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神華  作者: 紫音
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一章 六十三話


 華守市にある結界の揺らぎを感じ取った真司をはじめとする、陽の守護家数名が神華に異変があったと思い麗華達の方に向かい走っていた。真司たちは元々勾玉廻りの舞台に続く部屋で待機していた。

 麗華は見知った顔の中に知らない人物が居る事に気が付く。真夏の蒸し暑い夜だと言うのに長袖を着た男だ。藍紫色と言う特徴のある瞳の色までは暗闇の中では判断できないが、あの女から聞いたその人物だろう。藤森家の奇襲を計画し、恐らく登世子の封印を解くと言う動言に深く関わっているであろう人物。麗華の家に居る父が造った式神と同じ特徴を持つ男。彼が本当に菫なのか確認したい。


「彰華! 大丈夫? 結界が揺らいだけど!」

 走ってきた緩やかに波打つ長い髪の女性、大輝の姉である麻美が彰華の体に異変がないか心配そうに確認する。

「怪我はありませんか?」

「彰華体に異変はない、ですか? 胸が苦しかったりしない、ですか?」

 麻美の他にも、黒縁眼鏡をかけた小百合と短髪の瑛子が彰華の体調を心配して確認を取っていた。それも、普通に聞くのではなく、体に触れたり抱きついたりしながら彰華の様子を確認している。隣に居た麗華は、三人の迫力に押されて数歩下がる。

「大丈夫だ。心配させて悪かったな。お前達が心配するような事態は起きていない。安心しろ」

 そう言いながら彰華は麻美の頬を撫で、小百合の肩に手を置き、最後に瑛子の頭を安心させる様に撫でる。

 いつも思うが、陽の守護家を相手にする時の手付きが艶っぽい。慣れた手つきで麻美達の体に触れて微笑みかけるその姿は、傍から見ると所構わず麻美達といちゃついている様に見える。人前だと言うのに恥ずかしと思わないのだろうか。見ている麗華の方が恥ずかしい。

 ドン引きしながら彰華を白い目で見ていると、隣に真司かやってきた。

「麗華、大丈夫?」

「うん。平気だよ。真司の方は?」

 幽体離脱をして藤森家を訪れて以来、連絡が取れなかった真司が今までどうしていたか気になった。見た所怪我はしていない。優斗の荒木家とは違い、藤森家では乱闘の様な事は起きなかったようだ。

 真司は軽く息を吐いて麗華の胸のあたりを指差す。

「胸の所、血が出てるじゃん。何処が平気なのさ」

 痛みも無く血も止まっていたので切られた事を気にしていなかった。

「ちょっと切れたけど大丈夫」

「全然大丈夫じゃないよ。血が流れるのはヤバいって教えたじゃん。誰にやられたって聞くまでもないか。何で、彼女は大輝とやりやってんの?」

 真司がハンカチを取り出して麗華に切れた部分を抑える様にと渡した。麗華はお礼を言い、すでに切れた部分の血が固まっていたがハンカチで抑える。

未だに大輝と登世子は術をぶつけ合い舞台上で戦っていた。

 状況が理解できないと、眉を顰める真司に麗華は簡単に説明する。

「登世子さんが、陰の勾玉壊して、次に陽の勾玉壊そうとしているみたいだから、大輝君が止めに入ったんだよ」

「はぁ? なんでそんな事になってんだ? 勾玉壊したって、そんな事出来るのかよ」

 麗華は手に持っていた粉々に砕けた勾玉を真司に見せた。まさか本当に勾玉を粉々にする事が出来るとは思わず、触って勾玉の感触を確かめる。本物だと分かると、登世子がなにをしたいのかますます分からなくなる。結界が揺らいだ原因がこれなのだと少し納得もしてしまう。

「私が、勾玉廻りの舞を踊っていたのが気に入らないらしくて」

「なるほどね。他に怪我はない?」

 ここに来るまでに、色々在った所為で体は結構ぼろぼろだ。いくら真琴が治してくれたと言っても、完全に回復はしていない。先ほど舞った所為で疲労感もあったが、口に出して言っても、心配させるだけなので言わない事にした。

「大丈夫だよ。それより、大輝君たちどうにかしないとまずくないかな?」

「あぁ」

 大輝達の方を見ると、登世子の隣に長袖の男が立っていた。大輝が何か叫ぶのを無視して二人で話している。男の顔を見ようと思っていたのに、気が付いたら男は登世子の隣に居た。

「ねぇ。あの男の人って?」

「登世子の側近みたいだな。藤森家に来た時も隣にいたし。嫌な感じだよ」

 登世子と男が話し終えると、勾玉を破壊する計画を止めたようで落ち着いた足取りで麗華達の方に歩いてくる。

 徐々に男の顔がはっきりしてきて、前髪の間から藍紫色の瞳が闇夜に浮かぶ。二十代後半の容姿の男は柔らかそうな髪質で、目元を隠す様に長く不揃いに伸びていた。鬱陶しそうな髪形だ。

