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奇行種な次男とポンコツな脳筋悪役令嬢の物語  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ハニートラップ

「アベルさん! 今日は私たちと一緒に帰らない!?」


 授業を終え、教室を出たアベルにまとわりつく女生徒……それは、スーザン・ペペロンチーノであった。さらに、その後ろにはルーシー・ペペロンチーノもいる。


「いや、私はシーラと……」


 困惑するアベルだったが、スーザンとルーシーはお構いなしだ。左右からアベルを挟み込み、腕を絡めた。直後、彼の顔を上目遣いで見上げる。

 さらに、ふたり同時に口を開く。


「私たちと帰るの、嫌?」


 さすがのアベルも、何も言えずにいた……が、そこに乱入してきたのはケインだ。


「兄ちゃん行くぞ! フライングクロスチョーップ!」


 訳のわからないことを言いながら、飛びついていった。まずスーザンとアベルの間に入り、腕を引き離しつつ向こう側に飛んでいく。

 間抜けなポーズで廊下に倒れたが、すぐに立ち上がった。


「くそう、僕のフライングクロスチョップを躱すとは、ちょこざいな! 次は、フライングボディアタックだ!」


 言いながら、ケインは飛び上がった。体ごとアベルにぶつかっていく。

 ルーシーの顔が歪んだ。こんなアホがいるなんて聞いてないよ、という顔つきでパッと離れる。

 一方、ケインの体はアベルにまともにぶち当たった。受け止めきれず、後方に倒れる。

 普通なら怒っている状況だろう。弟がいきなり突進し、飛び上がって体ごとぶつかってきたのだ。しかし、アベルとて頭お花畑の男である。ケインにのしかかられ倒れているのに、ニコニコ笑っているのだ。


