第2話 まぁ、そうなるよね
——気まずい
カフェを出てから約30分、俺と時野さんは徒歩で移動していた。彼女が俺の前を歩いて、それに自分が付いていく形だ。
店を出てから彼女は、一言も喋っていなかった。顔も伏せていて、表情もうまく読み取れない。足取りもフラフラしている。そんなにショックだったのだろうか?まぁ、確かに言おうとしていたこと自体が黒歴史確定の恥ずかしいセリフだったし、挙句の果てにはセリフを言っている途中で店員に遮られたとなると羞恥であんな風になってしまうのも仕方がないように思える。それにしたって、オーバーだとは思うが。
というか、どこに向かっているのだろうか。この先は、ほぼ住宅街なので行き先はないはずなのだが、あるとするのならば——、
「俺の家?」
いやいや、まさかそんなはずはない、と考えようとしたところで、気づいてしまう。こいつ、なんで俺の名前知ってたんだろう。
記憶を探ってみるが、彼女の名前はカフェに行くまでの途中で聞いたのだが、自分の名前を名乗った記憶はなかった。でも、最初に彼女は俺の名前を言っていたような気がする。嫌な予感に背筋がゾワッとする。
数分後、案の定というか悪い予感が当たったというか、彼女は俺の家の前で止まった。何度も見てきた、どこにでもありそうな普通の一軒家。俺の家だ。
「——さい」
「へ?」
彼女が何か言っているが、声が小さすぎて聞こえない。思わず聞き返すと、
「鍵、開けてください」
血走った眼で、そう言ってきた。目もクワッと開いていて、まさに必死という感じだった。有無を言わさぬその気迫に思わず反射でポケットから鍵を出して開けてしまう。
彼女は、鍵が開くや否や家に駆けこんで、そして——、
——トイレに駆け込んだ。
そこでようやく、気づく。なぜ、無言だったのか。フラフラと歩いていたのか。
要するに彼女はお腹を下していたのだ。そりゃそうだ、パフェを4つも食べたらお腹くらい壊すだろう。
「はあぁぁぁぁぁぁっ」
その事実に気づいて思わず、クソデカため息が出てしまう。
一瞬でも彼女に同情した自分を、過去に戻ってぶんなぐってやりたい気分だった。
◇◆◇◆◇
それから数分後、満面の笑みでトイレから出てきて、リビングにいる俺にそう言う。
「トイレを貸して下さり、ありがとうございました」
いや別に貸した覚えはないのだが、と内心でツッコミつつ、たった今出来上がったコーヒーを出す。最初はお茶を出そうとしたのだが、お腹を壊しているのなら温かい飲み物の方が良いと思いコーヒーにした。ちなみに自分の分は、冷えたお茶である。
彼女は、リビングの椅子に座ってコーヒーを受け取り、飲もうとするが、途中で止まってフーフーしている。猫舌らしい。
俺は彼女の体面に座り、問いかける。
「それで……そろそろ本題に入ってもいいですかね」
「ええ、いいですよ」
コーヒーを一口飲んでから彼女はそう言った。
あっさり承諾されたことに驚きつつ、彼女の話の続きを聞く。
「カフェでも言いましたが、過去を変えることは簡単です。多少の制約と、敵も来ますが」
「敵?」
「時間警察です。SFのアニメや小説でよく出てくるものですね」
時間警察。確かに、アニメや小説にも出てくるので想像はしやすい。時間警察が俺のイメージ道理なら時間を管理し、悪さをしようとする者を捕まえる組織だ。彼女は簡単だと言っているが、本当にそうなのだろうか。
「そんなに心配しなくても、基本的には弱いので安心してください」
妙に含みのある言い方に、やはり危機感を覚えてしまう。それを察知したのか、彼女は説明を続けてくれた。
「彼らにとっては、私が最初の事件なんですよ。毎回、会う度に未来を変えることに成功しているので、会う度にメンバーも、システムも、装備も違います。例外もいますが」
「彼らからすれば、最初にエンカウントしたのがラスボスだったようなものです」
つまり、未来を毎回変えているので、時間警察と言っても同じ時間警察ではないということだろうか。スケールがでかすぎて上手く想像できない。まぁ、彼女の言っている感じだと、対応には慣れているのだろう。
「えぇっと、つまり、今日は何をすればいいんだ?」
「最初にも言った通り、悔いのないように好きにしてください」
好きにしてくださいと言われても……思いつかない。明日世界が滅ぶと言われても、実感がわかないのと同じだ。考えるが、何も思いつかない
彼女を見るが、相変わらず、コーヒーを一口ずつちょっとずつ飲んでいるだけだ。そして、飲み終わったタイミングで、彼女は改まったように言った。
「もし、したいことがないのであれば、少し付き合ってもえませんか?行きたい所があるんです」




