こんにちは、ピカデリー宅配です。
潜入は意外と上手くいった。
小型飛空艇に乗って近づいて「ピカデリー宅配です」なんて名乗ったら、彼らは割とあっさり信じたのだ。
ヴェントは彼らのボスを「馬鹿なんですよ」なんて言っていたが、彼の仲間も似たような感じだったらしい。
ああ、でも、馬鹿という表現は少し違う気もすると私は思う。
何というか、その――――それなりに気の良さそうな連中だったからかもしれない。
格納庫に入れて貰うと、空賊達はわらわらと私達の周りに寄って来る。
多少訝しまれてはいるようだが、ピカデリー宅配の服装には見覚えがあるようで、そこまで敵意は感じられなかった。
そうして集まってくると、その内の一人が、
「えっピカデリー宅配? 誰か頼んだか?」
なんて周りの仲間に聞き始める。
「あー、俺、一昨日なら焼き立てピザ頼んだー。届いた時にすげぇ冷えてたけど」
そりゃそうだろう。どこから配達すると思っているんだ。
内心ツッコミを入れているが、表情は笑顔で固定である。にこにこ笑っていれば大抵のことは何とかなるとは、私の兄の受け売りだ。
兄が始終にこにこして終わったことなんて数えるほどだけど。
ちなみにヴェントは顔を知られているので、ゴーグルをしっかりつけたままでの笑顔である。何かこっちの方が悪い顔に見える。
「通販は誰も頼んでねぇなぁ。……誰からの荷物?」
「ええっと、ちょっと待ってくださいね……あ、ほらこれ。赤いカナリアさんみたいですよ。中身はお酒みたいです。お届け先はファミリーの皆さんになってますね」
ヴェントは演技をしながら、手に持った箱に張り付いた伝票を読み上げる。この箱も、今回の作戦の仕込みだ。
赤いカナリア。名前を聞いたとたん、空賊達は揃って目を丸くした。
「えっマジ? ボスから? わざわざピカデリー宅配使って?」
「そう言えばボス、今日はヴェントにひと泡吹かせてやる前祝いで無礼講だ! って言ってたなぁ」
「えー! すげー! ボス、太っ腹! ひゃっほーい!」
そしていそいそと受け取りにサインをし、箱を受け取ってその場で開封し始める。
中にはカベルネワインの瓶が四本。彼らはそれを手にもって「いやっほーい!」と大喜びである。
空賊の中には「ここにいねぇ奴いるから、ちょっと俺持って行ってくるわ」なんて、他の仲間に分けに格納庫を出ていく気の良い空賊もいた。
そのまま彼らは、私達がいるにも関わらずワインの風を開けて飲み始めた。
「かんぱーい!」
上機嫌にそう言い、グラスを打ち鳴らす音を聞いて、私とヴェントはニヤリと笑みを浮かべる。
アレの中身はただのワインではない。
マリーノ・ファミリーの船医特製の睡眠薬入りのワインである。
そうして彼らが意気揚々とワインを飲み――――ほどなくしてスヤスヤと夢の中へ入って行った。
「この警戒心の無さよ」
寝こけている空賊達を見下ろしてヴェントは苦笑する。
本当に少々心配になるくらい警戒心が薄い空賊達だ。
「そう言えば赤いカナリアって何なんですか?」
「ああ、あれはロッソの偽名ですよ。宅配を頼んだり、宿に泊まったりする時に、あいつは赤いカナリアを名乗るんです」
「赤なのに金とはこれいかに。というかずいぶん可愛い名前を名乗るんですね」
「名は体を現しているでしょう? まぁカナリアみたいな可愛さなんて欠片もないですけど」
ヴェントはそう言うと、格納庫から飛空艇内に続く扉に目を向ける。
向かう先はこの船のボス、ロッソ・オーロの部屋だ。兄たちはそこで捕まっている可能性が高いとヴェントは言っていた。
どうやらここのボスは、大事なものや重要なものは自分の部屋に持って行く癖があるらしい。
「目が届かないと心配になる性質なんですよ、あの人」
とのことだ。意外と心配性らしい。もしくは気が小さいのどちらかだろうか。
まぁ、兄達の居場所を探して全部の部屋を探す手間が省けるのは良いかもしれない。
「ちなみに違った場合は?」
「そこはホラ、居場所を吐かせれば良いんですよ」
「何とまぁ物騒なことを」
「フフ、空賊っぽさがあるでしょう? それに物騒さで言ったら、即座に自分の足を撃ち抜いたあなたに言われたくないです」
上手いこと返されてしまってぐうの音も出ない。
ぐぬぬ、と唸る私を尻目に、ヴェントは「行きますよ」と笑って扉に向かって歩き出す。
さすがにこの場所で置いて行かれてはかなわない。私は慌ててその後を追った。




