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飛空艇にて、空賊と踊れ!  作者: 石動なつめ


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飛空艇の墓場


 シンディとウィルソンをその場に残し、大慌てで操縦室へ向かうロッソの後について行くと、そこでは案の定、床に寝こけている空賊達の姿があった。

 窓から見える外の景色は、先ほどまでの青空とは違い、薄っすらと白い霧に覆われている。まるで雲の中にいるようだ。恐らくここが危険な部類の『未開領域』なのだろう。

 ビアンコは「クソッ、やっぱり外れてやがる!」と言って、操縦席に座って操縦桿を握った。


「ロッソ、整備くらいちゃんとした方が良いですよ。どこを手伝えば?」

「そもそもてめぇらのせいだろチクショウめ! レーダー見てくれ、あと抜け道の方角の算出。俺は砲撃の準備するから、そっちも!」

「了解。ロメオ、砲撃の方を頼みます」


 ヴェントは頷くと、ビアンコの隣の席に座る。ロメオも指示を受けて直ぐ動き出す。

 それからロッソは兄の方を向いた。


「あとそこのお兄ちゃん、シルトムーロの士官か? 操縦サポートの経験は?」

「まだ正式に士官はしていませんが、あります。出来ます」

「オーケー、頼む」


 短くそう言うと、ロッソとロメオは操縦室にある階段降りていく。半階分ずれたくらいの床下に、砲撃手用の部屋があるようだ。


「だいぶ下がってるな……」


 ビアンコが小さく呟く。飛空艇の傾きは直ったものの、高度は下がっているらしい。

 どのくらい落下していたのだろうか。

 自分も何か手伝いをと周囲を見回していると、強化ガラスにカツカツと何かがぶつかる音が聞こえた。

 視線を向けると、青色をした石の欠片のようなものがぶつかっている。その欠片は微かに光りを放っているように見えた。


 あれはたぶん飛空結晶ではないだろうか。飛空艇で使われているものは、もっと強い光りを放っているが、エネルギー切れ近くの飛空結晶はあんな風に光が小さくなったはずだ。

 しかし飛空結晶が何故こんな場所に……。

 そう考えた時、目の前にその答えが現れた。


 折れた木材、砕けた鉄、粉々に割れたガラス。その他もろもろの人工的に加工されたもの。


 ――――飛空艇の残骸だ。


「壊れた飛空艇……?」

「未開領域の別名を知っていますか? 飛空艇の墓場って言うんですよ。ここは未開領域に入り込み、二度と外へ出ることが叶わなかった飛空艇と、飛空艇乗り達の墓場です。どういう原理かは解明されてないですけど、こうして空中に漂っているんですよ」


 まるで亡霊みたいにね、とヴェントは教えてくれた。

 その残骸を上手く避けながら、飛空艇は前に進む。しかし小さいものまで避けるとなると、なかなか難しいものだ。避け切れなかった欠片がカツカツと強化ガラスや飛空艇を叩く。

