第一章エピローグ パフェは――
「行ってきます」
その言葉を放ち、玄関のドアを開ける。空を見るときれいな青空と夏特有の入道雲が俺を迎えた。その空からは思わず夏だなと思わせられるような気迫があった。
俺は、ジンジンと照り付ける日差しを浴びながら歩きだす。
7月の中旬。夏休みに入って数日という高校生ならばハイテンションになってしまう頃。しかし俺は、別の意味でハイテンションだった。その理由は、幼馴染に呼ばれたからだ。待ち合わせの場所は学校近くのカフェ。朝早くから開いているので、学生――特に受験生などには人気のお店だ。それ以外に特筆すべき点は……パフェが有名なことくらいだろうか。
話が逸れたが、俺は、その幼馴染が好きなのだ。実際、約二週間前――正確には二週間と一日前に告白しようと思ったのだが、その幼馴染が登校中に事故に遭いかけてしまい、あやふやになってしまった。その事故に遭いかけたのも俺が呼び出してしまったせいなので、何となく気まずい空気を持ったまま夏休みに突入してしまった。そして、昨日幼馴染からトークアプリでカフェに呼ばれたので昨日の夜からウキウキしていたという訳だ。
「って、誰に解説してるんだ俺は」
そんなこんなで数十分かけてカフェまでたどり着いた。カフェの入り口で、ハンカチを使って額の汗を拭き、一度深呼吸をしてからドアを開ける。
「いらっしゃいませー」
チリンチリン、という音共に元気のよい従業員さんの掛け声が聞こえてくる。店内は明るい印象で、学生と思わしき人もちらほら。エアコンがしっかり効いていて涼しかった。壁に掛かっている時計を見ると、現在の時刻は7時10分。約束の10分前だった。すでに幼馴染――香織がいるのかどうかを探すと……
「あっ、海くんこっち、こっちー」
店の窓際のテーブル席に、彼女はいた。ブンブンと、元気に俺に手を振ってきている。
「悪い、待ったか?」
「ううん、全然。今来たとこだよー」
そう言いながらも、近づいてテーブルを見てみると既に空のパフェが2つあった。もしかしてかなり待たせてしまったのだろうか。彼女の向かい側に座る。
「えぇっと――」
「パフェもう一つお願いします……って、ごめんね。かぶっちゃった」
早速本題に入ろうとして、近くを通りかかった店員に注文した香織と被ってしまった。
――俺は少しだけ、既視感を感じた。
こんなことが前にもあったような……なかったような……もしかしたら、急ぐなという天のお告げなのかもしれない。確かに急に本題に入るのもダメか。
「えぇっと……事故、大丈夫か?その、精神的に」
「え?あぁ、うん。大丈夫だよー」
「……」
「……」
彼女は笑いながらそう言う。だが、その笑みは心配させないように無理をしているように感じた。そして、流れる沈黙。決まづくなった俺は、時計を見る。7時17分。店内に入ってからもうそんなに立ったのかという驚きと、何故か時間が気になってしまうという困惑を胸に抱きながら、香織の方に顔を戻す。
「えぇっとね……今日呼んだのは、あの日、なんで呼んだのかなってどうしても気になって」
「あぁ、そのことか……」
想定外だった。正直、最近気まずくなっちゃってごめんねーと言われるのかと思っていた。彼女はそういう性格なので、喧嘩した時なんかは、俺がうじうじしてきた時なんかは彼女の方から謝ってくる。まぁ、大喧嘩した時なんかは俺が勇気を出して俺から謝るのだが……と考えている間にも時間は進む。
ちらりと横目で見ると、時計の分針は二つも進んでいた。
「俺はあの日……「待って!」」
「ごめん。でも、私も言いたかったことがあるの」
言葉を止められて驚く俺と、何かを決意したように言う彼女。もしかして、実は嫌いだったとかそういうオチだろうか。俺は、不安が大きくなっていくのを感じながら彼女の話を聞く。
――時計の分針が、また一つ進んだ
分針が進む音。を聞いて、何となく嫌な予感がした。また、あの既視感。これから、しょうもない事が起きるようなそんな予感。不安と既視感と緊張感。そのトリプルコンボで頭痛と吐き気がこみあげてくる。俺はそれを必死に飲み込みながら次の言葉を待った。
「えっとね……私……うぅ恥ずかしくて言えないよう」
そう言いながら水を彼女は飲む。恥ずかしい事なのか。と思いつつ、少しだけ不安が薄れる。良かった。危惧していたことは言われないらしい。だとすると……告白とかだろうか。
お互い、何も言えなくなり、沈黙が再び、落ちた。
――時計の分針が、更に一つ進んだ
「なら、同時に言うのはどうだ?俺も、言いたいことがあるし」
「う、うん。そうだね。そうしよう」
俺たち二人は、互いに緊張しているのか水を飲み、たっぷり数十秒、深呼吸をする。
「よし、せーので言おう」
お互い、見つめあって頷く。先程よりも大きくなっている嫌な予感に身震いしつつ、言葉を紡ぐ。
「「せーのっ!」」
「お待たせいたしました。イチゴジャンボパフェでございます」
――そうしてまた、時計の分針が一つ進んだ
「ぁ……」
思わず漏れた俺の声。そして蘇ったあったはずの二週間の記憶。俺はそれを思い出して、目の前で言葉を遮られ、恥ずかしそうにパフェを受け取った彼女に方を向いた。
店員はそそくさと持ち場に戻っていく。この後の展開、更に気まずくなるんだろうなぁと思ってしまうだがそれはもう経験済みだ。正直、あの空気にはしたくない。あの日の経験をさせてくれたここにはいない彼女に感謝しつつ、一つ深呼吸をする。つい数秒前の俺が言おうとしたこととは少し違うが、まぁいいだろう。そして俺は――
「おまえの事が好きだ」
と、そういった。




