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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第48話 四種族の料理対決、それぞれの誇り

 翌日の朝。

 俺たちは鉄の都の専用厨房に集まった。

 俺、エマさん、シエラさん、レイナ。

 四人それぞれが、自分の調理スペースを確保した。

 ドルガン様の厨房は広い。

 四人が同時に調理できる空間が、十分にあった。

 ドワーフ族の料理人が何人か、見学に来ていた。

 彼らは興味深そうに、俺たちの準備を見つめていた。

 ……人間の料理人と、エルフの料理人と、ドワーフの料理人が、同じ厨房に立つ。

 ドワーフ族にとって、歴史的な瞬間らしい。

 俺はその重みを感じながら、調理を始めた。


 まず、エマさんが調理を始めた。

 彼女の動きは力強くて、無駄がなかった。

 巨大な鍋に、鉱山牛の骨髄エキスを入れた。

 その上に、ドワーフの命草を刻んで加えた。

 地下キノコを丁寧に薄切り。

 全部、ドワーフ料理の伝統的な手順らしい。

 でも、彼女の表情には緊張感が漂っていた。

 ……ドワーフ族の誇りを賭けた料理。

 彼女、本気だ。

 俺は感心しながら見ていた。

 その隣で、シエラさんが優雅に調理を進めていた。

 白いエプロン姿。

 彼女の手の動きは、まるで舞踊のように美しかった。

 世界樹の葉を薄く刻む。

 エルフの薬草を、香り立つように配合する。

 動作の一つ一つが、神聖な儀式のように見えた。

 ……エルフ族の料理、本当に芸術的。

 料理を見ているだけで、心が洗われるような感覚。

 その横で、レイナが毒師としての本領を発揮していた。

 彼女の机の上には、無数の小瓶が並んでいた。

 毒物学の知識を、料理に応用する。

 彼女が各植物の毒性を抽出して、料理に加えていた。

 毒を料理に変える。

 それは俺の専門でもある。

 でもレイナのアプローチは、俺と違う。

 彼女は毒を栄養素として抽出する。

 ……すごい技術。

 毒師ギルド総帥としての年月の結晶。

 俺はレイナの横顔を見つめた。

 彼女が本気で、料理人として戦っている。

 その姿は——本当に美しかった。


 俺も調理を始めた。

 目標は『鉄の都の薬膳スープ』。

 ベース:黒鉄の骨髄。

 まず、骨髄を薄く削り取った。

 黄金色の薄片が、まな板の上に広がった。

 【鑑定】が走った。

 骨髄の本来の栄養素が見えた。

 でもそれを最大限引き出すには——他の種族の素材との調和が必要だった。

 俺はエマさんの命草を、少し分けてもらった。

 シエラさんの世界樹の葉も少し。

 レイナの解毒抽出液も。

 各種族の最高素材を、少しずつ組み合わせる。

 でも俺はそれを皆と競うのではなく——融合させたい。

 料理人として、それが俺の流儀だった。

 そして——最後にル・オニオンを加える。

 ベラ亭の看板素材。

 異世界に来てからずっと、俺の料理の根幹にある素材。

 四種族の素材が、一つの鍋に集まる。

 俺の料理人としての夢が——一つのスープに結実する。

 心が躍った。


 調理は半日かかった。

 全員、集中して進めた。

 厨房中に、複数の香りが混ざり合った。

 ドワーフの深い肉の香り。

 エルフの爽やかな植物の香り。

 毒師の独特な薬草の香り。

 そして俺の複合的な薬膳の香り。

 ……四種族の料理、それぞれが個性的。

 俺は最後の調整をしながら、皆の料理を横目で見ていた。

 全員、真剣だった。

 料理人として、最高の舞台に立っている表情。

 俺も自然と、同じ表情になっていたはずだった。


 夕方。料理が完成した。

 俺たちはドルガン様と、息子さんの部屋に向かった。

 息子さんはベッドに起き上がって、座っていた。

 まだ傷は癒えきっていない。

 でも、もう自力で座れるほどに回復していた。

 ドルガンが優しく微笑んだ。

「皆、揃ったか」

「はい」

「料理、楽しみだ」

「ありがとうございます」

「息子もすこし、食事ができるようになってきた」

「お元気そうで、何よりです」

 息子さんが俺に、深く頭を下げた。

「田中殿、命を救ってくれて、ありがとうございました」

「いえ、当然のことです」

「ドルガンの息子、ガレンと申します」

「ガレンさん、お元気で」

「ありがとうございます」

 ガレンさんの声は、まだ弱々しかった。

 でも目には、強い生命力が宿っていた。

 料理人として、命を救えたその結果。

 目の前で見ている。

 俺は深く感動した。


 料理の披露が始まった。

 最初はエマさんだった。

 彼女が自信を持って、料理をテーブルに並べた。

