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神華  作者: 紫音
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一章 六十四話




 一体何が起きているのか。登世子に軽口を言っていたら急に起きた出来事だ。初めの勾玉の置いてあった部屋まで走ってきた麗華は混乱する頭を整理させながら、苦しそうに顔を青ざめている登世子に視線を向ける。後ろから背中を刺されて大量に出血している。早く手当てをさせなければ、出血死する恐れがある。

 何故いきなりあの男は登世子を刺したのか。一緒にここまで来た仲間じゃないのか。男の行動が理解できない。


 麗華達が部屋に走り込んできたと同時に、小百合が扉に札を張り結界を張っていた。外の森にまだ蓮達が居るのに結界を張るのか疑問に思うが、疲労感の残る中全力疾走してきたため息が上がり、言葉を発する事が出来ない。


「かなりまずいな」

 彰華が登世子の青ざめた顔を見て呟く。

 彰華達も、登世子を相手にしていた時は余裕の様子だった。それなのに男がひとたび豹変すると直ぐに彰華を守りながら逃げて来ていた。それだけあの男の行動を見て危険だと判断したのだ。

「は、はやく、救急車、よばなきゃ」

 息を切らしながら、麗華が言うと彰華は首を振る。

「病院に連れて行く余裕はない。今藤森家には水谷家の者たちが居る。彼らに見せれば何とかなるだろう」

 回復を得意とする水谷家の当主や陽の守護家湖ノ葉を呼ぶ。彼らが来るまで登世子は床に置かれ、止血を麗華がしていた。

「なんで、こんな事になったんだろう? あの人なんなの?」

「俺にも分からん。藤森家の封印を解きたいから藤森の血が流れている登世子を刺したのか? それにしても、不可解だ」

「というか、何で、登世子さん助けないで真っ先に逃げてんのよ! 信じられない!」

「彰華は正しい判断をしたの、です。神華はなによりもまず自分の身を優先させなきゃ、です。神華の身を守るのが守護家なんだから、です」

 瑛子の言葉を聞いて麗華は更に眉間に皺が寄る。

「だったら、なんで登世子さんの置いておこうとしたのよ」

 麗華は真司を見た。そんなに神華の身を大事にするなら、陰の神華と認められた彼女を置き去りにして麗華を連れて逃げようとした事が信じられない。

「……それは、体が真っ先にそう動いたから。それに従った」

「なにそれ」

「麗華。今その話をしている場合じゃない。あの男を放っておくのはかなりまずい。藤森家の敷地内に居るので、結界で弾きだす事も出来ない。母屋に残る登世子が連れてきた者は此方で処理出来る程度の者たちだが、あの男だけけた外れに強い。あの男の目的が本当に藤森家の封印を解くためだとしたら、次に狙われるのは俺達だ」

 もっと彰華達の行動について責めたい気持ちもあるが、確かにいまその話で口論する場合ではない。あんな危険な男をそのままにしておく事は出来ない。男と戦っていた蓮や大輝、麻美の様子が気になる。

 

「封印されてるモノって一体何なの?」

 今起きている事の原因の封印が気になる。藤森家を奇襲したり、登世子を刺したりしてまでして解きたがるモノは一体なんなのか。

「さぁな」

「彰華君は知ってるんでしょ?」

「知っているとも言えるが、知らないとも言える」

「どういう意味?」

「母上から聞いてはいるが、『神華』として感じるモノは別にある。母上の知っている事は、藤森家に伝わる言い伝えだから本当の事なのか定かではない。感じるモノについては今言葉に表す気が起きない。そのうち機会があれば教える。それより、あの男をどうするか考えなければならない」

「その封印がある所為でこんな事態になってるのに、話を逸らす事ないじゃない。ハッキリ言ってよ」

 緊急事態だと言うのに、原因になっている封印の正体を濁され麗華は苛立つ。菊華もそうだが彰華も大事な事を麗華に言わない。守護家も何が封印されているのか知らないと言っていた。自分が唯の血族と言うだけだからなのだろうが、巻き込まれているのだから教えて欲しい。

 彰華は軽く小百合、瑛子、真司に視線を送る。

「今は言う気になれない。俺はこれから母屋に戻り、対策を藤森家に集まっている守護家各当主達と話し合いをしに行く。麗華は水谷家の者が来るまでここにいると良い」

 麗華に構っている時間はないと、彰華が小百合と瑛子を引きつれて部屋を出ようとする。麗華は彰華を捕まえて話をしようと立ち上がろうとしたが、登世子の傷口から手を放せば血が溢れて来てくる。麗華が部屋から出て行く彰華を引き止められないまま、悔しい気持ちで後ろ姿を見送る。