「……菫君?」

 顔立ちが似ている。髪形は違うが、藍紫色の瞳と目元が良く似ていた。

「違う。あいつじゃないよ」

「え。そうなの?」

 真司の言葉に少し安心する。

「あいつより見た目から性格まで陰湿」


 二人が麗華と彰華の前にやってきた。その後ろから、何時でも攻撃態勢に入れる大輝が付いて来ている。

「はじめまして。こんばんは。登世子様が失礼をしたようで申し訳ありません」

 男は静かに一礼する。思ったよりもずっと礼儀正しい態度で少し驚いた。華守市を襲うぐらいだからもっと、攻撃的な性格だと思った。

「こんばんは、はじめまして。麗華です。あの。あなた何がしたいんですか?」

 まどろっこしい事を話している時間の余裕がない。だから直球で聞いてみた。


「おや。わたしの望みをいきなり聞かれるとは、せっかちですな。会話を楽しむ心のゆとりをお持ちに為られた方がいいですよ」

「この状況でゆとりある会話が出来ると思える貴方が凄いと思います」

「おい、麗華」

 真司が麗華の着ていた打掛の様な着物を引く。麗華が切られたりし、苛立っているのは分かるが相手は一応陰の神華の側近だ。麗華が攻撃的に出れば、向こうが何をするか分からない。


 真司に注意されて、麗華は彰華や陽の守護家達を軽く見る。考えてみれば、彼らは藤森家や守護家で起きた蜜狩りの主犯の言う事を黙って聞いていたのだ。目的や行動はどうであれ、登世子が陰の神華だという理由だけで。

 ここに来る前に、岩本家に居た時に聞かされてはいたが、藤森家や守護家にすれば、神華の言う言葉は絶対なのだ。

 でも、麗華は違う。いつだって藤森家と縁切りが出来る気持ちだし、神華と言う理由だけで登世子の暴走とも言える行動を黙ってはいられない。同じ神華の彰華はどうせ、傍観する気でいるのだ。他の誰も出来なのなら、自分がやらなければいけない気がした。

 登世子は術が使える。術では圧倒的に不利だが、それを補える蓮や大輝が傍にいる。真司も恐らく助けてくれる。蓮と大輝に目で『悪いけど何かあったらよろしく』と合図を送る。それに応えるように、蓮は眼鏡に軽く触れて、大輝は軽く顎を上げてやってこいと言う感じの視線を返す。

「そうですね。いきなりすぎましたね。今日も蒸し暑いですね」

「天候の話題ですか。夏は暑いものでしょう。もう少し話題に幅を付けた方がいいですね」

「初対面には天候とか当たり障りないものが良いと思ったので。で。暑いのに貴方は季節感無視して長袖ですか? 暑くないんですか?」

「紫外線アレルギーなもので、長袖しか着られないのですよ」

 長く伸びた前髪の間からに男は口元をゆっくりと歪める。やはり、実家に居る式神の菫に似ている。

 この人は本当に『人』なのだろうか。

「へー」

 紫外線アレルギーに詳しくはないが、手は隠さなくても良いのだろうかと思いながら、むき出しの手を見る。

「貴女って誰に対しても失礼なのね」

 登世子が小馬鹿にしたように言う。

「そんな事ないよ。人を見て言葉を選ぶだけ。もう、勾玉壊しに走るのは止めたの?」

「えぇ。彼がもう必要ないって言うから止めたのよ」

「登世子さんはその人の事、信頼しているんですね」

「嫌味な言い方ね」

「そんなつもりじゃなかったんだけど。いつから一緒なの?」

「私は貴方と世間話なんてしたいとも思わないわ」

「それはそうだね。じゃあ、やっぱり単刀直入に言うよ。陰の神華かなんだか知らないけど、人を傷付けておきながら大きな顔してられると思わないでよ」

「本当に貴女は力もないのに、態度が偉そうで腹立たしい! もう少し痛い目に合わせて性格を矯正してあげるわ」

「麗華、火に油注いでどうするのさ」

 登世子が構えたのを見て、真司が麗華の手を引き背に隠す。

「だって、誰も言えないなら私が言っとこうと思って」

 言うと同時に登世子から放たれた術を真司の更に前に居た蓮が防いだ。

「蓮! 陰の神華に対して、無礼な事していいの!?」

 横から見ていた瑛子が焦った様子で叫ぶ。

「何故。蓮さんは藤森家に出入り禁止になった身で、何故ここに居るのでしょう」

 小百合が黒縁眼鏡を整えながら言う。

「私が無理言って付いて来てもらったの。咎められるなら私が受けるよ」

「麗華さん、貴女の立場が悪くなるのじゃなくて?」

 麻美の言葉に麗華は苦笑する。

「藤森家での私の立場って事ですか? っていうか、それ、元々あるんですかね。あってないようなモノ、どうなろうと気にしませんよ。あ、蓮さんもしも後で追い出されたとしても、私の家、部屋余ってますから、良ければ一緒に暮らしましょうね」

