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奇行種な次男とポンコツな脳筋悪役令嬢の物語  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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イライザの闘い

 午後の授業も終わり、アベルとシーラはふたりして教室を出て行こうとする。

 その時、ひとりの女生徒が声をかけてきた。


「あのね、ロッテンマイヤー先生がシーラのことを呼んでたよ。三階の談話室に来てくれって」


「談話室? はて、何でしょう?」


 シーラは首を傾げた。

 談話室とは……一応、名目上は生徒と教師が楽しく交流するための部屋、ということになっている。しかし、実のところは他人に聞かれたくない話をする時に用いる場所なのである。

 そんなところに、教師から呼び出されるとは只事ではない。シーラは、帰ろうとしていたイライザに声をかける。


「イライザさん、私ロッテンマイヤー先生に呼び出されてしまいましたの。それも、三階の談話室にです」


「はあ? だから何だと言うのです?」


 イライザの方は、面倒くさそうに聞き返した。そもそも、この女とは「友達のふり」をしているだけ……のはずなのだが、うっとおしくて仕方ない。


「あの、私ひとりでは心細いのです。ですから、一緒に来てください」


「何でわたくしが?」


 聞き返したイライザだったが、シーラは引かなかった。


「お願いです。一緒に来てください。もし、叱られでもしたら……」


 悲しげな表情でうつむいたシーラに、イライザは仕方なく頷いた。何せ、彼女は根が素直で、頼まれたら嫌と言えない性格なのだ。


「わ、わかりましたよ」


「ありがとうございます! やはり、あなたは私の心の友ですね!」


「そ、そうね」


 一応は答えたものの、イライザは段々この役目がつらくなってきた。シーラという少女、本当に面倒くさい。タイミングとしては早すぎるが、そろそろ裏切ってやろうかと思い始めていた。


 そんなやり取りを、そっと聞いているのはケインである。

 

