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時間犯罪者、時野美月の共犯者リスト  作者: 末井翔
第一章 虹を追う少年
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第10話 決別



 『お前は、お前のやるべきことをやれ』



 その言葉を聞いた瞬間、ストンとその言葉が心にハマったような気がした。やりたいことではなく、やるべき事。その二つは、似ているようで全く別物だ。


 「俺の……やるべきこと」


 『そうだ。余計なことは考えず、お前がすべきことをしろ』


 有無を言わさぬ命令口調。だけど、彼の声には強制させるようなそんな気迫はなかった。ただ、諭すような、何かを気づかせるようなそんな優しさが伝わってくる。

 俺のすべきことは何なのか。やるべきことは何なのかを、彼は言わなかった。でも、何となく分かった。それは、彼と俺が同一人物で、同じ後悔を持つからだろう。俺が、西野海斗(にしのかいと)という人間が、何をすべきか。


 「ありがとう。あなたのおかげで、何をすべきか分かった気がする」


 『そうか。そりゃ良かった』


 俺の気持ちが伝わったのか、彼の声からは満足げな気持ちが伝わってきた。たった数分の電話。交わした言葉もほんのちょっとだけ。でも、やるべき事が分かった。それは多分、あっちにも伝わったと思う。


 『気張れよ、俺』


 「あぁ、頑張ってみるよ。俺」


 伝えるべきことは伝えたとばかりに俺は通話を切り上げようとするが、


 『あ、切る前にちょっと待った』


 「なん——、」

 その瞬間、電話の向こうから金属音のような不快な音が耳に直撃した。


 「————っ、」


 頭がグラグラして、吐き気を催す。立つのも辛くなり、思わず膝をつきそうになるが、辛うじてとどまる。数秒で、それらは引いたが、まだ少しフラフラする。まだやる事があるので、ここで倒れるわけにはいかない。

 スマホを見るが、既に通話は終了していた。スマホの時間は、7時35分を指しているが、時が止まっている間も時計の時間は進んでいたので、実際にはもっと早い時間だろう。


 俺は、スマホをポケットに収めてから前にいる彼女――(あおい)さんの方を向いた。葵さんの隣にいるみらいさんが心配そうな目を向けてくる。俺がスマホをしまったのを見て、葵さんが口を開く。


 「話は終わりましたか?」


 「はい。終わりました」


 葵さんは俺の目をまっすぐ見て、問いかけてくる。彼女の目からも、みらいさんと同様に少しの心配、そして警戒が読み取れる。


 「彼女は何と?」


 「彼女?」


 どうやら葵さんは、電話の向こうの人物が時野さんだと思っているらしい。警戒していた理由は多分それなのだろう。


 「えっと、電話の相手は未来の自分でした」


 その言葉に彼女達は、目を見張った。よほど想定外だったのだろう。彼女達は、俺の事を先生と呼んでいた。それなりに親しい間柄だったのだろう。話をしながら、公園を見る。公園の遊具の配置、出口までの距離、そして時計。指している時刻は7時7分。事故までの時間は15分。時間が動いたとしても、走れば事故現場までギリギリ間に合う。


 「先生は……何と?」


 「やるべき事を、やれと」


 今度は、俺の言葉に驚いた様子はない。もしかしたら彼女達は、俺と香織の事も知っているのかもしれない。俺の後悔、それを知っていたなら未来の俺が、過去の俺に何を話すのかも予想がつくだろう。きっと、これを言ってしまえば、彼女と対決することになる。それでも——


 「では、やはりあなたは——」

 「はい。俺は過去を変えます」


 そして俺は、未来を滅ぼすことを宣言した。




                 ◆◇◆◇◆





 「まぁ、こうなるよな」


 背後に突き付けられている物の気配を感じながら、そう言い放って手を挙げる。目の前のモニターには、通話終了の文字が出ている。


 「何故、我々を裏切った」


 厳格な男の声が、その空間に響く。その声からは、大きな失望が込められているのが分かる。


 「逆に何で裏切らないと思ったんだよ。俺がタイムマシンを作った理由、あんたも知ってるはずだろ?署長さん」


 無言。怒ったという雰囲気ではない。と言うよりも既にブチギレていたのだろう。そして、それを抑えてるのをたった今やめた。そういう感じだ


 「善悪の区別くらい、貴様でも出来ると思っていたが……どうやら私の思い違いだったらしい」


 「善悪ねぇ……」


 俺の返事が気に食わなかったのだろう。後ろで、引き金に手をかけたのが何となくわかる。正直、どうせ死ぬから何してもいいやのマインドなので、彼の言葉など気にせず、言いたいことを言ってやろうと思う。


 「俺から言わせれば、どっちも悪だよ。過去を変える奴も時間警察もな」


 「…………」


 そう、どちらも悪だ。過去を変えるのは当然、悪だろう。未来に住む人たちの痕跡を丸々なくしているのだから。だが、それと同じくらい時間警察も悪なのだ。あくまで俺の主観だが。


 カメラを通して、過去の自分と時野という少女を見ていたが、過去改変についておそらく、思い違いをしている。過去が変われば、未来も変わって、結果的に消滅するという所までは正しい。が、消滅するのはどの地点でなのか。ここをあの二人は勘違いしている。未来は線のように伸び続けている。そして、過去を変えるというのは、ハサミである一地点を切って、伸びる方向を変える行為だ。そして、切られた線は、消えるがその線は途方も長い何千何億年分の長さだ。

 まぁ、要するに過去を変えられていたとしても変えられる未来の住人が、一生を謳歌して、死んでそれから何億年か後に滅ぶのだ。その人の人生が結果的になくなるとしても。そいつは、人生を謳歌できる。正直、自分が死んだ後に数億年後に世界が滅びますと言われても、ふーんそうなんだくらいにしか思わないだろう。


 ——()()()()


 時間警察が余計な事をした場合、その限りではない。そりゃあ、未来の別々の2地点から同じ地点にタイムリープした場合、時空間がぐちゃぐちゃになるだろう。

 結果、世界が滅ぶ瞬間が、数億年後から現在にずれる。仮に過去の俺が、過去を変えた場合、俺達は世界と共に滅んでバッドエンド。俺達は天寿を全う出来ずにお陀仏——どころか消滅だ。


 随分と考え込んでしまったが……これはあれか、走馬灯というやつか。


 「あんたも分かるだろう?時間警察のしている事は世界の寿命を縮める行為。悪だ」


 「違うな。時間犯罪者こそ悪だ。例え世界が滅ぶのが数億年後なのだとしても、人の歩んだ道のりを無かった事こそ悪だ」


 「その結果、本来長生きして寿命で死ぬ奴が数十分後に死ぬことになるとしても?」


 「そうだ」


 強い意志。ただの正義感、というには大きすぎる何かだった。まぁ、別に彼を変えようとかそんなことを思ってはいない。ただ、言ってやりたかった事を言ってやっただけだ。死ぬ前に。あと気がかりなのは、アレが成功しているかだが……まぁ、そこは俺の才能を信じるとしよう。


 「やるべきことも、やりたいこともやった。さっさと殺してくれ」


 「あぁ、そのつもりだ」


 そして、パンッと乾いた銃声が響いた。


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