 今が緊急事態であの男の対策を考えなければならないのは分かるが、封印されているモノについて話して行ってくれてもいい気がする。

「なんなの彰華君のばか! 今話す気にならないでいつ話す気になるって言うのよ!」

「多分僕達が居たから言わなかったんだと思うよ」

「守護家には秘密って事? そんな秘密だらけの所に良く従うよね。あれもこれも秘密って不満に思わないの?」

「そう言うモノだと思っているから、不満に感じないね」

「ホント変わってるわ。私なら絶対無理」

「だろうね。でも、自分たちの命握っている所に逆らう馬鹿はいないだろ」

 麗華は真司の言葉に眉を顰める。麗華の隣にしゃがみ登世子の血で染まった手の甲を指で軽くなぞり、指先に付いた血を口に含む。

「なに、してんの……?」

「やっぱり不味い」

 登世子の血の味が口に合わなかった様で渋い顔をしている真司を茫然と見る。

「前に話した事あるじゃん。もう忘れたの? 彰華から血や力を分けて貰わない限り、守護家は飢餓状態が悪化して発狂する。たとえ不満に思う様な事があったとしても、言葉にして言う事はない」

 前に金子家に行く車の中で真司と優斗から藤森家の血が蜜と呼ばれる、特殊な回復薬の役割を果たす事を聞いた事がある。本来は陰の神華が居れば陰の神華から力を分けてもらえるが、陰の神華が現れていない陰の守護家は、飢餓状態にならない様に彰華から血を分けて貰っている。

 だから、彰華の不興を買えば彰華から力を分けてもらう事が出来なくなる。不満に思う事があったとしても、強く出る事が出来ない。それが幼いころからの習慣になっていた。

 藤森家と守護家の関係は、妖や他の者から狙われやすい藤森家を守護家が守る代わりに報酬として『蜜』を与えている。昔から五つある家のどれか一つを贔屓されない様に、守護家は藤森家に気に入られる様に互いに牽制し合い調節してきた。

藤森家の嫌う事をしてはいけない。教えられないのが当たり前。それが掟。深く考えてはいけない。

 掟を破れは、自分だけではなく家にも迷惑がかかり他の家より劣るとされてしまう。


「彰華君から力を分けてもらえなかった事とかあるの?」

「ないよ。彰華はそういう意地の悪い事はしない。でもあいつ頑固だから、言わないと決めた事は言わないよ」


 数人が走って来る足音が聞えて、襖が勢いよく開かれた。真琴の父親で水谷家の当主と、陽の守護家湖ノ葉、それに他の水谷家の者が数人慌てた様子で入って来る。すぐさま湖ノ葉が呪文を唱えて、登世子の傍にいる麗華と場所を交換する。入ってきた人達が同じ呪文を無心に唱え始めて、部屋全体が淡い光に包まれた。その光が登世子に集まって行く。

 突然始まった水谷家の治療を呆気にとられながら見ていると、真司が軽く肩を叩き移動するように促してくる。

 治療の邪魔になってはいけないと思い、立ち上がろうとしたが右足に激痛が走り立ち上がる事が出来ない。元々右足の怪我が完治していない状態で踊りや全力疾走した事が原因だ。

 足を抑えて痛みに耐えている麗華を心配そうに真司が見る。

「立てないの?」

「ごめん……」

「じゃあ、水谷家に一緒に治療してもらえばいいよ」

 登世子の治療を必死の様子でしている水谷家の一人に真司が話しかけようとしていたので、麗華は真司の足を掴み止める。

「いいよ。ちょっと立てないだけだから。登世子さんの治療の方が大事だよ」

「仕方がないね」

 真司は麗華の傍にしゃがむと麗華を軽々と横抱きに持ち上げた。視線が急に上がり驚いた麗華が少し暴れる。

「い、いいよ! 肩貸してくれれば歩けるから。おろしてよ!」

「肩貸してのろのろ歩かれるより、重くてもこっちの方が楽。持ちづらいから暴れないでよ」

「重いってハッキリ言うね」

「人一人が軽い訳ないじゃん。それより、ここは水谷家に任せて僕らも母屋に向かおう。彰華が決める対策会議に出て話を聞くよ」

 横抱きに抱かれるのは少し恥ずかしいが、対策会議も気になる。未だに青白い顔をした登世子を見る。

「登世子さん大丈夫かな」

「これだけ水谷家が治療にあたってるんだから、助かるはずだよ」

 登世子を水谷家に任せて麗華たちも母屋に向かう。真司に横抱きにされながら、登世子の血で染まった手を見つめる。生々しく肉の動く感触が手に残っている。今になって恐くなってきた。

