18 一族の里に迫る嵐
「実は、一族の人間は遠くに離れていても風属性の幻術を使ってやり取りをしているのです〜。まあ、風属性が使えなくては出来ませんし、使えたとしても本人の能力の強さ次第で授受できる範囲が変わるのですが」
「そうなの?」
「ええ。わたくしは幸いにして力が強いので、遠く一族の里にいる者が風に乗せて発した言葉を、王宮にいても、あるいはこの地にいながらにしてでも、捉えることが出来るのですよ〜。で、ここからが問題なのですが。それによれば、里に嵐が迫っているみたいなのです〜。それも、今までお目にかかったことがないほどに強いものが。どれほどの被害が出るものか、里の者たちは戦々恐々としているようで……」
「そう、そんなことが……」
口調こそいつも通りで、ヴィルらしい飄々としたものではあった。
けれど、その憂いを帯びた表情は事態の深刻さをひしひしと伝えてきた。
私は歯噛みした。
王国と一族の友誼などと謳いながら、一族についてあまりに無知なまま生きている。
そんな自分に今更気付いて、どうしようもなく腹がたった。
幻術でやり取りをしていることも知らず、危機に見舞われようとしていたことも知らず。
それでどの口が一族嫡女の矜持などと語れるだろうかと、自分で自分を嗤いたくなる。
……ああ、いや。今考えるべきはそういうことではないな。
頭を振って、必死に思考を切り替える。
私は今、何をすべきか? 何が出来るのか?
どうしたら良い? どうしたら……。
「やはり、まだ天がおさまったわけではなかったか」
ぽつりと漏らされた声にはっと振り向くと、殿下が「すまない、聞くつもりではなかったのだが」と気まずげに呟いた。
ヴィルはひらひらと手を振って「殿下ならば、まあ全くの部外者というわけでもないので構いませんよ〜」と応じていた。
「話に割り込んですまない。良ければ続けてくれ」
「はい。それで、わたくしに何が出来るわけでもないにせよ、ほんの少しでも里の者たちの様子を見に行くことができればな〜と思ってしまいまして。あ、もちろん妃殿下の護衛が優先事項なので、無理を通す気はありませんよ〜」
「ならば、行けば良い」
殿下は顔色一つ変えずにそうあっさりと宣った。
驚いたのはこちらのほうである。
「よろしいのですか〜?」
「ただし、条件がある。私とリラも、ともに行く。確認したいことがあるからな。この地での仕事が早く終わった分の時間を、一族の里へ行く時間に充てよう。あまりに大勢では動きにくいから、護衛の兵などは最小限として……全部で十名くらいならどうだろうか?」
『確認したいこと』というのは、王族と一族が同様の儀式をしていたという事実であろう。
この前はとりあえず儀式をやり遂げたはずだったけれど、嵐が来そうだということはまだ天を御しきれていない証左だ。
まだこの問題は根本的な解決には至っていないのだ。
ならばどうすれば良い? それを解決する手がかりはどこにある?
王族がそれを持たないのだとしたら、もう片割れ、一族の方をあたってみるしかないだろう。
……というか、それ以前に私は一族の嫡女だ。
里に行ってみたい、その気持ちは強かった。
これはいずれにおいても好都合な話だ。
「ヴィル、どうかしら?」
「承知いたしました〜。公主さまのご帰還ですね〜」
ヴィルはそう言うと、感慨深そうに笑った。




