第1話 パフェはシリアスをぶち壊す
——2週間前、幼馴染が事故で死んだ
雨が降る日の事だ。俺の幼馴染――水無瀬香織が交通事故に遭った。後から聞いた話では、誰も悪くない事故だったらしい。早朝、道路に飛び出した子供を避けようとしてトラックがハンドルを切り、そしてその先にたまたまあいつ――香織がいた。ただそれだけ。一見すれば、誰も悪くない、普通の、何処にでもある不幸な事故。だが、今回に関しては違った。
――俺のせいだった。
確かに、事故事態は誰のせいでもない。だが、その時間帯――早朝に歩いている理由があったとすれば?
その日、俺は告白しようと早朝に香織を教室に呼んだ。そのせいで、あいつは事故に遭った。俺が、告白しようと思わなければあいつは今も生きていた。皆が君は悪くないと言ってくる。でも、俺は俺を許せない。もし、あの日の選択を、過去を変えられるというのならば俺は――、
あの日の告白をなかったことにしたい
◆◇◆◇◆
「やはり、このパフェは美味ですね」
そう言って大層おいしそうにパフェを頬張っているのは、学校の屋上で俺に声をかけてきた少女だ。そして、現在俺たちは学校近くにあるカフェに来ている。このカフェは早朝から開いていることで有名で、学生もよく勉強しに来ている。現に今も、夏休みだというのに店内にはちらほら学生らしき人たちが勉強に励んでいた。
何故こんなことになっているのかと言うと、真夏の屋上で喋るのもあれなので、近くのお店に行こうという話になったのだ。が、店に入ってからというもの、彼女はパフェに夢中で席に向かい合うようにして座っている彼女が食べているパフェは、三杯目。そのどれもが同じメニューで、しかもこのカフェで一番高いイチゴジャンボパフェ。そして、それもあと数口で完食しそうだ。
「あの——、」
「もう一品、同じものをお願いします」
彼女は俺の言葉を遮るように、近くを通った店員に四杯目を頼んだ。店員さんの顔が引きつっていて、そして何故か俺まで店員から奇異の目で見られているような気がする。悲しい。
三杯目を食べ終えたところで、彼女は落ち着いたのか、パフェ用の長いスプーンを置き、こちらに目を向けてくる。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
「は、はい……」
シリアス顔で彼女はそう言う……が、口の端にクリームがついている。それに気づいた様子もなく、彼女は話を続ける。
「いや、その前に自己紹介ですね。初めまして、時野美月と言います。気軽に美月ちゃんと呼んでください」
「…………」
いや、これ……ぼけてる、のか?真顔……いや若干ドヤ顔ででそんなことを言うので、どう反応すればいいのか分からなず狼狽してしまう。だが、彼女は何もなかったかのように話を続けた。
「まずは、過去を変える対価についてですね。一つ目の対価は、私を今晩あなたの家に泊めること、です」
指を一本立てながら、彼女――時野さんはそう言う。一つ目の対価。これに関しては、払える対価だ。だが、理由が分からない。そんな俺の気持ちを察したのか、彼女は言葉を続ける。
「私は、こんななりですが、時を放浪する旅人なんです。なので、泊まるところが必要なんですよ」
「えっとつまり、対価というより取引に近い、という事ですか?」
「はい。一つ目に関しては、その認識で大丈夫です。泊まらせていただく代わりに私が、あなたの過去を変えるお手伝いをします」
一宿一飯の恩というやつです、と時野さんは付け加えた。そしてその後に、少し目を伏せながら続ける。
「問題は、二つ目です」
二つ目。確か代償は——
「二つ目の代償は、あなたの命」
「えぇっと、それは……俺が、死ぬという事ですか?」
「いえ、正確には消えるという方が正しいです」
彼女は真剣な顔でそう言う……のだが、口元についているクリームのせいで絶妙に話が入ってこない。いや、真剣な話と言う事は俺もわかっているのだが。
「消える……ですか」
「はい。あなたが過去を変えた場合……正確には変えることに成功した瞬間にあなたは消えます。今のあなたを構成する過去が変わってしまうわけですからね」
口で説明されると分かりにくいが、要するに今の俺を幼馴染――香織を失った俺だとすると、俺が過去を変えて香織を救った場合、香織を失ったという事実がなかったことになり、今の俺は消えてしまう。そして、生きていくのは何も知らない幼馴染をを失わなかった俺ということか。
「なるほど、それで死ぬ……ですか」
「はい」
要するに、結果的には死ぬという事だ。いや、正確には消滅という方が正しいか。説明し終えたのか、テーブルの上に置いてあった水のコップを一杯飲んだ。そして、コトッとコップを机に置くと改めたように話をつづけた。
「過去を変えても、変えた後の世界をあなた生きることはできません」
変えた後の世界を生きていけない。その言葉が想像以上に、俺の心に重くのしかかる。
わざわざこれを言うと言う事は、多分、選択肢をくれたと言う事だろう。後悔しながらこれからを生きるか。それとも、満足と悔しさを抱いて死ぬのか。
――そんなこと、とっくに決まっている
それから時野さんは、ふぅっと息をつき、改まったように真剣な顔つきになる。彼女が今から聞くことはなんとなく分かるし、多分俺がどのような答えを出すのかも、彼女は分かっているのだろう。
これは、覚悟の問題だ。
「その上で聞きます」
「それでもあなたは過k「お待たせいたしました。イチゴジャンボパフェでございます」」
そう言って店員は、パフェを置いてさっさと戻っていった。
俺たちの間に、沈黙が降りた。
言いかけでも分かる。時野さんは多分、過去を変えたいですかって聞こうとしたのだ。それもかなりの決め顔で。そして、俺も同様にかっこいい事を言うつもりだったので、こっちもなんだか恥ずかしい。彼女の方を見るが、案の定彼女は顔を真っ赤に染め上げ、俯いている。
「…………」
「…………」
なんて言っていいかわからず、言葉が出るだけ出ようとして、空振る。俺たちの間に、微妙な雰囲気が漂い、居たたまれなくなる。
「あの……」
「…………」
無言のまま、もそもそとパフェを食べ始めたが口を開く気配はない。そして、俺はそれを無言で見守っている。他から見れば何ともシュールな光景だった。
「…………」
「…………」
結局、彼女は店を出るまで口を開くことはなかった。




