第19話 ごめんなさい
「まったく、ひどい目に遭いました」
そう言って美月は、『収納ちゃん』に妖刀を納刀する。美月達が現在いるのは、病院の一本道。押し寄せる幽霊達を倒し、一息ついた所だった。
「ホラーものかと思いきや、パンデミックものだったとは。正直ビビりました」
病院の雰囲気は人こそいないものの、いつの間にか普通の状態に戻っており、先程よりも幾分かマシなものになっている。
窓の外を見ると、既に星が見え始めていた。だが、遠くの方ではほのかに夕日色が残っているので日が落ちる瞬間――いはゆる黄昏時であった。
「もみじ、ききょう、助かりました。ありがとう」
美月はしゃがんで、彼らの頭を撫でながらそう言う。美月が撫でているのは小さな男の子と、その子にそっくりな女の子。普通の子供と違うのは、狐の尻尾と耳が生えていて、巫女服のようなものを着ている事だろう。
頭を撫でられている二人の反応は正反対で、嬉しそうに、そして恥ずかしそうにしている女の子がもみじ、全身からうれしいオーラを醸し出している元気な男の子がききょうと呼ばれていた。彼らは、美月の式神だ。
「どういたしまして!あるじ!」
「…………」
ききょうはニパーッと満面の笑みで返事をし、もみじは恥ずかしそうに頷く。
「さて、共犯者も見つかりませんでしたし、とりあえず今日の宿を――」
そう言いかけて美月は、自分たちがいる少し先に、倒れている人影を見つけた。
「あの子は……ききょう、もみじ、ごめんなさい。もう一仕事手伝ってくれる?」
◆◇◆◇◆
――夢を見た。
いつもの夢ではない。普通の夢だ。でも、いつもの夢の方がよっぽど良かったかもしれない。
「なんでっ!何も言ってくれなかったのっ!」
そう言って泣くのは、わたしの親友――穂積茜里。そして、泣いているあかりの背中を、花音がさすっている。
――わたしの棺桶の前で
その光景を見てわたしは、やっぱりわたしは彼女たちを、わたしの大切な人たちを苦しませるんだ、と思う。
自分の内側を、自己嫌悪と自責の念が蝕んでいく。自分が彼女たちと出会ってしまったから。仲良くなってしまったから、こうなる。
家族の方を見ると、やはり泣いていた。おかあさんも、おとうさんも、そしておばあちゃんさえ。その光景を見てわたしは、
「ごめんなさい」
そう呟くことしか、できなかった。
唐突に、目が覚めた。
目の前に広がるのは、見慣れぬ天井。背中にはおそらくベッドであろう感触がある。でも、いつもの感触ではないし、なによりこの天井を知らないので、おそらくわたしの部屋ではないだろうなと考える。
「目が覚めたか」
わたしが上体をベッドから起こしたところで、唐突に声を掛けられた。そちらの方を向くと、白衣を着たおとうさんくらいの歳の男性がいて、回転式のイスに座りながらこちらを向いて、話しかけてきた。
「えっととりあえず……ぬるくなってるけど、お茶いるか?」
そう言って、机の上あるお茶を汲む男の人の顔は、どこかで見たような……見てないようなそんな顔立ちだった。でも、さすがに初対面の人からのお茶をもらうほど無警戒ではない。
さりげなく、周りを見てみるとベッドや机、ソファなど、誰かの部屋というよりは、保健室に近い感じがあった。机の上の茶やコップも来客を想定されたようなデザインだ。
「えっと、あなたは……」
「あぁ、悪い。警戒するのも当然だよな。まずは初めまして。西野海斗だ」
西野海斗。その名前を聞いて、思い出す。今朝テレビをでやっていた『収納ちゃん』の発明者。顔写真もその時に映っていたので多分、本人で間違いないと思う。何でこんな人が?という疑問と、有名人だからか、知っている人だったからか、少しだけわたしの中の警戒心が下がっていく感じがした。
「時野さんが君を連れて来たんだよ」
時野さん……多分バスで会った美月さんの事だろう。「さん」付けには多少違和感があるけど、美月さんは『収納ちゃん』を付けていたのであの美月さんで間違いないと思う。
彼は、わたしにお茶を渡しながらそう言った。そのお茶を飲むと私も飲んだことのあるスーパーに売っているような市販のお茶の味がした。
「君もあの人の共犯者なんだろ?」
「共犯者?」
その不穏なワードに、わたしは思わず、聞き返してしまう。そして同時に、下がったはずの警戒心が上がっていくのを感じた。
彼は、わたしの反応に戸惑いを浮かべながら言葉を続ける。
「?あれ、違ったのか?わざわざ、俺の研究所に来るなんて家に帰れない事情があるからだと思ったんだが」
「あー、えっと、はい。そうです。共犯者です」
思わず嘘をついて、話を合わせてしまう。わたしの言葉に、あぁ、やっぱりかと納得したような感じで、彼は言葉をつづけた。
「まぁ、その、なんだ。過去を変えるのは大変だろうけど、頑張ってくれ。それじゃあ俺は、あの人を呼んでくるよ」
そう言って彼は、美月さんを呼ぶために部屋を出て行ってしまった。
「過去を……変える」
独り言をつぶやく。過去を変える。ぱっとイメージするのは、SF映画に出てくるタイムマシンだ。彼はいまや世界でも有名な発明家だし、納得もできるのだが、「共犯者」と「過去を変える」という言葉がうまく繋がらない。それに……彼の言い方だと、彼がタイムマシンを使ったというよりは美月さんに――
「おや、起きたんですね。調子はどうですか、共犯者さん?」
そちらに目を向けると、いつの間にか開いたドア枠に背を持たれ、愉快そうに笑っている美月さんがいた。




