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飛空艇にて、空賊と踊れ!  作者: 石動なつめ


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未開領域を抜けて


 甲板に上がってきたヴェントは顔にゴーグルを、腰には私と同じように命綱のワイヤーをつけている。

 彼はそのままこちらへ近づいてきた。


「ちょっと、大丈夫ですか? 額から血が流れていますけど」

「え、本当ですか?」


 思わず触って確認すると、べったりとはいかないが、血がついた。ぶつかった衝撃の方が大きくて、痛みの方には気付かなかったようだ。


「額はともかく、頭は割れてないからセーフですね」

「安心するところはそこじゃないんですけどねぇ」


 良かった良かったと私が思っていると、ヴェントは苦笑する。

 それからジャケットのポケットからハンカチを取り出し、渡してくれた。


「血って落ちにくいですよ」

「いいから。差し出されて使われないハンカチがかわいそうでしょ」


 良く分からない理屈とハンカチの心情を代弁されてしまった。

 何だかおかしくなって、少し笑う。それからお礼を言ってハンカチを借り、額に当てた。


「レーダーの方は良いんです?」

「ロメオに交代してもらいました。モニターで外を確認していたら、あなたが残骸にぶつかったのが見えたから。ああ、心臓に悪い。焦りましたよ、本当に」

「いや、ははは……失礼しました」

「全然心が籠っていませんねぇ」


 ヴェントが肩をすくめた時、再び飛空艇がガクン、と一瞬、大きく揺れた。顔を向けて見れば、飛空艇の真横を大きめの残骸が漂っている。どうやらアレを避けるための動きだったらしい。

 本当に、どのくらいの飛空艇がここで消えていったのだろうか。

 そんな風に思っていると、隣でチッと舌打ちが聞こえた。


「ビアンコの奴……操縦が荒いんだよ、あのクソが……!」


 ヴェントだった。普段の紳士然とした様子はどこへやら、凶悪な顔つきで、低い声でそんなことを呟いている。 

 ぽかんと私が見ていると、視線に気付いたヴェントが「うん?」という顔でこちらを見る。


「どうしました?」

「いえ。ヴェントさんもそういう感じがあるんだなぁと」

「はい?」

「ほら、口調」

「…………ああ、まぁ人間ですからね」


 私がそう言うと、ヴェントは「しまった」という顔になり、手で口を覆った。どうやら無意識のものだったらしい。

 余裕ぶった様子しか記憶にないので、なかなか新鮮だ。


「つまり一粒で二度おいしい的な?」

「おや二度程度とは、私もずいぶんと舐められたもんです」


 ヴェントはクッと笑うと、腰のホルスターから銃を抜いた。


「こちらの手伝いを?」

「そうです。怪我されては困りますからねぇ。大事な取引相手ですし、あと何でしたっけ? 嫁入り前でしたっけ?」

「アハハ、それはどうも。相手いませんけどね!」


 冗談めかして言うヴェントに笑うと、私も銃を構える。

 そうして二人並んで、飛空結晶や残骸を撃ち抜いていく。

 撃って、弾を装填して、また撃って。それを繰り返して行くうちに、気付けばワイバーンの姿は見えなくなっていた。


 やがて白い霧を抜け――――目の前にぱあっと橙色に染まる夕焼け空が広がった。


 未開領域を抜けたのだ。

 綺麗、とひとことで言い表すには足りないくらい、綺麗な空だ。


「何とか抜けましたねぇ」

「ですねぇ。頑丈さが取り柄の飛空艇で良かったですよ。……ま、窓とか割れましたけどね」


 こりゃ整備費用がだいぶかかるな、ヴェントは言う。

 そう言えばと飛空艇を見れば、穴こそ開いてはいないものの、あちこちにぶつかった傷跡が見える。

 少なくとも飛空結晶がぶつかって割れた窓は交換だろうし、壊れている自動操縦の辺りのシステムはきちんと直した方が良いだろう。


「これで飛空艇に戻れば取引終了ですね。……戻るまでがもうひと仕事っぽいですけど」

「ロッソさん、素直に返してくれますかね」

「ま、眠ってる連中の代わりに飛空艇を飛ばさないとですから、私達に構っている暇はないとは思いますが」

「あー……そう言えばルビーノさんの睡眠薬って、効果時間どのくらいなんですか?」

「二、三時間ってところですねぇ」


 二、三時間かぁ。未開領域に入ってから、一時間以上は経っている気がするな。

 そうなると、そろそろ目を覚ます空賊達もいるだろうか。

 兄とロメオは良いとして、戦力外のウィルソンとシンディを連れて対応するとなると、なかなか骨が折れそうだ。


 ちなみに当初の作戦では、兄達を救出したところでマリーノ・ファミリーの飛空艇に連絡し、迎えに来てもらう予定だったのだ。

 小型飛空艇ではさすがに人数オーバーだから、全員を乗せての長距離飛行は難しい。だから全員乗せて飛び立ったあと直ぐに、あちらの飛空艇に回収してもらう予定だったのだ。

 

 それが未開領域に落下したことで少々予定が狂ってしまった。

 場所を報せて来てもらうまでには時間がかかることだろう。ならば、さて、どうしようか。

 いっそマリーノ・ファミリーじゃなくて、シグルド様に連絡してシャヘルの飛空艇に来てもらった方が回収後の手間は省けるんだよな。応急処置自体はそろそろ済んでいるだろうし。