「フッ、ケインもやるようになったな。だが、私にはまだまだ勝てん!」


 言ったかと思うと、素早く立ち上がった。まだ倒れたままのケインに上から乗り、逆エビ固めをかける。


「どうだケイン!」


「うわ! 無理無理! ギブ、ギブ!」


 訳のわからないことを言いながら、床を手で叩くケイン。

 それを見たアベルは、すぐに技を解き立ち上がった。勝ち誇った表情で、ケインを見下ろす。

 一方、ケインは腰をさすりながら立ち上がる。


「イテテテ……やっぱり、兄ちゃんには勝てないや」


「フッ、当然だろう。私は、まだまだお前には負けん。なぜなら、アリティー家の次期当主だからだ!」


 言ったかと思うと、アベルは右手をビシッと突き上げる。

 周りの生徒たちは「おい、アホがいるぞ」「アベルも、実はアホだったのか?」などとヒソヒソ言いながら、近寄らないようにして通り過ぎていく。

 スーザンとルーシーは唖然としていた。だが、そこにアベルが近づいていく。


「あっ、そう言えば私に何か用がおありだとか? 何でしょうか?」


 そこに、ケインが割って入る。


「もちろん、兄ちゃんと闘いたいんですよね?」


 そんなことを言われた姉妹は、引きつった表情を浮かべ後ずさっていく。こいつら、シャレにならねえぞ……とでも言わんばかりの顔つきだ。

 しかし、ケインはお構いなしだ。ずんずん前進していく。


「一緒にパンクラチオンごっこしましょう! 楽しいですよ! ねえ兄ちゃん!?」


「ハハハ、ケインはいつまで経っても子供だな。だが、そこがケインの魅力でもある。いつまで経っても、そのケインらしさを忘れないでほしいものだな」


 訳のわからないことを言って、ウンウン頷くアベル。と、そこにまたしてもケインが襲いかかる。


「うおぉぉ! 僕のモンゴリアンチョップをくらえ! キエェェェ!」


 奇声を発しながら、両手でチョップをするケイン。アベルはそれをガードし、組み付いてヘッドロックで絞めあげる。

 その隙に、スーザンとルーシーは逃げ出していった。




 一方、シーラにはピーターとエドマンドがトラップを仕掛けにいく。しかし、この兄弟はシーラのことを甘く見ていた。


「おふたりは、いつも屋敷で暮らしていますの?」


 いきなり聞かれたピーターは、戸惑いつつも答える。


「ええ、まあ」


「では……入浴も一緒ですの?」


 若干、頬を赤らめながら尋ねたシーラに、今度はエドマンドが答える。


「まあ、一緒に入ることもありますよ。なにせ、我が屋敷の浴室は広いですからね。よかったら、シーラさんも一度──」


「では、おふたりは……兄弟でありながら、全裸のお付き合いもしますのね! まあ! いけないわ! そんな関係、あってはならぬことですわ!」


 両手で顔を覆い、イヤイヤをするシーラ。ペペロンチーノ兄弟はというと、引きつった表情で顔を見合わせる。こいつ、何を言ってるんだ……とでも言わんばかりの様子だ。

 そこに、さらなる爆弾が投入された。


「ところで……おふたりは、どちらが強いのですか?」


 突然、話しかけてきたのはイライザだ。鋭い表情で、ふたりを睨みつけている。


「えっと……強い、とほどういうことですか?」


 困惑し聞き返すピーターに、イライザは自信満々の表情で左の拳を突き出して見せる。


「もちろん、これに決まっているでしょう。貴族たる者、優しいだけでは駄目です。いざという時に領民を守るためには、強はが必要……これこそが、グレイス家の家訓です。正義なき力は暴力、力なき正義は無力ですからね。さあ、おふたりのうち、強いのはどちらですか? 是非とも、お手合わせ願いたいものです」


 そんなことを言いながら、イライザは拳を構えウォームアップ代わりのシャドーを始めた。どうやら、初対面の貴族と本気でお手合わせする気らしい。

 ピーターとエドマンドは明らかに混乱した様子であった。力なき正義だの、正義なき力はわかる。だが、そこからなぜ自分たちが殴り合わねばならんのか。

 もしかしたら、このイライザはペペロンチーノ兄弟が嫌いなのか。それとも単に、人が殴りたくて仕方ない暴力娘なのか。

 いずれにせよ、イライザはいつでも殴れる体勢でシャドーをしている。こうなると、近くにはいたくない。


「ど、どうやら今日は巡り合わせが悪いらしい。弟よ、また今度にするか」


「そうですね兄上」


 言ったかと思うと、脱兎のごとき勢いで駆けていった。


 「あの男たち、いったい何がしたかったのかしら」


 イライザは低い声で言いながら、小さくなっていくふたりの背中を睨みつけていた。実のところ、彼女はペペロンチーノ兄弟のことを全く知らない。話したのも、今日が初めてた。。ただし、先ほどからの軽い口調が気にくわかなかっただけだった。


 ◆◆◆


 昼休みになった時、ペペロンチーノ兄弟姉妹たちは、人気(ひとけ)のない校庭の隅に集まっていた。全員、苦い表情を浮かべている。


「私は驚いたぞ。シーラが天然のお嬢様だという話は聞いていた。だが、話をすると訳のわからない解釈をして、勝手に顔を赤くしている。あれでは、落とす間にこちらの理性が落ちていきそうだ」


「それに、あのイライザもめちゃくちゃだよ。いきなり、強さとは何が? みたいなことを聞いてきたかと思ったら、お手合わせしましょうなんて言ってきたよ。お手合わせって殴り合いだろ? 意味がわからないよ。なんで初対面の女と殴り合うんだ?」 


 エドマンドが言い、次いでスーザンが口を開く。


「ケインが並のアホではない奇行種……というデータは、事前に入っていたわ。でも、アベルの方もかなりのバカよ。あの爽やかな印象とイケメンぶりで誤魔化されてるけど、あいつも奇行種。ただ、ケインよりはかなりマシってだけ」


「あそこまでバカだと、小細工は通用しないね。そもそも、奴らとは会話できないよ。あいつらが一方的に訳わからないこと喋ってるし、いきなり変な技の掛け合いするし……しかも、私たちにまで技掛けようとしてきたんだよ」


 ルーシーが言うと、ピーターはフゥと溜息を吐いた。


「私たちが指名された以上、できる限りスマートなやり方でいきたかったが……やはり暴力しかないのか」





 





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