↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇行種な次男とポンコツな脳筋悪役令嬢の物語  作者: 赤井"CRUX"錠之介
マスクド・スーパー・ソロ誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/40

決闘

 ややあって、ケインは再び語り出す。


「僕の育ての母は、クリサニア伯爵夫人です。妾の子である僕に対し、アベル兄さんと同じように接してくれました。ところが、その母が病で倒れたのです」


 そのことは、イライザも知っていた。クリサニア夫人は、二年ほど前に病気で亡くなったはずだ。


「母は亡くなる直前、メイドのエマさんを通じて僕を呼び出しました。何用かと思い、僕は呑気に病室へと行きました。すぐに治るだろう、そう高を括っていたのです。しかし、それは間違いでした」


 ケインの表情は歪んでいた。こんな彼を見るのは初めてだ。イライザは何も言えず、彼の次の言葉を待つしかなかった。


「母は、僕にこう言いました。あなたは強い子なのだから、弱い者イジメはやめなさい……とね。さらに、こうも言いました。お兄ちゃんを助けてあげてちょうだい。私の代わりに、守ってあげてほしいの……と。それから間もなくして、母は亡くなりました。僕は、短期間で生みの母と育ての母を失ってしまったのですよ」


 そこで、ケインは口元に笑みを浮かべる。


「以来、召使いたちをいたぶるのはやめました。僕はね、母の遺言を守ろうと決めたんですよ。命ある限り、ね」


「で……お前はこれからも、その約束を守るつもりなのかニャ?」


 そっと尋ねたのは猫耳小僧だ。対するケインは、笑顔で頷いた。


「ああ、そのつもりだよ」


「そうかニャ。まあ、俺には関係ないし、お前が決めたなら仕方ないニャ。好きにするニャよ」


 猫耳小僧は、そっけない態度で言った。しかし、本音は違うようだった。

 そして、イライザもまた違うことを考えていた。


「あなたは、確かに立派だわ……でも、それは違うと思う」


 呟いた直後、イライザは着ていたマントを脱ぎ捨てた。短パンとタンクトップ姿になり、さっと立ち上がる。

 次の瞬間、とんでもないことを口走る。


「ケイン・アリティー……わたくしは、あなたに決闘を申し込みます!」


「はい? 何を言ってるのですか?」


 きょとんとなっているケインを、イライザは鋭い表情で睨みつける。


「さあ、立ちなさい! わたくしと決闘よ!」


「な、何を言ってるニャ? お嬢、頭は大丈夫かニャ?」


 心配そうに尋ねた猫耳小僧だったが、イライザは彼のことなど見てもいない。


「早く立ちなさい! でないと、わたくしの方から仕掛けますよ! わたくしを甘く見ない方がよくてよ! 無抵抗のあなたにケガさせるくらいならできましてよ!」


「お嬢、いい加減にするニャ! ケインはトレーニングでへとへとニャよ! こんなの卑怯だニャ!」


 叫んだ猫耳小僧だったが、イライザに引く気配はない。


「そう、これは紛れもなく卑怯者のふるまい……でもね、こうでもしなければわたくしは勝てない! そして、この闘いには絶対に勝たなくてはならないの!」


「なんでだニャ!?」


「彼を……ケインを呪縛から解き放つためよ!」


「呪縛? どういう意味ですか?」


 言いながら、立ち上がったのはケインだ。その顔つきは変わっている。

 イライザの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。


「ようやく、やる気になったようですね。はっきり言いましょう。今のあなたは、亡きお母さまの奴隷です! いつまで、その言葉に縛られているつもりですか!」


「僕の母を侮辱するのですか? いくらあなたでも、それは許しませんよ」


 言ったケインの体からは、闘気が漂い始めている。それを察したイライザは、さっと飛び退き構えた。


「では……ケインさん、決闘をお受けしてくださるのね?」


「わかりました。受けましょう」


「始める前に、条件をつけさせてもらいます。勝った方は、負けた方にひとつだけ命令ができる……これでどうです?」


