表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

進展

「一緒に住まない?」


ハルさんは煙草を咥えたまま、軽い調子でそう言った。


冗談みたいだった。


さっきの薬の件を流したかったのかもしれない。


でも僕は、その言葉を聞いた瞬間、少しだけ安心してしまった。


 


ハルさんは先日、仕事を辞めたらしい。


「介護やってたんだけどさ〜、もう無理だった」


そう言いながら煙を吐く。


「人死ぬの見んの、慣れなくて」


その言い方が妙に軽くて、逆に怖かった。


「金はまぁあるんだけどね。貯金だけはあんの」


「……そうなんですか」


「二十七にもなって無職だけど」


ハルさんは笑う。


二十七歳。


思ったより年上だった。


でも、不思議としっくりきた。


この人はずっと年上みたいでもあるし、ずっと子供みたいでもある。


 


「嫌なら別にいいよ」


ハルさんが言う。


「ただ、ユウといると楽なんだよね」


その言葉が、胸の奥に静かに沈む。


必要とされている。


それだけで、少し救われた気がした。


 


気付けば話はどんどん進んでいた。


家賃。


場所。


荷物。


役所。


まるで最初から決まっていたみたいに、話は妙にスムーズだった。


怖いくらいに。


 


そして数週間後、僕らは本当に一緒に暮らし始めた。


 


生活は、驚くほど静かだった。


朝起きる。


コンビニへ行く。


帰る。


ハルさんがソファで煙草を吸っている。


適当に飯を作る。


深夜、二人でぼんやり動画を見る。


それだけだった。


でも、不思議と苦じゃなかった。


むしろ、一人でいる時より息がしやすかった。


 


グラオーには、段々ログインしなくなった。


最初は「今日だるいね」くらいだった。


そのうちログインする理由そのものが薄れていった。


ゲームの中で会わなくても、隣にいる。


Discordを繋がなくても、声が聞こえる。


『おかえり』


その言葉も、キャラクター名じゃなく、本当の名前で聞けるようになった。


 


ある夜。


酒を飲みながら、ハルさんがぽつりと言った。


「俺さ、ユウのこと好きだよ」


あまりにも自然な口調だった。


僕は少し固まる。


「……え」


「恋愛的に」


煙草の火が赤く光る。


僕は返事ができなかった。


ゲイではない。


少なくとも、今までそう思って生きてきた。


でも。


嫌ではなかった。


むしろ、嬉しかった。


それが何より気持ち悪かった。


「ごめん、困るよね」


ハルさんは笑う。


その笑い方が少し寂しそうで、僕は視線を逸らした。


「……わかんないです」


それしか言えなかった。


恋愛なのかはわからない。


でも。


ハルさんが他の誰かといるところは、想像したくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