空の抜け道
オーロ・ファミリーとは、カベルネ国の空で活動している空賊の一つだ。
ファミリーのボスはロッソ・オーロという男。歳はヴェントより三つ年上の二十五歳らしい。
ヴェントをライバル認定して、事あるごとに突っかかって来るので迷惑だ――なんて彼は言っていた。
まぁ飛空艇で聞いたやり取りは、まさにそんな感じだったけれど。
しかし私は覚えている。あの時ヴェントはロメオと、
『いやボス、そんな呑気な……というかかなり怒ってるじゃないですか。今度は何を仕掛けたんです?』
『いやですねぇ、人聞きの悪い。私はただ、この飛空艇に『マリーノ・ファミリーが狙うお宝が乗っていますよ』って噂を流しただけですよ。嘘は言っていません』
というやり取りをしていたことを。
始まりこそ知らないけれど、突っかかってくる原因の一つはヴェントにもあるのではないかと私は思っている。どう考えても一つ一つの積み重ねが、そういう結果に繋がっている。
さて、そんなオーロ・ファミリーだが。
彼らを乗せた金色の飛空艇は、今現在、カベルネ国内のとある空域を飛んでいる。
そこは『未開領域』と呼ばれる少々危険な空域だった。
未開領域というのは、安全性が確保されていない空域を指す。
そこでは飛空艇を襲う危険な獣――魔獣――が飛び交っていたり、嵐などで破損した船の残骸が漂っていたりと、飛行するにはとても厄介な場所だ。
何故そんな場所にオーロ・ファミリーはいるのか。
実はその未開領域の中に、ぽっかりと出来た安全地帯があるからだそうだ。
ヴェントの話では、未開領域の中にはたまに、魔獣もおらず天候も穏やかな空域が出来るらしい。
仕事を終えたり軍に追われた空賊達は、そこに身を隠すのだそうだ。
しかし、その安全地帯まで行くには、どのみち大変なんじゃないだろうか。そう思って私が聞くと、
「そこはホラ、空賊しか知らない抜け道があるんですよ」
とヴェントは答えてくれた。
どうやら空賊達は、自分達のみが知っている抜け道を使って、安全に通り抜けているらしい。
それはちょっと興味があるな、なんて私が思っていると、
「その抜け道の情報、ものすごく高いので、通る時は目を瞑っていてくださいね」
なんて先に念を押されてしまった。
抜け道の情報は高値で取引されるもののようだ。確かに、その重要性を考えれば、そうなるのだろうなぁ。
見たい気持ちはあったけれど、マリーノ・ファミリーの空賊達全員から『目を瞑れ』という圧力を受けてしまったので、残念ながら見ることは叶わなかったけれど。
いや実は薄っすら目を開けようとしたら、目の前にとても笑顔のルビーノがいてね、ものすごく怖かったよ。この人達何なの。
そんな恐怖体験をしながら私が目を閉じている間に、マリーノ・ファミリーの飛空艇は未開領域を通る。
そうして「もう目を開けていいですよ」と言われた頃には、遠くに金色の飛空艇が飛んでいた。
遠すぎて見えるのはピゼッロ豆の粒くらいの大きさだが、そこはあの金色だ。とても目立つし分かりやすい。
「さて、準備は良いですか?」
ヴェントにそう聞かれた。
ピカデリー宅配の制服に着替えて変装はばっちり。怪我の方もルビーノに痛み止めの注射を打って貰ったので問題ない。銃も借りたから、武器の方も問題ない。
……こうして考えると全部借り物で申し訳なくなるな。
もともと持っていた武器は私と一緒に空に放り出されたからどうしようもないけれど。私の武器はいまどこの地面に落下しているだろう。出来れば誰もいないところに落ちて、怪我人が出ていないと良いのだが。
そんなことを考えながら、
「ええ、もちろん。いつでもどうぞ」
と答える。同じくピカデリー宅配の変装をしたヴェントは満足そうに頷いて「それでは行きましょうか」と歩き出した。
向かう先は飛空艇内にある格納庫だ。そこには二人乗りの小型飛空艇があるらしい。主に買い出しや使っているのだそうだ。
確かにこの飛空艇を着陸させるよりは、小型のもので向かった方が目立ちにくいだろう。
到着してみると空色の小型飛空艇が置かれていた。
「うわ、綺麗」
「うわって」
「何ですか。それではここできゃあとでも言えば良かったです?」
「いやもう今更過ぎて似合わない」
酷い言われようだが、自分でもそれは思う。
シグルド様に師事するようになったことが大きいと思う。あの人の弟子の大体は男の子だった。中には女の子もいたけれど、私と似たようなものである。
まぁそんな環境だったので、私の中の女らしさというものは風前の灯だ。別に悲しくはないけれど。
ああ、そうだ。似合わないと言えば。
「そう言えばヴェントさん達も空賊ってあまり似合いませんね。何で空賊やってるんです?」
「直球過ぎません?」
「思いついたのと聞けるタイミングが今しかないと思って」
私がそう聞くと、ヴェントは少し考えて、
「生き方を選んで生きるためですねぇ」
と答えた。
「生き方ですか」
「ええ。空は自由ですからね。どう生きてきたかなんて関係ない。ただ前に、前に進んで行けば良いだけだ」
そう言ってヴェントは小型飛空艇に触れる。優しいまなざしだった。
「…………なるほど」
「参考になりました?」
「はい、とても」
「それは何より。……まぁ、ずっとこのままってわけにも、行かないでしょうけどねぇ。特にフェルマータはまだ子供だ。いつかは、あの子にだけは違う道を……」
そこまで言って、ヴェントは口を噤む。話し過ぎたと言うように。
そして話を打ち切るように彼はゴーグルを顔にかける。
「……さて、長話はここまでです。では、レディ。行きましょうか?」
「あ、そこはレディなんですね。はい、行きましょう、ミスター」
「アハハ」
せっかくだったのでノッて返すと、ヴェントは楽しそうに笑って小型飛空艇に乗り込んだ。同時に格納庫の扉を開けるように指示を出す。
その声を聴きながら、私も後ろの席に乗り込んでゴーグルをつけ、ベルトを装着する。
ヴェントは一つ一つ安全確認をすると、小型飛空艇のエンジンをかけ――――空へ向かって飛び立った。




