出会い
居酒屋に着いた時点で、僕はもう帰りたくなっていた。
ガラス扉に映る自分の姿が、あまりにも場違いだったからだ。
灰色のパーカー。安物のスニーカー。寝不足の顔。
駅前のチェーン居酒屋は金曜ということもあって騒がしく、大学生らしき集団が大声で笑っていた。ああいうのが苦手だった。耳の奥が痛くなる。
スマホが震える。
『ごめん、仕事入った』
『子供熱出た;;』
『今日無理そうです!』
グループLINEには、そんな文字が並んでいた。
結局来れるのは、僕とタツタさんだけらしかった。
「……はは」
思わず乾いた笑いが漏れる。
オフ会って、もっとこう、青春みたいなものだと思っていた。
すると、
「もしかして、ユウくん?」
後ろから声がした。
振り返った瞬間、僕は固まった。
背が高い。
黒髪。切れ長の目。適当に着ているだけみたいな黒シャツすら様になっている。
普通に、イケメンだった。
「あ、……タツタさん?」
「うん。あー、よかった。人違いじゃなくて」
通話越しより少し低い声で、タツタさん――富山ハルは笑った。
なんでこんな人が毎晩僕とネトゲしてるんだろう、と思った。
もっとちゃんとした人生を送れそうなのに。
「他のみんな来れないっぽいね」
ハルさんはスマホを見ながら言う。
「あぁ……みたいですね」
「じゃ、二人で飲もっか」
その言葉に、僕は少しだけ安心してしまった。
大人数じゃなくてよかった。
知らない人間に囲まれるのは怖い。
でも、タツタさんだけなら。
酒はあまり強くなかった。
一杯目のレモンサワーで頭がぼんやりして、二杯目で世界が少しだけ柔らかくなった。
ハルさんはやたら酒が強かった。
煙草を吸いながら、「女ってほんと無理」とか、「元カノに金全部盗まれた」とか、どうしようもない話を淡々としていた。
「ていうか俺、家事できないんだよね」
「え」
「ゴミとか捨てれない。気付いたら床見えなくなる」
「……」
「引いた?」
少し笑いながらそう言う。
でも、僕は不思議と引かなかった。
むしろ安心した。
完璧な人間じゃないんだ、と思った。
「僕も、部屋、汚いですよ」
「マジ? 同じじゃん」
そう言ってハルさんは笑った。
イケメンなのに、笑い方だけ少し子供みたいだった。
終電を逃した頃には、僕らはかなり酔っていた。
「ホテル取るのだるいし、うち来る?」
ハルさんが煙草の煙を吐きながら言う。
断った方がいい気がした。
でも僕は、
「……行きます」
と答えていた。
その瞬間、何かが始まってしまった気がした。




