17 治療の成果
それから私は医師団と協力して、三日三晩ほとんど不眠不休で治療にあたった。
はじめ、彼らは私の力に懐疑の眼差しを向けていた。さもありなん。
「いかがわしい呪術のようなものに大切な患者を巻き込むのか」とか「そんな非論理的な力聞いたこともない」とか、様々に囁く声が聞こえてくる。
これは、あれこれ説明するよりも見せてしまった方が早いだろう。
そう判断した私は、何か言われる前にと素早く幻術を行使した。
横たわるたくさんの患者たちの中心に立ち、彼らに広く力が行き渡るようなイメージで両腕を大きく広げて、一言。
「ラカーポ・タルム」
すると、患部が淡く光り、傷が癒やされていく。
苦しそうに魘されていた者も意識混濁になっていた者も見る間に穏やかな表情になって、呼吸も規則正しさを取り戻していった。
その人知を超えた光景を、医師たちは唖然と見つめていた。
「奇跡だ……」と呟いたのは一人や二人ではなかっただろう。
私は彼らに向き直り、真摯に協力を乞うた。
「治癒の力を使って、ある程度は治しました。ここまでくれば命を落とすようなことはないでしょう。しかし、全員を完全回復させるほどの力は私にないのです。どうかここからは私と一緒に治療をしてくださいませんか」
私は、表層を残して深部の傷を治した。
これで急場は凌げた。ここからは、通常の医療を施す番だ。
医師たちは我に返ったかのようにはっとした顔をして、そして冷静に患者の様子を検分しはじめた。
「妃殿下……。もちろんでございます、それが我らの仕事ですから。それにしても……幻術とは恐ろしいものと思い込んでいましたが、希望にもなるのですね。私たちでは、彼らの前に迫る死の運命を覆すことは難しかった。医療者として、これほど悔しいことはありません。妃殿下、ありがとうございます。稀有なる妃殿下の御力を惜しむことなく彼らのために使ってくださって、本当にありがとうございます」
年長の医師が、噛みしめるように呟いた。
流石に優秀な医師たちというべきか、そこからは流れるように動いてくれた。
彼らが表層の傷の手当を行ったり経過観察を行ったりしていってくれて、一緒に治療をなんて言ったものの、私の出る幕はあまりなかったのだった。
まあ、妃殿下などという立場の人間がいたところで、働かせにくいし扱いにも困るだろう。
現場がちゃんと機能しているならば、それが何よりだ。
とはいえ最終的には、同じ困難を乗り越えた者同士、私たちには何か連帯感のようなものが生まれていた。
少なくとも「こちらの患者に術をかけてもらえますか?」「妃殿下、あちらの患者もお願いします!」と普通に頼まれる程度には、私という人間と幻術の力を信頼して心を開いてくれていた。
「妃殿下、いずれの患者ももう大丈夫でしょう」
幻術の力と医療のあわせ技で通常ではありえない速度で患者たちは回復していったから、三日も経てばそんな状況にまで持っていけたのだった。
「両殿下、この度はご尽力いただきありがとうございました。本当に、なんと御礼を申し上げれば良いか……」
そう声を震わせたのは、最初に出迎えやら説明やらをしてくれた官である。
聞けば重傷者の中に彼の弟がいたらしく、平静を装って仕事はしていたものの気が気でなかったそうだ。
だから彼の言葉はこの地の官としてのものであることが第一義ではあるけれど、それとともに患者の親族としての個人的で切実な感情も多分に含まれたものとなった。
「君も困難な状況でよく踏ん張ってくれた。……兵たちがこの様子ならば、馬車など用意せずとも揃って自分の足で王宮まで帰還できそうだな。早期回復できた兵が多かったから、この地の被災状況調査もはかどった。予測していた滞留日数より大幅に早く仕事が終わりそうだ」
もとはと言えば、兵たちは被災状況調査や被災者支援の意図で派遣されたのだ。
私が治療でばたばたしている間に、殿下はそこの仕事も抜かりなく進めていた。
満足そうな殿下の表情を見ていると、不意に背後からほんの僅かに「はあ」と息を漏らす音が聞こえた。
それは噛み殺しきれなかったという印象の本当に小さな音だったけれど、何やら重苦しいものを感じた。
ちらりと後ろを振り返ると、ヴィルが気まずそうな顔をしている。
「どうしたの?」
周りに聞こえないよう小さな声で我が護衛に聞いてみると、彼は僅かに逡巡した後「これはご報告すべき案件ですね〜……」と呟いた。




