違和感
ハルさんの家に来るのは二回目なのに、どうしてかもう僕の記憶にはしっかりと刻まれていた。
駅前の潰れかけた居酒屋。薄暗い路地。自販機。古いマンション。階段の錆びた手すり。
「ハルさん!」
嫌な予感はずっとあった。ただ、大丈夫であることを願った。
古い付き合いとはいえ、こんなにも心を動かされるのはなぜなのか、自分でもわからなかった。
恋愛感情、とは少し違う気がする。
もっと粘ついた、湿った何かだった。
僕は乱暴にインターホンを押す。
返事はない。
嫌な汗が背中を伝った。
スマホを見る。
既読は、まだついていなかった。
「ハルさん!ハルさん、大丈夫ですか?」
柄にもなく大声で叫ぶ、心臓の音が耳の奥で鳴り響いていた。
「あ〜、、ユウ?どうした〜」
ハルさんは案外あっさりと外に出てきた。寝ていたようだった。
しかし僕はそんなハルさんを見て違和感を感じた。家の中に無言で押し入り、居間のテーブルの上にある大量の酒の缶と薬のシートを見つける。
一瞬、息が止まった。
「……何これ」
ハルさんは後ろでぼんやりと欠伸をしている。
「んー?」
「これ、飲んだんですか」
「飲んだ」
「なんでそんな普通なんですか」
自分でも驚くくらい強い声が出た。
ハルさんは少しだけ目を丸くしたあと、困ったように笑った。
「怒んないでよ」
その言い方が、妙に子供みたいだった。
僕はテーブルに散らばった薬のシートを拾う。空になったPTPが何枚もある。酒の匂いと、煙草の匂いと、生活の腐った匂いが鼻についた。
「死ぬ気だったんですか」
聞いた瞬間、自分の喉が震えていることに気付く。
ハルさんは少し黙ったあと、
「別に」
と呟いた。
「ただ、寝たかっただけ」
窓の外では救急車の音が遠くで鳴っていた。
僕はその言葉を信じられなかった。
でも、それ以上に。
安心してしまった。
まだ生きてる。
そう思った瞬間、力が抜けそうになった。
「……とりあえず水飲んでください」
僕は台所を探る。コップを洗う。散らばったゴミを端に寄せる。
気付けば、自然に身体が動いていた。
ハルさんはそんな僕をソファから眺めている。
「ユウってさ」
「なんですか」
「ほんと優しいよね」
その言葉が、嫌なくらい胸の奥に沈んだ。