「ドワーフの伝統薬膳!」

「おお」

「鉱山牛の骨髄エキスと、命草の煮込み」

「美味しそうだ」

 ドルガンがスプーンを取った。

 ガレンさんも慎重に、口に運んだ。

 二人の表情が変わった。目を見開いた。

「うむ、美味い」

「父さん、これ、力が漲ります」

「だろう?」

 ドルガンが嬉しそうに頷いた。

 エマさんがぱぁっと、顔を輝かせた。

「ありがとうございます!」

「エマ、上達したな」

「うん、お父さんとおじいちゃんのために、頑張りました」

「素晴らしい」

 ドルガンが深く頷いた。

 エマさんの料理は——ドワーフ族の伝統に忠実な、本物の薬膳料理だった。

 彼女の料理人としての腕、本物だった。


 次はシエラさん。

 彼女が優雅に料理を運んだ。

「エルフ族の世界樹葉のスープです」

「ふむ」

「世界樹の葉に、エルフの薬草を合わせました」

「貴重な素材をありがとう」

 ドルガンがスプーンを口に運んだ。

 彼の目が、わずかに見開かれた。

「……これ、植物の奥深い味わい」

「ありがとうございます」

「ドワーフ族にはない、繊細さだ」

「光栄です」

「エルフ族の料理文化、初めて味わった」

 ドルガンが深く頷いた。

「素晴らしい」

「ありがとうございます」

 シエラさんが優雅に頭を下げた。

 彼女の料理は——エルフ族の伝統美が詰まった、芸術品のようなスープだった。


 次はレイナ。

 彼女がにっこり笑顔で、料理を運んだ。

「毒師ギルドの解毒料理」

「毒師の料理?」

「毒を栄養素として抽出した、料理です」

「ほう」

「人間が食べると、解毒効果と滋養強壮の両方が得られます」

 ドルガンが興味深そうに、味見した。

 彼の目が輝いた。

「これ、面白い料理だ」

「ありがとうございます」

「人間の料理人にも、こんな独特な技法があるのか」

「私、毒師ギルドの知識を、料理に応用しました」

「素晴らしい」

 ドルガンが深く頷いた。

「君は、田中殿の婚約者だな」

「はい」

「いずれベラ亭の料理人として、立つつもりか」

「ええ」

「素質がある」

「ありがとうございます」

 レイナが嬉しそうに頷いた。

 彼女の料理は——毒師の専門知識を料理に昇華させた、ユニークな一品だった。

 俺は彼女の料理人としての、新しい可能性を見ていた。


 最後は俺だった。

 俺は深呼吸して、自分の料理をテーブルに運んだ。

「『鉄の都の薬膳スープ』です」

「ほう」

「黒鉄の骨髄をベースに——」

「ええ」

「エマさんの命草、シエラさんの世界樹の葉、レイナの解毒抽出液」

「!」

「四種族の最高素材を融合した、スープです」

「!?」

 ドルガンの目が見開かれた。

「四種族の料理を融合?」

「はい」

「それぞれの最高の素材を——一つの鍋に集めました」

「……」

「料理大会の最終料理として、考えていたメニューです」

 俺は深く頭を下げた。

「皆様のお力をお借りして、完成しました」

 ドルガンがしばらく、料理を見つめた。

 虹色に輝くスープ。

 黄金色の骨髄が、底で輝いていた。

 香りは——複雑で、深く温かかった。

 ドルガンがゆっくりと、スプーンを取った。

 一口。二口。

 三口目で——彼の目から涙がぽろり、とこぼれた。

 ガレンさんも続けて、味見した。

 彼も目を潤ませた。

「……これ」

「ドルガン様?」

「種族の壁を超えた味」

「!」

「エルフの繊細さ」

「はい」

「ドワーフの力強さ」

「ええ」

「毒師の独特な知識」

「……」

「人間の温かみ」

「……」

「全てが一つになっている」

 ドルガンの声は震えていた。

「これは——本物の料理大会の料理、だ」

 彼が深く頭を下げた。

「田中殿、お前の夢が見えた」

「ドルガン様」

「料理で世界を繋ぐ夢」

「はい」

「私、それを応援する」

「ありがとうございます」

 ドルガンが深く頷いた。

 彼の目には、強い決意が宿っていた。


 その夜、俺たちは対決の結果を、ドルガン様から聞いた。

 四人とも——優勝だった。

「四人とも?」

「ああ」

「皆、自分の最高の料理を出した」

「はい」

「優劣はつけられん」

 ドルガンがニカッと笑った。

「料理大会の本質が、ここにある」

「と、言いますと?」

「優劣ではなく——共存」

「!」

「全ての料理が、それぞれの価値を持つ」

「……」

「それを認め合うこと」

「素晴らしい考えです」

「だから、四人優勝」

 俺たちはお互いに、笑顔で頷き合った。

 料理人として、最高の結果。

 料理大会への、本物の第一歩だった。

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