第30話 俺には君が必要だ
教室内の空気はどんよりと重かった。
実際に退学者が出ると、問題が生じた。具体的にはいつもより対戦が少なくなった。
最近はイベント戦があったことで、みんなのデッキやプレイングに磨きがかかり、イベント終了後もその熱が収まらずランク戦も活気づいていたのだが、今日はプレイしている人がほとんどいない。
せっかくのいい流れが断ち切られたような気がしてしまう。
「……なんでだ?」
彼のゴールドはマイナス1万。つまりそうとう無茶な賭けをしたことになる。そんな大胆なことをする人間には見えなかったのだが。
『レイズチケット』を使われたのでは? とちらっと思ったが、あれは3枚とも俺のIDカードに紐づけられている。他の人間には使うことができない。
それに一体誰と戦って負けたんだろう。
ランキング表を見ても、そんなに大量にゴールドが増えた人がいるわけでもない。
イベント戦で彼とチームを組んでいた生徒にも話を聞いたが、『自分は彼と組めと言われたから組んでいただけで、親しいわけじゃない。何があったか知らない』とのことだ。
「はぁ……」
教室中聞き込みをしてみたが、昨日彼が戦っているところを見た人もいないらしい。
まさに八方塞がりだ。
しかも、次の日も悪い事は続いた。
「今日も退学者が出ましたッ! しかも3人ッ!」
呉屋君と組んでいたチームメンバーと、俺達のチームが6日目にイベント戦で戦った2人の合計3人だった。
こんなの偶然のわけがない。明らかに何者かの意図を感じる。
だが、それが誰なのかわからない。
昨日と同じように、他の生徒たちに聞いて回ったが、手がかりはゼロだった。
「……何の成果も得られなかった……一体どうすればいいんだろう……」
頭を抱える俺に、奈津は不思議そうに尋ねる。
「別にあなたは彼らと親しかったわけじゃない。なのになぜ?」
なんでそんなに気にするのか? と言いたいらしい。
「彼らは悪い人じゃなかったし……また戦いたかったしね」
本人は中途半端な実力しかないなんていってたけど、そんな事は問題ではない。
彼だってクラスメイトだし、同じカードゲームをする仲間だ。退学して欲しいなんて思えない。
「一人で対戦はできない」
「……ん?」
「誰か。彼のゴールドがマイナスになるまで。追いやった人間がいるはず」
「……そりゃそうだ」
奈津が言いたいのは、誰かが嘘を付いている、ということなんだろう。
……嘘……嘘だって?
もし、嘘が嘘だとわかれば。
「……そうだ、奈津!」
「何?」
「……俺には、君が必要だ!」
「え?」
意味がわからなかったのだろうか。固まってしまった。
だが、そんなことはお構いなしに、思いの丈をぶつける。
「……君さえいれば、どんな困難でも乗り越えられる!! だから、頼む! 俺と一緒に来て欲しい!!」
俺が叫ぶと、どういうわけか周りがざわつきだした。
「あいつ今、『銀雪』に告白した?」「まじかよ、教室のど真ん中だぞ」「やっぱ一度王者になった男だからな。度胸が違う」
奈津は最初ぽかんとしていたが、顔を少し赤らめてもじもじしたかと思うと、こくりと頷いた。
「私でよければ。喜んで」
教室中から歓声が沸いた。
「うおおおおおおおお!!」「すげぇえぇぇえ!!」「おめでとおおおおお!!!」
奈津を含む全員の誤解を解くのにはちょっと時間がかかった。