 回収でごたごたしている間にヴェントとロメオには小型飛空艇に乗って脱出して貰えば、彼らとの協力関係を反故することはない。

 彼らを逃がしたとしても、シャヘルの飛空艇に攻撃をしたオーロ・ファミリーを捕まえれば、各方面への体裁も保てる……はず。


 とりあえず、筋書きはそんな辺りで良いだろうか。そう思いながら私はジャケットの内ポケットに入れたタブレットを取り出す。

 そして電話帳からシグルド様の名前を探し、押そうとして、


「………」


 ふと、夕焼けの空を見るヴェントの顔を見た。


『そう言えばヴェントさん達も空賊ってあまり似合いませんね。何で空賊やってるんです?』

『生き方を選んで生きるためですねぇ』


 マリーノ・ファミリーの飛空艇でしたやり取りが頭の中に浮かんできた。

 その時にヴェントは、こうも言っていた。

 どう生きてきたかなんて関係ない。ただ前に、前に進んで行けば良いだけだ、と。

 もし空賊以外でも生き方を選んで生きられるなら、彼らはそれを選ぶだろうか。そう考えたら、ここで別れるのは何だかもったいない気がして、少しだけ聞いてみたくなった。


「そういえば私、留学が終わったら東部シルトムーロに入る予定なんですよ。順当に行けば、一つの隊を受け持つことになります」

「はいはい」

「で、私の役割、カベルネとの国境を超えての警備も込みなんですよ。でも人員編成がまだなんですよねぇ」

「おやおや、それはそれは。無茶なことする隊長さんについた人達はかわいそうだ」

「ええ、かわいそうなんですよ。なので勧誘はこれからです。……で、ご提案なのですが。その頃に空賊に飽きていたら、ファミリー丸ごとスカウトしみて良いですか?」


 そう私が提案すると、ヴェントは大きく目を見開いた。

 何を言っているんだこいつは、という言葉が聞こえてきそうな表情である。


「犯罪者を受け入れるなんてずいぶん馬鹿では?」


 と思ったらストレートな言葉が飛んできた。

 いやまぁ、自分で言っておいて何だけど、当然の反応である。


「まぁ、ええ。だけどあなた達の存在って微妙なんですよね。天秤の傾き具合と言うか」

「傾き具合?」

「ええ。ほら、悪党から奪うのは犯罪ですけど」

「はいはい」

「世間から人気があるし、非公式ではありますが実績はある」


 だからと言って罪がゼロになることはない。

 例え相手が悪党であったとしても、彼らの行動は法律上では罪だ。無罪放免というわけではない。

 私がスカウトしいからしたと言ったって、認められるわけではない。

 けれど。


「あなた達なら飛空艇もあるし、何より腕が良い。まぁね、そりゃあ無罪にゃならないでしょう。でもちょうど良い手土産(、、、)がここにあります」


 私はニッと笑って、足元の飛空艇を指す。するとヴェントは芝居がかった調子でおどけてみせた。

 手土産、つまり、オーロ・ファミリーのことである。彼らを捕まえてカベルネに引き渡すということを私は言った。


「それそれは、実に鬼では?」

「ノア兄さんを人質に取った時点でアウトです。うちの兄、次期東部シルトムーロ長なんですよ。で、その兄も救出したとなれば、我が家での評価はかなり上昇します」

「お忘れのようですが、ロッソを煽ったのは私ですよ?」

「まーそれはそうですけど。あの人、突撃した時に『やべっ』て言ってたでしょう。後の行動は、どう考えても衝動的ですよ」

「ああ、確かに言っていましたねぇ」

「でもそのためには、あなた達の自由と将来を一度、天秤に乗せなければいけません」


 彼らをスカウトするためには、一度はカベルネに捕まる必要がある。彼らは義賊として知られていても、空賊という犯罪者であることには違いがない。

 シャヘル国の法律も、カベルネ国の法律も、彼らを無罪には出来ない。


 けれどシャヘル国の私達やシグルド様と協力してオーロ・ファミリーを捕まえたという事実は、公での実績になる。

 カベルネは彼らの扱いに悩んでいた。ならば一度でも『発表しても構わない手柄』があればどうだろうか?

 非公式だが利用価値のあった人気のある義賊が、公の形で本物の味方になったなら。それはとても美味しい話(、、、、、)ではないだろうか。


 もちろんそれだけでは弱い。そもそも私の嘆願と提案だけでは弱すぎる。

 だから彼らから了承が得られれば、私は直ぐに兄やシグルド様、それからうちの両親を説得し味方につける。説得するための材料と、味方になった時のメリットはすでに浮かんでいる。

 スピード勝負だ。カベルネに「そこまで言うのなら仕方ないな」という譲歩を必ず引き出してみせる。


 ヴェントはしばらく考え込んでいた。

 そうしてどのくらい時間が経っただろうか、再びヴェントは口を開いて、


「……空賊が、色々すっ飛ばして公務員ですか。それはまた、無茶も良いところです」


 そう言って、一度言葉を区切り、


「――――ですが、まぁ、無茶なことをするあなたの下で、大手を振って自由にやるのも、それはそれで楽しそうだ」


 私の方を見てニッと笑った。


「言質とりましたよ」

「ご自由に。生きたい場所でなかったら、また空賊に戻りますけどね」

「もちろんです」

「そうですか、それは楽しみだ。ちょっと惚れそうですよ」

「またまた」

「いやいや嘘じゃありませんから」


 ヴェントはそう言うと拳を作って私の方へ向けた。

 ああ、と理解して、私も真似て拳を作ると、

 トン、

 とお互いの拳を軽く合わせて笑い合った。

本日、20時にもう一話投稿します。

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