第34話 むかついた
「……それで武束、結局君は何をやらかしたんだ。順を追って説明してくれ」
「うむうむ。話はイベント戦の3日目あたりに遡ることになるかな。あの日、僕はスマホにメッセージを貰って校舎裏に呼び出された。添付画像に『覇者』のカードの写真のおまけつきでね」
送り主は、おそらく俺の因縁の相手だろう。
「驚いたよ。なんせ”彼”は君とは真逆で無名の王者だからね。去年の『レジェンドヒーローTCG』の全国大会優勝者だというのに、ネットを調べても彼の顔写真すら出てこない。君が泣き叫んでいるところの写真ならたくさん出てくるというのに」
余計な事は言わなくてもいい。
「大会中もずっと仮面で顔を隠していたというのもあるけどね。そんな彼が、自分の言うとおりにすればゴールドに困ることはない、協力しろと言うわけだよ。僕自身はゴールドを集めて『英雄の飛翔』という幻のカードを手に入れるつもりだからね。『覇者』のカードのこともあるし、ゴールドを集める手段が気になって協力することしにした」
実際にゴールドが少なくて困っている生徒に話を聞いた。彼らもそんなおいしい話にワラにもすがる気持ちで飛びついたのだろう。
「彼の考えは、できるだけゴールドの動きを抑えること。対戦をしなくてもいいような環境を作ることさ」
「……対戦をしなくていい、ね」
ちょっと前の俺なら、そんな方法があるなら飛びついていたかもしれない。
でも、それだったら、『対戦をしたい』という生徒はどうなるんだ。
みんながワイワイ楽しくカードゲームをプレイして、かつゴールドを気にしなくてもいいような状況があればいいのに。
「そのためにはゴールドもカード資産も潤沢な生徒……つまり紙手殿と優馬殿さ。主に2人のような強者を上位から引き摺り下ろし、ゴールドを自分達の所に集めて分散させたかったのさ。だからこそ僕たち3人のチームがイベント戦で勝つのは避けたかったのさ。イベント戦で優勝したらゴールドがたっぷり入るからね」
実際、俺たちはイベント戦で優勝したおかげでかなりゴールドが潤っている。現在3280ゴールド
またパックを買ってもいいし、このまま保持しておくというのもありだろう。
「そこで彼が考えたのがあの2人チーム作戦だ。少ない資産で、僕たちを狙い撃ちにする。みんなのカードを結集させて一つの強いデッキを作って、僕たちが勝たないように仕向ける必要があったのさ」
「でも、どうして俺たちのデッキや奈津をメインに置いていることがばれてたのか……」
言いかけたところでなんとなく予想はついてしまったのだが、武束はさらりと言ってのけた。
「そりゃ、『覇者」のカードと引き換えに、僕が情報を流したからさ。僕ら3人の使うデッキやカードをみんな教えたし、彼らとの戦いではわざと負けた……ひっ! 紙手殿! 殴るのはやめてくれっ!」
奈津が思わず手を出しそうになったのを、ギリギリのところで抑えた。
要するにこいつはスパイだったわけだ。殴りたくなる気持ちはわかる。
「いやいや、悪いとは思ってたんだよ!? 本当に!! でも収集家としての性だから!! 仕方ないのさ!!」
「……まぁ、もう過ぎた事はいいよ」
ただしもう奈津がこいつに何をしようとしても止めないけど。
「それより……間違いなくあいつだった? 『覇者』のカードを買った誰かとかじゃなくて」
あいつが『覇者』のカードを誰かに売って、その人が武束に話を持ちかけたという線も考えられるのだが……。
「いやいや、もし市場に出回っていたなら情報が僕のところに来ないはずがないし、なんとしても僕が一番に手に入れていたさ」
武束がきっぱりと断言したので、その可能性は捨ててよさそうだ。
「しかししかし、結局作戦は失敗した。理由はまぁ、優馬殿が予想以上に粘ったことさ。僕という負け確定の存在、さらにデッキの不利も覆して勝ったのはさすがとしか言いようがない。だがそうなると彼らの内部から不満の声が上がるのも当然だろう。……だから、狩った。君達に負けたという理由で。『レイズチケット』を使って」
「……なんだって?」
『レイズチケット』だって? どうして俺以外の人間がそれを持っているんだ?