「何で、あんな簡単に人を刺せたんだろう」

「最初から、あの男が刺すって決めてたんじゃないか」

「でも、一緒にここまで来た仲間じゃないの? 登世子さんだってあの男の事信頼しているように見えた。なのにあっさり捨てるって出来るの?」

「最初から藤森家の封印が狙いで、彼女を騙していたのならあり得るだろ」

「騙すってそんな」

「結局の所、どう思って刺したとかは本人に聞いてみないと分からないさ。聞いたとしても答えると思えないけどね」

「……そうだよね」

 そんな簡単に人を騙す事が出来るなんて信じたくない。そう思うと、優斗達が麗華にした事が思い出されて辛くなる。目的のためなら非情になれる見本が近くにいたじゃないか。

 麗華は不安な気持ちを握り潰す様に手を握る。

「安心しなよ。麗華は僕がちゃんと守ってあげる」

 麗華を抱く手に力が籠る。

「なんで?」

 真司は大げさに息を吐く。

「……ほんとさ。ここで何でって聞く方がおかしいと思うよ」

「だって、守護家って神華を守るんでしょ? あ、そうだよ。自然に真司に連れて運んで貰ってるけど、真司は登世子さんの傍に居なきゃだめじゃん!」

「あんなに水谷家が居るんだから、任せて平気だって」

「でも、折角会えた陰の神華なのに傍にいてあげなきゃ! あんな大怪我負ってるんだよ。ごめん、もっと早くに気がつかなきゃいけなかったね」

 麗華は真司の胸を押して下りようとする。だが、真司は抱いたまま放さない。

「僕には麗華の方が大事だよ」

「それが良く分からない。何で急にそう思えるの? 実家に来るって言った時も思ったけどなんで?」

「大事に思われるのが嫌なわけ? 蓮や大輝は良くて僕は嫌なの?」

「そうじゃないけど、あんなに神華に会いたがっていたのに、会えたら会えたで私の方に来るのは変だと思って。真司は蓮さんや大輝君とは違うよ。蓮さんは私を傷つけた負い目があるから、付き合ってもらえる。大輝君も似たようなモノだと思ってるの。でも、真司は違うでしょ? 私に負い目があるわけじゃないし、借りがあるわけでもない。唯の藤森家の血族ってだけの私を無理して守ると言わなくてもいいんだよ」

 

「本気で言ってるの?」

「うん」

 真司は麗華を抱いていた手をその場で放した。そのまま床に尻から落ちた麗華は急に手を放した真司を睨む。

「痛いな! 放してって言ったけど、急に落とす事ないじゃない!」

 真司は床に落ちた麗華を見下す様に見ていた。

「最悪。今までそう思われてた蓮たちが可哀そうだ」

「違うの?」

「僕達にとって陰の神華がどれだけ待ち望んでいた大切な存在か分かってるの? 唯の負い目だけで、待ち望んでいた神華より麗華を選ぶ奴はいないよ」

「じゃあ何で?」

「なんで、なんで聞いてないで、その少ない脳みそでちょっとは考えたら?」

 待ち望んでいた神華より麗華を選ぶ理由とはなんだろう。負い目じゃないなら、どんな理由があるのだろう。蓮の場合は藤森家を出入り禁止になっているので、代わりに藤森家の血族の麗華から血を分けてもらえるからだろうか。それなら理解出来る。

 大輝は登世子と相性が悪い様に見えたから、麗華の方が良かったと言う事だろうか。

「……利害が一致するから?」

「悩んで出した答えがそれかよ」

「外れ? やっぱり分かんないよ。そんなに待ち望んだ陰の神華より私を守るの?」

「どうして分からないのかな。簡単だよ。麗華の事が大切なんだよ。二度と苦しんだり悲しむ姿を見たくないんだ」

 真司が麗華を見つめて言う。

「…………どうしちゃったの? 今、鳥肌立ったよ!!」

 麗華は腕をさすりながら、悲鳴を上げるように声を出す。今までそんな事言われた事がない。確かに今まで真司には試練の洞窟や他にも助けてもらっている。でも、正面から大切だとか言われると、嬉しいと思うより先に予想外すぎて恐い。

「……人が真面目に言ってんのに、その反応はないんじゃない?」

 真司は不貞腐れたような顔をする。

「だって、真司がそんな事言うと思わなくて。大切に思われてるとは思わなかったと言うか……」

「こんなに親切にしてんのに、思わないとかどうかしてるよ」

「急に手を放したりするのが親切なの? お尻痛いんだけど」

「それは、麗華があまりにも分かって無いから自業自得。蓮達もさ、同じ事思ってると思うよ。麗華には笑っていて欲しい。神華とか関係なしにそう思う。だから、麗華を害するものから守りたい」

「そんな風に思ってもらえるような、価値私にあるのかな……」

「なに卑屈なってんのさ。僕らが守りたいって思ってる奴がそんな卑屈な奴だと思いたくない。堂々と守られてなよ」

 真司が軽く微笑む。

「……そうだね。守ってくれるって言うなら、とことん守って貰うよ。後で登世子さんの方に行けば良かったって言っても遅いんだからね」

 麗華が手を差し伸べて、真司がその手を引き立ち上がらせた。



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