第7話 いずれ天才と呼ばれる男
「動くな」
その一言が、静止した世界に響く。声は、若い女性の声で、凛としていてよく響く声だった。
「時間警察です。貴方達は既に包囲されています。手を挙げてください」
そう、淡々と、落ち着いた声で命令してくる。後ろを見れないので分からないが、おそらく銃か何かを構えている。
どうすればいいのか時野さんを横目に見るが、彼女は既に手を挙げていた。だが、その表情からは余裕が感じ取られる。
俺も手を上げようとするが、傘を持っていることに気づき、どうすればいいのか分からずもたもたしていた。すると、それを察したのか、後ろからまた声がした。
「西野海斗さんですね。あなたを保護しに来ました」
先程と違って、敵意は感じられない。なんなら、怖がらせないようにという配慮すら感じる。
「あなたは、こちらを向いて、来てください」
指示どおりにする。後ろを向くと、一人の女性が、銃……のような物を時野さんに向けていた。
彼女は、全体的にキリッとした印象の人で、きちっと着こなした黒スーツに黒の手袋、そして黒の銃。長い黒髪を後ろで結んでおり、同じ黒で統一された時野さんの不気味な印象と違って、きっちりとした印象を覚える。
俺に対して敵意はない、というのは分かったが、彼女について何も知らないので下手な行動はできない。俺が、指示に従って近づくと彼女は、目配せをしてきた。なんとなく、付いてきてくださいという意味だと思う。
彼女は、銃を時野さんに向けてゆっくりと、一歩ずつ後ずさっていく。
その間も彼女は目を離さない。
そして、時間を掛けて、時野さんが見えなくなるまで距離を取った所で、ふぅっと息を吐き、
「ここまで来れば、大丈夫です。ここでは初めましてですね。西野海斗さん」
彼女はそう言って、手を差し出してきた。
◆◇◆◇◆
「そろそろ、出てきたらどうですか」
静止した世界の中、手を挙げたまま取り残された彼女は、そう言う。
「私を殺しに来たんでしょう?」
そう言うと、路地の裏から、道の曲がり角から、住宅の屋根の上から、優に100を超える、機械が現れる。
機械はどれも人型で、腕が銃になっている物もいれば、大きな刃物になっている物もいる。そして、そのどれもが、たった一人の少女に武器を向けていた。
「これまた、今回はかなりの数いますね。それだけ、彼が重要人物という事ですか」
そう言って、彼女はニヤリと笑い、空中——収納ちゃんから、一振りの日本刀を取り出し、構える。
「遊んであげます。かかってきなさい」
そうして、戦いの火蓋が切られた。
◆◇◆◇◆
彼女に連れられて歩くこと10分。着いたのは、俺も何度か遊んだことのある近所の公園だった。いつもなら、子供が遊んでいるのだが、時が止まる直前まで雨だったこともあって誰もいない。それどころか、大きなテントが張ってあり、軍の作戦本部のようになっていた。
そこで、計20人くらいが、あくせくと働いている。俺は、テントの中の四人掛けの簡易テーブルに案内された。傘を机の脇に立てかける。何となく忘れそうな気もしたが大丈夫だろう。多分、きっと……
「改めまして、私の名前は、二階堂葵です」
「あ、えぇっと、西野海斗です……」
彼女――葵さんと会話した印象は、時野さんと真逆な印象だ。いつもふざけている彼女と違って、真面目を体現したかのような人だった。俺の名前を知っていたようだが、一応自己紹介をしておく。
「早速ですが、本題n「ちょーっと待ったっっ!!」」
突然、テントの奥から、声が飛んでくる。そして、バサッと布を巻き上げるように入ってきたのは、金髪が印象の女性だった。そして、ズカズカと早足で机に近づいてくると
「いつも言ってるけど、いきなり過ぎっ!!」
彼女もまた、葵さんと同じで黒スーツに身を包んでいる。が、彼女と違う点は、イヤリングを着けていて、金髪の髪が程よく伸ばされているので、全体的にオシャレな印象を受けることだろうか。
「それと笑顔っ‼、そんなに睨んでると怖がっちゃうでしょ?」
「へつに、ひらんでひるわけじゃ」
金髪の彼女は、葵さんのほっぺをムニムニとして、強制的に笑顔にする。その後、俺の存在を思い出したのか、慌てた様子で、
「あっ、ごめんね?私の名前は亜下野未来。苗字は読みにくいし、みらいって呼んでね」
そう言って彼女はウインクしながら手を差し出してくる。俺は握手を返す。
「あ、よろしくお願いします」
「いやー、それにしても、こんな普通そうな男の子があの先生になるなんてね」
そう言ってみらいさんは、感心したように俺の顔をまじまじと見つめてくる。その顔からは、本気で疑問に思っているようなそんな感情が伝わってくる。彼女の発言から考えると——
「もしかして、未来で俺と?」
「はい。未来のあなた——40年後のあなたと私達は、顔見知りです」
俺が問いかけると、ムニムニされていたほっぺをさすりながら、葵さんが答えてくれる。そして、当然疑問も生まれる。
「えぇっと、未来の俺は何であなた達のような……時間警察と知り合いに?」
純粋な疑問だった。時間警察との接点なんて作ろうと思って作れるものではない。それに……俺はあの日、時野さんと会った日、学校の屋上から——
「そうですね……それはおそらく、未来のあなたの事を知れば自ずとわかるでしょう」
彼女は説明が難しいのか、少し考えてから言った。そして、一呼吸、息をついて言葉を続ける。
「西野海斗さん、あなたは未来において人類で初めてタイムマシンを開発した人なんです」