 ……とりあえず今のところ手伝える部分はなさそうだ。私は寝ている空賊を、邪魔にならないように別の部屋かどこかに移動させてこよう。

 そう考えた私が床でいびきをかいている空賊に近づこうとした時。


 強化ガラスに当たる直前の飛空結晶が、突然、強く光ったのが見えた。


 次いで聞こえたのは

 ガシャン、

 とガラスが割れるような音だった。


「は?」


 音に気が付いて、全員の視線が一瞬その方向へ集まる。

 右側の強化ガラス。その一枚がバキバキにひび割れている。


「……ちょっとロッソ。ガラス代までケチってるんですか、オーロ・ファミリーは」

「ンなわけねぇだろ、うちの船のはそれなりの強化ガラスだよ。何で割れたのコレ?」


 狙撃部屋から顔を出したロッソが、唖然とした顔で言う。


「何か、当たる直前に、飛空結晶が急に強く光りましたよ」

「……それは、あれだね。共鳴現象だ。たぶん、近くに飛空結晶のエネルギーを蓄えたものがいるんだと思う」


 兄は少し考えてそう言った。

 共鳴現象というのは、飛空結晶同士が近づくと、エネルギーが多い側から少ない側に流れるという現象のことだ。

 この現象を利用して飛空艇がエネルギー不足で困っている時に、他の飛空艇の飛空結晶からエネルギーを分けてもらうということもできたりする。

 ただ飛空艇の場合は、飛空結晶が内部に固定されているため、こうして装甲ごしにぶつかった程度では共鳴現象は起こらないはずだ。


 ならば共鳴現象が起きたのはなぜか。

 そう考えて、兄が「エネルギーを蓄えたものがある(、、)」のではなく「いる(、、)」と言ったことが気になった。


「兄さん、飛空結晶のエネルギーを蓄えたものって例えばどんな?」

「未開領域だとたぶん魔獣。その中であれを主食に出来るくらいの奴は……」


 そう言って兄はレーダーに目を落とす。するとポン、とレーダーが何かを察知した音を立てる。


「…………ワイバーン」


 兄の言葉から程なくして飛空艇の前方に――――緑色の翼を持った空飛ぶ竜が見えた。


 ワイバーンとは未開領域に生息する魔獣の一種だ。

 見た目は翼を持った巨大なトカゲに近い。翼と腕の形状はコウモリのそれだ。大きさは飛空艇の三分の一くらいが一般的である。

 主食は飛空結晶などの鉱石や、それに似たエネルギーを持つもの。雷とかも食べるらしいが、その辺りは多少の個体差がある。

 まぁ飛空結晶を動力に動く飛空艇なんて格好の餌だね。


 動きは素早く、その頑丈な顎と牙は飛空艇の装甲すら貫くと言われている。

 その反面、体はそんなに固くない。鱗にこそ覆われているが、一般的な銃弾でも十分に効果があるくらいだ。

 なので素早さにさえ気をつければ、一匹一匹を仕留めるのはそんなに難しくない。

 ただ厄介なのは、ワイバーンは非常に『仲間思い』であるということだ。


 一般的に仲間思いなんて聞けば微笑ましいのだが、ことワイバーンになると話が変わってくる。

 基本的にワイバーンは群れで行動するが、狩り自体は単体だ。なので飛空艇が狙われても慎重に対処をすれば倒すことは可能である。

 しかしここで問題なのは『倒すこと』だ。


 例えば飛空艇が襲ってくるワイバーンを一匹倒したとするだろう。そのとたんに、その飛空艇は倒したワイバーンがいた群れの標的(、、、、、)となる。

 一匹落としたら即座に大量のワイバーンに襲われてしまうのだ。

 これがワイバーンの恐ろしいところで、対処しないと危険なのに、対処しても危険なのである。

 ワイバーンを倒そうとするなら、群れごと倒すという覚悟が必要だ。


 なので未開領域でワイバーンに出会った時の最善策は何かと言うと。

 まぁこれがシンプルに『とにかく逃げろ!』になるわけだ。


 で、それが今、この飛空艇の前を飛んでいる。

 その目はしっかりとこの船を捉えているものだから、襲われるのは避けられないだろう。

 向こうにとってはこっちは餌だ。


「面倒なのが出たぁ……。ビアンコ、できるだけ躱して進め。あいつに多少ぶつかっても、噛みつかれなきゃ何とかなる」

「あいよ」


 ロッソの指示にビアンコは短く返事をする。

 ……だけど、それだけじゃまずいだろうな。先ほどの様子だと、共鳴現象でエネルギーを充填された飛空結晶の欠片で飛空艇が傷つく。

 いわば小さな爆弾のようなものだ。銃弾を防ぐ強化ガラスですら割れるのだ。万が一、ガラスが割れて飛空結晶が中に飛び込んで来たら大惨事である。


 となると当たる前に対処するのが良いか。

 離れた位置にある飛空結晶を撃ち抜けば、先に爆発させられるだろう。

 これなら私でも何とかなるな。小さな欠片だから、飛空艇の砲撃で難しいだろうし。

 そう思ったので軽く手を挙げて提案する。


「私、ちょっと進行方向上の飛空結晶撃ち落としてきますよ。甲板上がります」

「そりゃ有難いがよ、大丈夫なのかオイ。兄ちゃんよ」


 私の提案にロッソがぎょっとした顔で兄に顔を向ける。

 兄は渋い顔になったが「……フォルテなら出来ます」と答えた。


「射撃の腕は僕も保証しますよ。フロスト家の魔弾娘って呼ばれるくらいですからね」

「あ~……そう言えば、うちの連中捕まえた時も、正確に武器だけ撃ち抜いてたって話だったな……」

「さっきもだろ。まさかあの一瞬で武器吹っ飛ばされるとは思わなかったわ」


 ヴェントの言葉に、ロッソとビアンコが思い出したようにそう呟く。

 どうしてそのあだ名を口にしてしまったんだヴェント。

 でもあだ名に関してはさらっと流してくれたようなので有難い。実に有難い。


「じゃあ頼むわ。だけどくれぐれも命綱しっかりしといてくれよ。甲板に階段のところに置いてある。未開領域で落ちたら、助けにはいけねぇからな」

「了解です」


 私は頷くと、操縦室を出て甲板に向かって走り出した。


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