「それについては僕も驚いたさ。でも、『レイズチケット』はカードと違って所詮は電子データだ。教師を抱き込んでしまえばどうとでもなる」
「え? 教師……?」
よく知るカードゲームアイドルの葉月先生が思い浮かんだが、武束は首を横に振った。
「葉月先生ではないさ。他の教師連中は、彼女と違ってあんまりカードゲームに積極的ではないからね……味方につけるには好都合だったんだろう。彼らの端末からでも、チケットの付与は行えた。人気の無い19時以降に対戦が行えたのはそのおかげでもある。誰かを無理矢理対戦台に座らせて、『レイズチケット』でゴールドの賭け値を無理矢理上限まで上げて対戦スタート。それで終わりさ」
「まさか……」
そんな事、あっていいのか。
秩序もルールもあったものじゃない。まさに無法地帯だ。
寺岡たちに俺が対戦するのを邪魔された時、葉月先生は『ルールブックに書いてないことはやっても構わないなんて、私は一言も言ってないからね? 対戦は常にフェアに!』と言っていた。
彼女の言う通り、許されることではないだろう。偶然だろうが、かつて師匠も同じ事を言っていたな、と少し思い出した。
「……でも、そんなにゴールドを賭けてもし負けたらどうするつもりなんだ? まさか、対戦中に邪魔をしたりとかするのか?」
その方法で賭けさせてしまっても、もし対戦に負けてしまったらどうするつもりなんだろう。
武束は、ふっと意味深に笑った。
「彼は”予想外の化物”をつれてきた。”絶対に負けない”プレイヤーの前には、何もできない。暴力でプレイを邪魔する方がよっぽどマシさ。そして……次は僕の番だ」
「武束……?」
彼はスマホを取り出して画面を見た。どうやら時間を確認したようだ。
「もうすぐ時間だ。僕も呼び出されていてね。……昨日、3人が順番に対戦台に無理やり座らされて次々とゴールドを奪われているのを見て、思わず抗議してしまったのがシャクに触ったらしい」
こいつ、まさか自分から退学されに行くつもりなのか?
「毎日逃げ続けるのも面倒だしね……なあに。この学園に入ったおかげで『覇者』が2枚とも手に入った。この学校のTCGをコンプリートできなかったのは残念だけど……君達が卒業したら連絡してくれ。高値で買わせてもらうさ」
ちゃっかりしているなぁ。
「本当。いい性格してるよ……」
「いやいや、それほどでもないさ」
「……今ので褒めてるわけないでしょ」
まったく調子のいいやつだ。怒る気にもなれない。
だが、ずっと黙って話を聞いていた少女は、怒る気になったようだ。
「ふん!!」
「ふがっ!!」
武束が一瞬の間にボロクズのように吹っ飛ばされる。奈津が拳を思いっきり降り抜いたのだった。
止める気はなかったが、あまりの速さにそもそも止める隙も無かった。
「むかついた」
「……どうどう」
興奮する猛獣を宥める。気持ちはわかるが。本当はまだ色々聞きたいことがあったのだけど。
……まぁ、その辺は本人に聞くとしよう。
「武束、こんな所に……お前達は?」
その時、2人の生徒が入ってきた。倒れている武束と俺たちを見比べて困惑した表情を浮かべている。
2人とも教室で見た事がある。クラスメイトだ。
ちょうどよかった。
「……武束を教室に連れて行くつもりだったんだろう? こいつを退学に追い込むために」
「な!?」
2人とも驚いて顔を見合わせる。
この様子からするとやはりこの2人、”組織”のメンバーで武束を連れて行くつもりだったようだ。
「代わりに。私達を連れて行って」
奈津の発言に、再び2人は顔を見合わせる。
「どうする?」
「俺たちには判断できない。王に判断を仰ぐしかないだろ」
そう言ってスマホを取り出し、どこかへ連絡を取り始めた。
俺たちはそれをのんびり見つめる。
しかし、”組織”のリーダーの呼称は”王”ときたか。
同じ王でも俺の知る王様とは随分違う。
「王から指示だ。こいつらを連れて行くぞ」
「武束は?」
「放っておいていいそうだ」
「わかった。……お前達、一緒に来い」
2人に連れられて、俺たちは歩き出した。
”王”のいる場所へと。




