第21話 今朝ぶりと20年ぶりの再会
「大丈夫?あるじのきょーはんしゃ!」
その声でわたしは、ハッと我に返る。目の前にいるのは、狐の耳を生やした男の子、ききょうくんだ。そしてその反対側、わたしの左隣に座っているのは同じく狐の耳を生やした女の子、さくらちゃん。わたしを含めたそれぞれの手には、ゲームのコントローラーが握られている。
美月さんの「共犯者」となったわたしは、研究所の一室に案内された。西野先生曰く、研究所の一角は、ほぼ西野家の泊まるスペースとなっており、西野先生はそこを使ってもいいと言ってくれた。
「美月さんたち、何の話してるんだろう」
美月さんは、わたしにききょうくんとさくらちゃんを預けて、西野先生とどこかに行ってしまった。美月さん曰く、大人の話をするらしい……っと、今は、ゲームに集中しないと。
そして、ゲームに意識を向けようとした時、急に後ろから話しかけられた。
「ここにいたんだ。あ、そのゲームワタシが作ったやつ。どう?楽しい?」
◆◇◆◇◆
カランカラン、というベルの音ともに俺達は店に入る。
「いらっしゃいませ」
店内に入った俺達を迎えたのは、マスターの声と、お酒の匂いだった。その匂いは、とても美味しそうな匂いで、食欲がそそられる。俺に続いて入ってきた連れも同じことを思ったのか、スンスンと匂いを嗅ぎながら言う。
「バーには初めて入りましたが、良い匂いなんですね」
黒いセーラー服を着ている姿は、バーという場所においては、凄く違和感があって、不釣り合いなものだった。
店内は、誰もいなかった。まぁ、そちらの方が都合がいいのだが。俺達は、奥のカウンター席に座った。
「おススメを頼む」
「じゃあ私もおススメでお願いします。あ、こんななりでも成人は超えてるのでお酒で」
「かしこまりました」
そう言って、マスターは注文に取り掛かる。その間に俺は、改めて時野さんに向き合った。
「改めまして時野さん、久しぶり……お久しぶりです。そしてあの時はありがとうございました」
「こちらこそお久しぶり、と言いたい所ですが私からすればあなたと別れたの今日なんですよね」
一瞬、自分が昔、時野さんに対してどんな風に話していたのかが分からなくなる。なんせ、20年も前の事なので当然と言えば当然なのだが。
そして、時野さんはどうやら、20年前のあの日が今日の事らしい。俺の記憶違いじゃなければ、傷だらけだったはずなのだが、それも時野さんの力なのだろうか。
「それでは、ちゃっちゃと本題に入りましょうか」
「分かりました。多分時野さんが知りたいのは、俺がなぜ記憶を保持しているかですよね」
「はい。あなたの前のあなたと過去を改変した際は、記憶を持ち越していませんでした。なのに、何故最後だけ急に記憶が?」
俺は、23回……今の俺を含めなければ22回過去を時野さんと変えている。それなのに、最後だけ記憶を持ち越している。つまり、時間警察の葵さんと同じ時間の放浪者になっているのが不思議なのだろう。
「それはおそらく、未来の俺のせいですね」
「未来の……あなた?」
「そういえば、時野さんとは別行動してたんでしたっけ。順に話します」
それから俺は、時野さんと分かれてからの事を順に話した。俺が覚えている範囲での話だが、あの日の事はかなり印象に残っているので20年前の事でも、かなり覚えている。
「なるほど、未来のあなたに電話越しに時間の放浪者にされた可能性が高いと…………その可能性は、かなりありますね」
そう言って時野さんは、お酒(おそらく、マスターが気を利かせてお酒っぽいジュースにしたであろう飲み物)のグラスに口を付ける。
「と、言いますと?」
「うん、おいしい。死にかけのあなたには言いませんでしたが、あなた狙われてたんですよ。正確には未来のあなたが、ですが」
それを聞いて、驚く。自分が狙われていたこともそうだが、時野さんが別行動していたのが自分を守るためだったとは。
ジュースが口に合ったのか凄くおいしそうな顔をしながら、彼女は言葉を続ける。そして、それにつられて、俺もお酒を口に運ぶ。かなり、濃いお酒だが、おいしい。
「セバスが狙っていた理由がようやく分かりました。まさか、半放浪者を人工的に作れる人間がいたなんて」
半放浪者。話の流れから察するに時野さんのように時間を旅できる人たちではなく、俺や葵さんのような過去改変で記憶を持ち越すことのできる人間のことだろう。そして、彼女の口ぶりからするに半放浪者を作るのは難しいのだろう。
「通常、わたし達のような存在が他人を半放浪者にするには、力の大半を使います。だからこそ、信頼のおけるパートナーにしかしません。というか、できません」
「なる……ほど?」
これまた、分からない知識が増えた。「力」というのは、時間を移動したり、止めたりするためのエネルギー的なものなのだろうか。聞いてもいいのか分からず、結局俺は口を開かない。
お酒に手を付けようとして、自分のグラスにお酒がない事に気づく。考え事をするとき、無意識に飲み物を口に運んでしまうのは大人になってからできた悪い癖だ。まぁ、いつもはコーヒーだが。
「話は変わりますが……彼女についてはどうでしたか?」
時野さんが連れてきたあの子が寝ている際、研究所の施設を使って、調べてほしいと時野さんに頼まれていたのだ。
時野さんが急に来たことには驚いたが、それよりもあの子の体調がすごく悪そうだったので、県境所に入ってから、俺はすぐに検査をした。
「あの子の病気について原子観測技術を使って調べてみましたが、原因は分かりませんでした」
収納ちゃんに使われている原子操作技術。その根底となる原子を観測する機構は原子単位で生物や物を観測するため、ほぼすべての病気や物質の構成を解明できる……はずなのだがあの子の体にはどこにも異常はなかった。
「となると、やはり非科学側の理由ですか」
真剣な目つきで、時野さんはそう言う。その横顔を見て、俺は背筋にぶるぶるっと怖気が走る。この人は時々怖い。多分わざとじゃないんだろうけど、時々悪役……というより、普段明るいけど闇が深いキャラとか、実は裏切り者のキャラとかそんな感じの雰囲気を漂わせる。
実際、初めて会った頃は俺もこの人が最後には、俺を裏切るのではないかと考えていたし。でも、最終的には俺のために、あんなケガをするまで戦ってくれたのだ。勘違いされやすいだけで多分いい人なのだと思う。
そんなことを思ってか、お酒がまわったからか、俺の口はいらないことを言ってしまった。ずっと抱えてきた悩みであり、罪悪感。
「俺が過去を変えたのは、正しかったんでしょうか」