「三階の談話室? 妙だな……」


 思わず呟いた。自分も付いていくべきか、という思いが頭を掠める。

 だが、すぐに思い直した。先日、イライザは数人のチンピラを一蹴してみせた。そんなイライザがそばにいる以上、下手なことは仕掛けてこないだろう。

 むしろ、アベルをひとりにさせておく方が危険だ。ケインは、素知らぬ顔でその場を離れていった。

 そして、アベルに絡んでいく。


「ねえ兄ちゃん、こないだ空に銀色の円盤が飛んでたんだって!」


「ハハハ、ケインは相変わらずだな。それはな、そういう鳥なんだ」


「えっ、そうなの?」


 半分は本気で引きつつ、ケインは尋ねた。すると、アベルは自信たっぷりの表情で頷く。


「ケインは、まだまだ甘いなあ。いいかい、世の中には不思議なものがいっぱいある。私たちが見たこともない生き物など、幾らでもいるんだよ」


「え、えーと……でも、銀色の円盤みたいな鳥なんているのかなあ?」


「ケイン、お前が今まで見たことがないからといって、存在しないと決めつけるのは感心しないな。銀色の円盤みたいな鳥を、いないと決めつける根拠はなんだ?」


 それは悪魔の証明じゃないか。なんか面倒くさい話になってきたぞ。ここは、もう合わせるしかない……と思いつつ、ケインは手をぱちぱち叩いた。


「おお、なるほど! いないと決めつける根拠はない! さすが兄ちゃん、頭いい!」


「ハハハ、褒められると照れるなあ。それにしても、シーラさんは遅いなあ。どうしたのだろう」


 照れているアベルだったが、ケインは彼のことなど見ていなかった。

 その目が捉えていたのは、一匹の猫であった。間違いなく、猫耳小僧の変身した姿である。その目は、何かを訴えていた。

 途端に、ケインは走り出す。


「あ、猫ちゃんだ! 待ってえ!」 


 しかし、猫は駆け上がっていく。ケインもまた、階段を駆け上がっていった。


 ◆◆◆


 時は戻り、シーラとイライザは三階の談話室へと向かっていた。


「おかしいわね。人の気配がない……どういうこと?」


 イライザは呟いたが、シーラは気にする素振りもなく歩いていく。

 やがて、談話室の前に立ちドアを開けた。しかし、誰もいない。


「あれ? まだ先生は来ていないみたい。ちょっと待っててくださいね」


 そういうと、シーラは中の椅子に座る。一方、イライザは外で待つしかなかった。


「全く、なんでわたくしがこんなことを……もう、友達のふりなんかやめようかしら」


 ぶつくさ言いながらも、イライザは律儀に外で待つことにした。

 だが、談話室の中ではとんでもないことが起きていたのである。


 ドアが閉まると同時に、中に設置してあった用具入れの扉が開いた。

 中から出てきたのは、マシアス・ウレイである。彼は即座にドアに鍵をかけ、シーラに向かい笑みを浮かべた。


「おやおや、本当に綺麗な顔のお嬢ちゃんだ。その可愛いお顔、今からおじさんがボコボコにぶっ壊してあげるからね」


 そう言って、マシアスはニィと笑った。

 同時に、シーラはその場に崩れ落ちた。尻もちをついた体勢で、震えながらマシアスを見上げている。恐怖のあまり、腰が抜けてしまったのか。

 対するマシアスは、不気味な笑みを浮かべる。


「その顔、たまらないねえ。さあ、今からその顔を凄く醜くしてあげるからね」


 言った瞬間、ドアが弾け飛んだ──


「おかしいと思ったら、こんなゲスの極みのようなゴミクズが潜んでいたのね」


 現れたのはイライザである。彼女は。強烈な蹴りでドアを蹴破ってしまったのだ。

 大抵の者は怯むであろう光景だが、マシアスはヒューと口笛を吹いただけだった。


「おやおや、坊っちゃん嬢ちゃん学校かと思ってたが、こんな()もいたのかい。ちっとは遊べそうだな」


「そんな大物ぶったセリフを言っていられるのも、今のうちだけよ!」


 叫んだ直後、イライザは瞬時に間合いを詰める。強烈な左右のパンチを放った。しかし、マシアスはバックステップで躱してのける。

 そこで、イライザは叫んだ。


「シーラ! 早く逃げなさい!」


 だが、シーラに動く気配はない。恐怖のあまり、腰が抜けて動けないのか。

 一方、マシアスはニヤリと笑った。


「いやあ、大したパンチじゃねえか。スピード、キレ共に一級品だ。あんた、この学園じゃあ一番強いだろうな」


「お褒めにあずかり光栄よ」 


 不敵な表情で答えたイライザだったが、内心ではマシアスの動きに舌を巻いていた。あの足の動き、並大抵の戦士ではない。


「だがな、今の学園では……あんた二番目だ」


「ほう、では一番は誰かしら?」


「そんなもん、俺に決まってるだろうが。一番のパンチ、見せてやるぜ!」


 言うと同時に、マシアスは襲いかかる──


 凄まじい連打が、イライザを襲った。左右のパンチはあまりにも速く、そして重い。馬に蹴られているかのような衝撃に、イライザは両腕で顔面をガードすることしかできない。

 だが、続いての一撃はボディーに放たれた。


「うぐぅ!」


 呻き声をあげるイライザ。思わず前かがみになり、マシアスにしがみついていく……だが、これは作戦だった。

 次の瞬間、両手で思いきりマシアスを突き飛ばす──


「何ぃ!?」


 思ってもいなかった動きに、マシアスは意表を突かれ後方によろめいた。

 その瞬間、イライザの右足が伸びる。マシアスの側頭部に、ハイキックを炸裂させたのだ。

 さすがのマシアスも、これは効いた。目を見開いたまま、バタリと床に倒れる。

 だが、次の瞬間にイライザも顔をしかめた。ボディーに食らったパンチは、相当に効いた。彼女でなければ、その一撃で気を失っていたであろう。


「さあ、逃げるわよ」


 痛みを堪えつつ、イライザはシーラに言った……が、直後に口元を歪める。

 なんと、マシアスが立ち上がったのだ。唇は切れており血が流れているが、闘いに支障はなさそうだ。


「ほう、嫁入り前のお嬢さまが太もも出して男の顔面を蹴るのかい。ますます気に入ったよ」


 そう言うと、マシアスは唇の血を舐めた。






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