第5話 告白
「はぁ……どうしたものか」
そう呟きながら見るのは、自分のスマホに映るトーク画面。夕食後の独特の眠気と共に、ベッドに横になりながら送る内容を打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返す。
「明日の放課後校舎裏へ……いや、これは流石にベタ過ぎるか」
そう、現在俺は告白の呼び出しの文章を考えているのだ。だが、一向に良い文を思いつくことが出来ない。最初よりは断然、良いものになってきている気はするのだが、納得のいく文を作ろうと思えば思うほど理想が上がっていくので、キリがないのだ。
「ダメだな。一度、風呂に入るか」
一度、頭をリセットさせた方が良い。文を考えるのはその後からでも遅くないと自分自身に言い訳をしつつ、スマホをポイっとベッドに投げて立ち上がり、部屋の入口に向かう。
——その時だった
ブゥゥゥ、とベッドの上のスマホが震えた。いつも使っているトークアプリの着信音ではなく、メールの着信だ。基本的に重要なメール以外は、着信しないようにしているので少し気になってスマホを見る。
『明日の朝、告白しろ』
送信者は不明。だが、明らかに俺の事情……しかも、周りにも隠してきた告白の件を知って送られてきたものだ。そのメールを見て、感じるのはやはり、恐怖だった。怖い、気持ち悪い、なんで、誰が。そんな言葉が、頭を埋め尽くす。
自分でも、呼吸が荒くなっていくのを感じ、まだ6月の終わりだというのに、汗が止まらない。
「何なんだよ、これ」
そう言うのが、精一杯だった。短い、それでいて何となく、洗練されたように感じる文。
何度も書き直して、考えて、その末に書かれたようなそんな文。それは、気持ち悪さを際立たせると同時に、文って案外、気持ちが伝わるものなんだと気づかせてくれた。
いや、何考えてるんだ俺……って言うかそもそも……俺の事情を知っていて、かつ俺のメアドを知っている奴なんて限られているじゃないか。それこそ、家族と幼馴染の香織くらいだ。
そう気づくと、一気に気が抜けて、思わず、部屋のカーペットにへたり込んでしまう。それから、少し考えて、思い至る。
「これ、もしかして香織からか?」
十分あり得る話だ。何故ならば、香織は多分、俺の気持ちには気付いているからだ。告白こそしていない物の、水族館に誘ったり、映画を見に行ったりと、かなりアプローチをしている。よっぽど鈍感ではない限り、気づいているはずだ……というか、気づいていてほしい(願望)。
「まさか、告白を催促されているのか?」
あり得る。あり得てしまう。いや、落ち着こう。落ち着け。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせ——れない。意味もなく、部屋を無意味にウロウロしながら、スマホを見る。
いつもなら、あり得ないと切り捨て犯罪を疑うのだが、約10年間片思いしてきた相手からの告白の催促の可能性に、彼の頭は正常に働くことはなかった。
「どちらにせよ……告白は、するべきだ」
そして、乗りと勢いで告白の文を書き始める。なるべく、丁寧に、それでいて短く、遠回しに用件が分かるような、そんな文。
『明日、朝7時30分に教室に来て欲しい。大事な話がある』
送信ボタンを押して、ふぅっと息を吐く。……………………やっちまった。乗りと勢いで送ってしまった。送った後に急速に冷静になっていき、思わずベッドにぼすんとスマホを投げつける。
「なんだよ、大事な話って……もう言ってるようなもんだろ、これ」
羞恥と自己嫌悪に悶えながら、返事を待つ。いや、いつも遅いし、今日に限って——、
ピロンッ
今度は、トークアプリの通知音。俺は思わず、飛びつくように先程投げたスマホに駆け寄り、トーク画面を開く。
『いいよー♪じゃあ明日は、別々で登校だねー』
それと一緒に、かわいいキャラが楽しみ!と言っているスタンプが送られてくる。
「よかったぁぁぁ」
安堵が出た。引かれてない……多分。大丈夫。そうだ、告白の言葉考えないと、どうしようか……いや、まずは風呂に入ろう。それからだ。
そう考えながら、着替えを持って風呂場へスキップで行くのだった。
「うぅ……」
窓に当たる雨の音で、目が覚める。そう、今日こそ告白の日だ。ベッド脇の置時計を見る。5時30分……予定よりも30分早い。
「いや、遠足日の小学生かよ」
そう、セルフツッコミをしつつ、ベッドから出てキッチンに降りる。コーヒーを作って眠気を覚まし、髪を整え、歯を磨き、髪を整えてから、着替える。鏡を見て、自分の姿を確認する。いつもなら絶対にしない事だ。
「よし、行くか」
時刻は6時45分。どんなに遅くついても、7時には着ける時間だ。雨の降る通学路を、傘を差しながら歩いていく。この時間は人通りが少ないなぁ……とか考えている内に学校についてしまう。
「なんか、今日、時間が早く感じる」
実際、学校についたのは55分。かなり速足で歩いていたようだ。
職員室で教室の鍵を受け取り、鍵を開けて入る。誰もいない……教室。いつもは香織とゆっくり来るので、何気に初めてかもしれなかった。いつも気にならない所が、気になる。そんな、浮足立つ感情を押し殺して、待つ。
——だが結局、約束の時間になっても彼女が来ることはなかった
「……あぁ、くそっ。何勘違いしてんだよ」
そう、誰もいない教室で自分に悪態をつく。心の奥から溢れてくる自己嫌悪で、目の前の机をなぎ倒したい衝動に駆られる。だが、その思いすらすぐに消えてなくなる。
「勝手に期待して、勝手に喜んで……バカみたいだ」
窓際の壁に背を預け、ずるずると座って蹲る。失恋したのだ、俺は。いらないと、そう言われたのだ。
「くそぅ。ちくしょう」
そして、誰もいない教室に押し殺した嗚咽だけが響いた。数分後、目元をぬぐって、立ち上がる
謝ろう。せめて、不快な思いをさせてしまった事を。そして、諦めよう。そう決意した。決意しようと思った。
——彼女が事故にあって死んだと聞いたのはその30分後だった。




