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奇行種な次男とポンコツな脳筋悪役令嬢の物語  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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2/26

お友達

 ウルテミス園は、貴族の子女のみが通える学校である。当然ながら授業のレベルは高く、一般教養以外のさま々な授業を受けられるのだ。

 そして今から、学園の一限目の授業が始まる。皆、背筋を伸ばし真面目に授業を受けている……はずだった。




 しかし、約一名よからぬことを考えている者もいた。先ほど悪だくみをケインに防がれたイライザ・グレイスである。

 授業中であるにもかかわらず、シーラの方をチラチラ見ている。どうやら、授業中に何か仕掛ける腹積もりのようだ。


 そんなイライザを、後ろの席でじっと見ているのはケインだ。彼は既に、イライザが何かやらかすつもりなのを見抜いていた。

 さて、何をするのか……獲物を狙う狩人のような目で、イライザの一挙手一投足を監視している。まあ、大したことはしないだろうとは思うが、万一ということもある。小さなイタズラが、大きなアクシデントになってしまうのは避けたい。

 その時、歴史の教師ロッテンマイヤーが、黒板に年表を書き始めた。生徒たちは皆、筆記帳に書き写している。

 同時に、イライザも動いた。この瞬間を待っていたらしい。何かを丸め、シーラに投げつける。

 一瞬、ケインの目つきが変わった。だが、すぐに元に戻る。投げられたものは、紙を折り飛びやすくした物体である。当たってもダメージはない。

 投げられた物体は、シーラの頭に見事に命中した。シーラは、ハッとなり顔をあげる。いったい何事が起きたのかと、あちこちを見回した。

 その瞬間、イライザと目が合ってしまう──


 イライザは恐ろしい顔をしていた。目は、因縁をつけるチンピラのように細めていた。そして鼻の下は、ゴリラのように思い切り伸ばしている。誰が見ても変な顔だ。

 残念なことに、シーラは笑いの沸点が低い少女であった。アベルの「布団が吹っ飛んだ」という駄洒落で大爆笑してしまうような女の子である。

 そんなシーラが、イライザの変顔をまともに見てしまったのだ。耐えられるはずがない。


「ぶわっはっはっは!」


 授業中だというのに、シーラは声をあげて笑ってしまった。そうなると、黙っていないのがロッテンマイヤーだ。


「シーラさん、なんですか今のは!?」


 鋭い表情で、シーラに詰め寄っていく。しかし、シーラはまだ笑い続けている。一方、イライザはガッツポーズを何度もとっている。シーラが怒られたことが、よほど嬉しいのだろう。

 一部始終を見ていたケインは、思わず頭を抱えていた。あんな変顔を見られたら、イライザの方にも少なからずダメージがあるように思うのだが……彼女にとっては、シーラがダメージを受けたことの方が重要らしい。

 そして今も、シーラはロッテンマイヤーに叱られている。


「授業中に大口開けて笑うとは何事ですか!? そんなことでは、立派な貴婦人にはなれませんよ!」


「は、はい! 申し訳ありませんでした!」


 ペコペコ頭を下げるシーラを見て、イライザはまたしてもガッツポーズをする。嬉しくて楽しくて仕方ない、という感じだ。

 まあ、あの程度で済んだなら良しとしよう。だが、これ以上のことをするなら、こちらもそれなりの対処をしなくてはなるまい。ケインはあくびをしながらも、イライザの動向に目を光らせていた。




 そしてロッテンマイヤーの授業が終わると、思わぬことが起きる──


 休み時間に入ると同時に、シーラは立ち上がった。とある席を目指し、真っ直ぐ歩いていく。その進行方向にいるのは、他ならぬイライザなのだ。

 ケインは思わず顔をしかめる。シーラは、むやみやたらと喧嘩を売るタイプではない。だが、先ほどの行為はさすがのシーラをも怒らせてしまったのかもしれない。

 一方、イライザもまた近づいてくるシーラに気づいていた。その顔には不敵な表情が浮かんでいる。来るなら来いや、とでも言いたげなさま子だ。

 ここで両者を争わせるのは、どう考えてもマズい。ケインは、すっと立ち上がった。

 いざとなったら「シーラさん! 遊ぼ遊ぼ!」とバカ丸出しの態度で手を引っ張って無理やり両者を引き離す。その上で、アベルになだめてもらおう……以上の作戦を、零コンマ何秒かで考えついた。実行に移すべく、音も立てずに近寄っていく。


