第14話 最期の時間
「俺と過去を変えたのは、何回目ですか?」
俺のその言葉を聞いた時野さんは目を見開く。この質問は正直、聞いていいものなのか分からなかった。だが、どのみち俺は数分後にいなくなるので最後に聞いてみたかったのだ。
「あはは……バレてましたか」
彼女は、頬をポリポリとかきながら恥ずかしそうにそう言う。困っているような感じはしないので、きっと聞いてもよいものだったのだろう。
よかったと安堵しながら、俺の質問に対する答えを待つ。
「23回目です」
「23回目!?ゴホッゴホッ――」
「大丈夫ですか?」
予想より数倍大きい数字に思わず大声を出して、咽てしまう。まさか既に22回も過去を変えていたとは……正直驚きだ。俺は興奮した体を冷やすように大きく息を吸って落ち着く。
俺が落ち着いたのを見てから、彼女は言う。
「これでも少ない方なんですよ?とある武将を暗殺する時なんか、優に300回は超えてましたから」
「300回って……」
数字が大きすぎて言葉が出ない。時野さんとの付き合いは一日にも満たないが、普段はふざけていてもこういう真面目な場面ではふざけないと思うので冗談ではないと思う。多分……
「それにしても、どこで気づいたんですか?」
「あぁ、それは一番初めです。推理小説みたいなベタな奴ですけど時野さん、俺の名前知ってたでしょ?それから、メールでも過去を変えられるって話を聞いて告白の前日の謎のメールが未来の俺からの物だと気づいたんです」
そう、時野さんは初めて会った時俺の名前をフルネームで呼んだ。つまり、俺の名前を知っていた。後は、俺の家のトイレの位置を知っていたりと、何故か俺の事に詳しかったので違和感を覚えた。そして、過去についた時に言われたメールでもよいという話。その話を聞いて思い出したのは、告白するか悩んでた時に届いた謎の告白しろというメール。そうして俺は、もしかしてこれが初めてじゃないのかもと思い至ったのだ。
「なるほど……いやぁ、あの時はあなたを止めるので必死でしたからね」
「それはその……すみません」
どうやら俺のせいだったらしい。まぁ、俺が学校の屋上でしようとしていたことを考えれば、それもそうかと思うので素直に謝っておく。すると、彼女はやれやれといった様子で言ってきた
「本当ですよ……告白の約束までいっていざ結果を見るために未来へ飛んだら香織さんは事故に遭ってるし、やっとの思いであなたを探したと思ったら、なんか飛び降りようとしてるし」
「いや、あの……ホントすいません」
やれやれとしている顔が少し――いやかなりウザい。でも、不思議と怒りは浮かんでこなかった。彼女も多分本気で言っているわけではないのだろう。後聞きたい事と言えば――
「そういえば、一番最初の俺ってどんな感じだったんですか?」
「そうですね……最初のあなたは、完璧超人でした」
「完璧超人?俺が?」
「えぇ、何でも出来て、友達からも先生からも慕われているクラスの中心。失敗も、一度しかした事がないと自分で言っていましたね」
そうだったのか。正直、今の自分からは想像できない。だが、それならば何故、どんな風に過去を変えたのだろうか。彼女は何かを思い出すように続けた。
「彼の最初で最後の失敗、それは初恋の女の子に話しかけることが出来なかった事です。と言っても幼稚園の頃の話ですが」
「それって――」
「はい。あなたは最初、香織さんと幼馴染ですらなかったんですよ」
「そう、だったんですか」
次々と言われる驚くべき事実に、絶句してしまう。そもそも俺は香織と幼馴染ですらなかった。俺が幼稚園の時、勇気を出して話しかけたと思っていたのは、実は、最初の俺が何らかの方法で時野さんとともに幼い俺の背中を押してくれたからだったのか。この感じからして、水族館に誘った時も何らかの未来からの助けがあったのだろう。
話し終えると、途端に眠くなってきた。その眠気が疲れから来たものではないことが本能でわかる。わかってしまう
「そろそろ限界のようですね?」
「わかります?」
「えぇ、だってあなたの体、消えていってますし」
「マジですか」
「マジです」
そう言われるとさらに眠気が増してしまう。本当に限界のようだ。何か、最後にしたいことや言いたい事はないかと探すが、何も思い浮かばない。強いて言うなら――
「時野さん、ありがとうございました」
「あなたがいなければ多分、俺は後悔し続ける人生を送っていました」
俺はきっと、時野さんに遭わなければ順当に未来の俺と同じ人生を送っていたのだろう。過去を変えるためにタイムマシンを作って、それがバレてまた、失敗して後悔する。失敗だらけの人生だっただろう。
俺の言葉を聞いた彼女は、少し困ったような笑顔をして、言った。
「それならよかったです」
その一言を最後に目が霞んで、耳が遠くなっていく。体の感覚が消え、何も感じなくなってしまう。
何もない、ただ黒い空間に落ちていく感覚。それが、今更ながらに怖かった。準備はしていたはずなのに。
残った最後の思考で思い浮かべたのは、虹のような少女の顔だった。
◆◇◆◇◆
「行きましたか」
ふぅっと軽くなった太ももをの感触を確かめながら、私は雨が降りかけて止まったままの空に見上げながら言う。
既に傷の痛みはない。自身のうちに眠る力が勝手に傷を治しているからだ。
「また、傷の治りが早くなってる」
先ほどまで折れていた右腕は、すでに動くようになっていた。セーラー服の下に隠された抉られた脇腹も、潰れた目も治っている切り傷はまだ再生途中のようだが。
私は、それらの傷の痛みから逃避するように『収納ちゃん』から一冊のノートとペンを取り出す。そのノートには、共犯者リストと書かれていた。そして、最新のページを開くとそこに書き込んだ。
西野海斗
改変回数 23回
願い 水無瀬香織と付き合いたい
たったの三行。いつもならば、すべてが終わり、願いがかなったことも確認してから書くのだが、今回に関しては、何となく今書きたかった。それが、彼の告白の成功を願っての物なのかはわからない。ただ、何となく書きたかったのだ。
「さて、次は……20年くらい未来に行きますかね。彼が付き合えたのかも知りたいですし」
そういって、私は立ち上がり、力を発動させ――
「あれ、そういえば彼、私の傘どこにやったんですか?」