「それは、楽しそうだな」

 登世子から放たれる術を何度か防ぎながら、蓮が眼鏡のずれを直す。

「俺も便乗な!」

 大輝もそう言うと、登世子の周りに火の柱を作り包囲する。

「大輝!! あなたなんて事をしているのよ! あなたが待ち望んだ、陰の神華なのよ!」

 大輝が作った火の柱が揺らぐ。麻美が力に干渉して火柱を消そうとしている。

「別に今更のこのこ出てきた奴なんか、どうでもいい! つーか、邪魔すんなよ!」


「全く、無礼な人達ですね。会話を楽しめないのでしょうか」

 男が鬱陶しそうな髪を横に振りながら嘆く。

「言っとくけど、先に会話する気無くしたのはそっちの、登世子さんだよ」

「えぇ、そうでうね。では、会話ではなく、狩を楽しみましょうか」

「そうね。藤森の血をここで流した方が、封印が解きやすいって、彼が教えてくれたのよ。素敵でしょ」

「その藤森の血って、登世子さんにも流れてるじゃない。そんなに封印解きたいなら、自分の手首でも切れば?」

「貴女の血の方が最適でしょ!」

「いえ、私もそれは名案だと思いますよ。登世子様」

 登世子の着ていた服の腹のあたりが盛り上がったように見えた。その盛り上がりが無くなると、同時に登世子がうめき声をあげて床に倒れた。

「……え?」

 大輝の作った火の玉と、真司達が持ってきた提灯の明かりしかない暗闇で、赤黒いモノが登世子から溢れて流れている。小刻みに震える登世子のその後ろに立つ男は刀が握られていた。刀など所持していなかったはずなのに、その刀の先が濡れている。

 一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 何故、登世子が倒れているのか、男は何故、刀を持っているのか。


「麗華を守れ!」

 初めに反応したのは蓮だった。叫ぶと同時に男に術を使い拘束しようと術を放つ。

「え、なに。何が起きてる? え。どうして?」

「麗華下がれ! ここは危険だ。母屋まで走るぞ!」

 真司が麗華の手を引き、大輝と麻美が蓮に加わり男と戦闘を開始した。

「え、でも」

 小百合と瑛子は彰華の周囲を固めつつ、移動を彰華に促している。茫然と立ちつくす麗華の手を真司が更に強く引く。

「いいから!」

「いいからって! だって、登世子さん倒れてる! ほっとけないでしょ!」

 登世子は痛みにもがきながら、言葉に為らないうめき声をあげて男を見つめていた。

「まずは麗華を安全な所まで連れて行ってからだ!」

「何言ってんの! まずは、怪我人の手当てでしょ!! 誰もやらないなら私がやる!」

 彰華と小百合と瑛子の三人はすでに、離れた位置に避難している。何で人が倒れているのを放って彰華の安全確保を優先するのだろうか。麗華には信じられない。それに今倒れているのは、陰の神華だろう。それを放っていいのか。

 麗華は真司の手を振り払い、登世子の傍に駆け寄った。羽織っていた打掛を脱いで切られた部分に当て、止血を試みる。

「……あなたが、やられれば、よかったのに」

「口から血出しながら、喋らないでよ!」

「……かれが、のぞんだことならば……」

 うつ伏せに為りながら、何か術を唱えようとしている事に気が付いた。まさか、自分を刺した相手の望み通り、藤森の血をここで大量に流すつもりなのだろうか。

 馬鹿げている。

「止めなさいよ、馬鹿!」

 相手が怪我人で重傷を負っている事を忘れて、うつ伏せに倒れている登世子の頬を思い切り叩いた。

「登世子さんが、何をしたいか分からないけど、自分を傷つけた奴のいいなりになるのは止めなさいよ! もっと自分を大事にしなよ!」

「麗華、そいつ、気を失ってる」

「……うそ?」

 死んだようにくたりと倒れた登世子の首に手を当てて脈があるか確認し、蓮達が離れた森の方に男を追いやっている事を見た。離れなら今のうちだ。打掛を刺された場所にきつく巻きつけた。

「真司も運ぶの手伝って!」

 麗華が登世子を起こそうとすると、真司は仕方がなさそうに登世子を横抱きに軽々と持ち上げた。

「あの男については蓮達に任せて、僕たちは下がるよ。良いね!」

 麗華は蓮達の方を心配そうに見て真司に従った。



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