第3片 死人に口なし⑥―尾行―
お見舞いから2日後。
瀬凪先輩が右でにギブスを付けて学校にやってきた。
「みんな久しぶりー!」
「瀬凪先輩退院おめでとうございます!」
はしゃぐBuzz部のメンバー。
しかしその中で俺とキョーコだけは少し難しい顔をしていた。
「トベッちー、どうしたのそんな難しい顔してー。退院祝ってくれないの?」
「あ、いや!おめでとうございます。」
それもそのはずだ。
ニュースでは奇跡的に無傷だったと報道されたあきら先輩が事件から1回も学校に来ていないのだ。
「あきら先輩は無事なんですか?事件から顔を見てないんですが。」
「んー……。どうだろうねー?大丈夫だと思うけど。」
瀬凪先輩は歯切れが悪そうにそう答えた。
キョーコ曰く、事件が起きてからの数日間も頻繁に強力な魔力が
発生しては消える現象が起きているそうだ。
しかし魔獣が関係してそうな事件やニュースは報道されていない。
その違和感が引っかかっているそうだ。
だから瀬凪先輩にキョーコが見えていなくて正直少し安心している。
今でもキョーコは俺の制服の裾を引っ張り、事故のことについてしつこく質問しろと催促している。
直接話せたらそれこそ地獄のような空気になりそうだ。
「意気地無しエヴァン。」
俺が無視するもんだから、キョーコはスネてしまった。
退院お祝いムードの中そんなこと聞けるわけないだろ!!
「それじゃあ今日は部室に顔見せに来ただけだから帰るね。」
「えー、もう帰っちゃうんですか?」
「もっと居てくださいよ!」
千尋と野々宮の小動物コンビが瀬凪先輩の周りをウロウロする。
「ごめんねー、ちょっと用事があるから。」
「なら送りますよ。カバン持つの大変でしょ?」
「いやいいよ。リハビリリハビリ。」
そう言って瀬凪先輩は不器用にカバンを持ち上げ帰ってしまった。
「怪しいな。退院して早々用事なんてあるか?」
「いや人それぞれあるでしょ。」
「いーや!怪しい!エヴァン、尾行するぞ。」
疑いモードのキョーコは誰にも止められない。
俺の腕を無理やり引っ張るキョーコに困り果て、
千尋の方を向くと千尋もカバンを持ってスタンバイしていた。
おいおいお前もノリノリなんかい。
俺ははぁと溜息をつき、野々宮に言い訳をして3人で瀬凪先輩の尾行することにした。
時間差は少しあったものの怪我をしている人に追いつくのは意外とすぐだった。
校門を出る瀬凪先輩の姿を目撃した。
「あれ?瀬凪先輩の家は逆方向だと思うんだけどな。」
「ほれ見ろ!やっぱり怪しいじゃないか!」
鬼の首を取ったかのようにキョーコは興奮してそう言い放つ。
「寄り道するところがあるのかもしれないだろ。」
探偵のように瀬凪先輩の後を3人で電信柱に隠れながら追いかける。
いやキョーコは隠れなくてもいいだろ。
俺たち以外に見えてないんだから。
そんなこんなしていると瀬凪先輩は見知らぬ家へと入っていった。
「誰の家だろう?」
「よし、侵入するぞ。」
「いやいや!それはまずいだろ!」
「瀬凪は入っていったんだからいいだろ!?」
言い訳あるか。
不法侵入で逮捕されるわ。
ドゴーンッ
家の前でたむろしていると、突然家の中からただならぬ音が聞こえた。
「!? 魔獣の反応だ!!」
「え!?」
「瀬凪が危ない!!行くぞ!」
「お、おう!」
キョーコは躊躇なく玄関の扉を開けて家の中に入りこんだ。
俺達はそれにつられて家の中に駆け込む。
「な、なんだこれは……。」
扉を開けると、家中に獣の引っかき傷のようなものが見て取れる。
所々に黒い模様がある。
深く考えない方が精神的に良さそうだ。
「2階から反応がある!急げ!」
俺達は階段を駆け上がり、キョーコに導かれるように扉の空いた部屋へと入り込んだ。
「瀬名先輩!!」
そこには、何かを抱きしめている瀬名先輩の姿があった。
部屋の家具はひっくり返っており、元の配置が想像できないほど荒れていた。
「大丈夫……。大丈夫だから……。」
俺の大声も瀬凪先輩には届かない程、動揺している。
「うそ……。」
千尋は何かに気づいたように絶句し、口に手を抑える。
「あ、あきら先輩……?」
瀬凪先輩が抱きしめていたのは、右半身が魔獣に変身しているあきら先輩だった。