「何でもいいですよ」


 ケインの目つきは変わっていた。用心棒や闘士たちを打ち倒してきたときのそれになっている。

 その時、猫耳小僧がイライザの手をつかんだ。


「お嬢! いい加減にするニャ! 帰るニャよ!」


 だが、イライザはその手を振り払う。


「離しなさい! これは命令よ! あなたは、黙って見ていなさい!」


「そうだよ。猫耳小僧、君は見ていればいい。イライザさんとは、一度は闘わなくてはならない気がしていたんだよ」


 言いながら、ケインは構える。だが、疲労の色は隠せない。なにせ、百キロはあろうかという石を担いで崖を上がったり、降ってくる石を躱したりしていたのだ。

 それでも、ケインは闘う気だ。そんな彼の姿に、イライザも嬉しそうだ。


「そう、あなたはお母さまの呪縛を解き放ち、自分の人生を生きなくてはならない……わたくしが、今までのあなたに引導を渡します! それでは、レディ──」


「ゴー!」


 叫んだのはケインだ。続いて、一気に間合いを詰めていく。

 だが、意外にもイライザは回り込んだ。次いで、ケインの太ももに鋭いローキックを放つ。

 ビシッという音が響き渡る。次いで、ケインの顔が歪んだ──


 イライザは、基本はポンコツである。だが、こと闘いとなれば話は別だ。彼女は、先ほどからのケインのトレーニングを見て、足にかなりの疲労が溜まっていると見抜いた。

 その足を、徹底して狙う作戦に出たのである。


「わたくしは、絶対に勝たねばならない……ならば、手段は選べません!」


 叫びながら、イライザはなおも蹴りを打っていく。日頃、サンドバッグを蹴りまくり鍛え上げてきた足だ。さすがのケインも、ダメージは隠せない。

 しかも、ケインは数日前にスラムコングとの試合を終えたばかりである。一方的な展開だったが、それでも疲労はゼロではない。ダンスのような動きで観客にアピールし、試合でもずっと動き回っていた。

 さらに、特訓により体をいじめ抜いた状態である。ケインは、普段の半分の力も発揮できていない。

 そんな中でも、どうにかイライザの攻撃に対応しようとする。だが、反応速度が遅い。体も重く、イライザの速い蹴りに防戦一方だ。


 イライザはというと、軽やかなフットワークでケインの周囲を回っている。まさに、スラムコング対ケインの再現だ。近づいて来るケインに蹴りを放ち、パッと離れる。時おり、顔面へのパンチも放つ。

 ケインも、イライザの狙いが自分の足であることはわかっていた、だが、疲労の溜まった足は言うことを聞いてくれない。鞭のようにしなるローキックを、躱すことも防ぐこともできずにもらい続けてしまう。

 今もまた、イライザのローキックが炸裂した。


「どうしたのかしら! それでは、マスクド・スーパー・ソロの名が泣きますわよ!」


 煽るようなセリフを吐きながら、またしてもローキックを放つイライザ。ビシッといういい音が響き、ケインの顔が歪む。

 見ている猫耳小僧は、思わず動こうとする。だが、かろうじて踏みとどまった。このふたりの闘いに、自分が踏み込んではならない……その思いが、彼の体を押し止めたのだ。

 やがて、ケインの動きが止まる。足はぐらつき始め、立っているのもやっと……という雰囲気だ。

 それでも、イライザは油断しない。ケインの正面に立つことなく、ステップを踏みつつ速いローキックを叩き込む。鋭い音とともに、またしても蹴りが太ももに炸裂した。

 ほぼ同時にケインも動く。ローキックに合わせ、相討ち覚悟のパンチを放った。だが、そのパンチはボディへのストレートだ。顔面へのパンチではない。しかも、足へのダメージにより踏み込みが甘くなり、当てることはできなかった。

 イライザの顔が、さらに険しくなる。


「この期に及んで、まだ情けをかける気!?」


 叫んだ直後、またしても蹴りを繰り出す。しかし、今度はローキックではない。顔面を狙ったハイキックだ。

 ケインの顔面に、イライザのハイキックが炸裂する──



 

 

 










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。