 しかし、それは杞憂であった。イライザと向き合ったシーラの口から、とんでもないセリフが飛び出したのだ。


「あなた、とってもユニークな方なのね!」


「は、はあ!?」


 さすがのイライザも、この言葉は予想外だったらしい。鳩が豆鉄砲を食らったような表情になっている。

 しかし、シーラの攻撃はまだ終わっていなかった。彼女は目を輝かせ、こんなことを言い出したのだ。


「イライザさん、私とお友達になってください!」


「は、はあぁぁ! な、何を言い出すの! あなたはバカなの!? アホなの!?」


 悪口以外の何物でもないイライザの言葉を、シーラはニコニコ笑いながら受け流す。


「ふふふ、本当に面白い人ね。前から思っていたのだけど、あなたは学園でも最高にユニークな方よ! さっきの顔も、凄く面白かった。ねえ、私とお友達になって!」


「あ、あなた自分で何を言ってるかわかってるの!? ととと友達だなんて……」


 しどろもどろになっているイライザだったが、シーラはお構いなしだ。手を伸ばし、イライザと無理やり握手する。

 と、その表情が一変した。


「まあ! あなたの手は、なんて大きいの! こんな逞しい手、初めてですわ! ゴツくて、本当に頼もしいわ!」


 そう、イライザは背が高い。肩幅も広く、ゴツい体格である。しかし、それをよりによってシーラから指摘されてしまったのである。しかも、ゴツいというおまけ付きだ。

 たちまち、イライザの表情が変わった。歴戦の海賊もビビって逃げ出すような顔つきで、ゆっくりと声を絞り出す。


「何ですって? 今、なんと仰ったの? わたくしの手がゴツいと?」


 低く凄むような声だ。マズい。このままでは、イライザが手を出しかねない。

 ケインは音もなく動き、イライザの席まで到着した。後はバカのふりをして「シーラさん! 遊ぼ遊ぼ!」と、シーラを廊下に連れ出すだけだ。後のフォローは、あの猫に頼むとしよう。

 しかし、またしても予想外のことが起きる。その場にアベルが現れたのだ。


「おやおやシーラ、どうしたんだい?」


「あ、アベルさま! 私、こちらのイライザさんとお友達になりましたの!」


「えっ!? アベルさま!?」


 たちまち、イライザの表情が変わった。シーラの手を握りながら、微笑んでみせているではないか。

 ケインはホッとした。イライザは、アベルに気があるのだ。そのアベルの前では、さすがに暴力は振るわないであろう。

 そしてケインの予想通り、イライザは可愛らしい表情を作り、はにかんでいた。一方、シーラは得意げな表情でアベルに語り出す。


「アベルさま! 私、こちらにいるイライザさんとお友達になったのよ!」


 言った後、笑顔でイライザの方を向いた。


「ねえ、イライザさん」


 話を振られたイライザは、にこやかな表情のまま頷いた。


「はい。わたくし、シーラさんとお友達になりました。嬉しいですわ」


 心にもないセリフに、ケインは笑いを堪えつつ成り行きを見守る。

 アベルはというと、本当に嬉しそうな表情でふたりを見つめる。


「そうか。友達の友達は皆友達、これはアリティー家の家訓だ。すなわち、シーラさんの友達であるイライザさんもまた、私の友達になったということだね。よろしく、イライザさん」


 そのやり取りを見ながら、ケインはホッと胸を撫で下ろしていた。とりあえず、今のところ自分の出る幕はなさそうだ。








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