない。これで魔力が満ちた。この遺跡が動き始めるぞ」
「動くって、いや、この数値は何だ? 桁が跳ね上がっていく」
「龍帝の旦那、これが魔力ってやつなんですかい?」
「そうだ。我は仮説をいくつか立てた。まず1つ目を実行し成功した。その仮説は愛国者が我と似た世界線を取り込んだ事実があり、物質として魔力回路を保持または維持したままの場合に我が力を吹き込めば完全に回復するというもの。つまり、我の知る理が通じる世界の理と同じ意味であればそれは我の手中にあるということを意味する」
龍帝が言いたいのは、多分、自分がいた世界と同じ理屈なら別世界の理屈であろうとも復活出来るんじゃねってことだと私は理解した。
それに龍帝はこれから凄いのと会わせてくれるような期待とか、遺跡全体も含めてひっくるめて出鱈目に凄いと感じる瞬間でもあった。




