誘惑
最近、ハルさんはあまり外へ出ない。
僕がコンビニへ行って、帰りに煙草や酒を買って帰る。
「ありがと、ユウ」
それだけで嬉しかった。
ある日、シフトが休みだった。
昼過ぎに起きると、ハルさんが珍しく起きていた。
ソファに座って、ぼんやりテレビを見ている。
「おはようございます」
「ん、おはよ」
それだけの会話。
でも、不思議と落ち着く。
「腹減った」
「何か作ります」
冷蔵庫を開ける。
卵。ウインナー。賞味期限ギリギリの豆腐。
質素な飯だった。
でも、二人で食べると妙に美味かった。
「ユウ、ほんと主夫向いてる」
「やめてください」
「俺、ユウいないと死ぬかも」
ハルさんは笑いながらそう言った。
冗談っぽかった。
でも僕は、その言葉に少し安心してしまった。
必要とされている。
ここにいていい気がした。
夜。
二人で動画を見ながら酒を飲む。
ハルさんがソファで眠そうに煙草を吸っている。
その横顔を見ながら、僕はふと思う。
このままでいいのだろうか。
グラオーも、ギルドも、コンビニ以外の人間関係も、全部遠くなっている。
でも、不思議と焦りはなかった。
それより。
もしハルさんがいなくなったら、と思う方が怖かった。
「ユウ」
「なんですか」
「キスしていい?」
酒臭い息。
ぼんやりした目。
冗談みたいな軽い声。
僕は少し黙る。
嫌ではなかった。
むしろ。
断りたくない、と思ってしまった。
「……別に」
その返事を聞いて、ハルさんは少し嬉しそうに笑った。




